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事例:熊本大学

熊本大学/導入・教育事例

総合工学としての建築教育を実践
熊本大学のBIM活用カリキュラム

熊本大学工学部建築学科が目指すのは「総合工学としての建築教育」です。建物の意匠デザインと構造、環境などの工学的理論を有機的に結びつけ、実際の建物として実現することを目指しています。そのプロセスを学ぶツールとして、BIM対応の3次元建築設計システム「Autodesk Revit Architecture」や、環境解析ソフト「Autodesk Ecotect Analysis」などが重要な役割を果たしています。

Revitによる“建築のリバースエンジニアリング”

熊本大学工学部建築学科では、1980年代からAutoCADを導入し、授業や卒業設計などに使われてきました。2007年、オートデスクの建築用次世代3次元ツール「Autodesk Revit Architecture」(以下、Revit)を導入し、BIMの建築教育への本格導入が始まりました。「BIMを導入した理由は、建物の立体的な形状と図面を結び付けた教育が必要と感じたからです」と大西氏は語ります。

大西助教熊本大学建築学科でBIM教育を担当する大西康伸助教
同大学キャンパス内にある五高記念館同大学キャンパス内にある五高記念館

例えば、3年生を対象とした「デザイン・シミュレーション」(担当:両角光男教授、大西康伸助教)の授業では、有名建築物である熊本草葉町教会(設計:木島安史氏)のBIMモデルを教材として使用しています。学生は各自、Revitを操作して建物をパソコン内で“解体”し、壁や天井の裏に構造部材がどのように入っているかや、サッシ枠と躯体の納まりなどを学んでいきます。同時に、図面との自動的な突き合わせにより、3次元の立体がどのように図面として表現されるのかを学んでいます。

「いわば、“建築のリバースエンジニアリング”です。土の中にある基礎や地中梁などの構造もBIMモデルならよく分かります。また、各部材には属性情報として仕上や下地の種類を入力するので、床や天井などにどんな材料が使われているのかも理解しやすいです。Revitの導入で、建築の成り立ちを理解しやすくなり、効果的に学べるようになったと思います」と大西氏は語っています。

BIMモデル「デザイン・シミュレーション」の授業で使われるBIMモデル
授業風景授業風景

増改築プランをEcotectで工学的に検証

この授業の後半では、教材のBIMモデルを増改築する演習も行われています。そのとき、意匠デザイン面だけでなく、構造や室内の熱・光の環境など、工学的な側面も検討することが授業に盛り込まれています。授業では構造力学は越智健之准教授、温熱環境は長谷川麻子助教、光環境は川井敬二助教が、演習の中でそれぞれ講義を行い、大西氏が学生との間に立って建築設計における意味を解説しています。

これらの解析で使われているのがオートデスクの環境解析ソフト「Autodesk Ecotect Analysis」(以下、Ecotect)だ。学生は増改築の設計をRevitで行った後、そのBIMモデルをEcotectで解析し、建物内部の光分布や温度変化などを検証するのです。

「これまで、熱や光の性質などは、それぞれ独立した科目として学ぶことが多かったと思います。座学で学んだ理論を、BIMを通じて建物に応用することで、建物の工学的なふるまいを直観的に理解することができます」と大西氏は言います。


増改築プランの環境性能をEcotectで検証する学生

この授業に参画した教員自身にも、新たな教育上のアイデアが生まれたようです。温熱環境を担当する長谷川氏は「解析結果を数値として理解するだけでなく、生活における実感と結び付けることの重要性を認識しました」と語っています。

「風速や温度、湿度、放射温度が総合的に、人に与える影響を解明していきたいと思います。そのため、来年度はサーモカメラなどによる実測値と、シミュレーション結果を比較検討することにより、実際の現象と解析結果、そして理論との関係を詳しく研究していく予定です」(長谷川氏)。

学生のBIMスキルに注目し始めた企業

建築業界では、実務へのBIM導入が急ピッチで進んでいます。3次元CADを自由自在に使いこなす学生のスキルには、企業も関心を寄せ始めました。その具体例が、大成建設の協力で行ったインターンシップ(就業体験)です。

大学院修士1年の畑中弘平君は、2010年1月に2週間、同社でRevitによる実務を経験しました。マンションの設計をRevitで効率的に行えるようにするため、実施図面を基にカウンタ ーキッチンや建具、造作家具など、マンション設計に欠かせないファミリ(3次元CAD部品)を作ったのです。

この作業は予定の半分ほどの時間で終わってしまいました。そこで、急遽、畑中君には工場施設の設計をBIMで行えるようにするための課題が与えられました。床面積が5000m2程度の工場の実施図面を基に、建物の内外装、構造部材、設備を統合したBIMモデルをRevitで作成したのです。


(左)インターンシップを行った東京・新宿センタービル。(右)左側は畑中君、右側は大成建設の高取昭浩氏

指導した大成建設設計本部テクニカルデザイングループの高取昭浩氏は「畑中君の実力は思っていた以上だった」と驚きを隠しません。「マンションや工場をBIMで設計する のに必要なデータも整備でき、あと一歩で使えるほどの完成度です。おかげで、懸案事項だったことがかなり解決できました」(高取氏)。

今回のインターンシップは、特別に実施したものでした。今後、BIMの活用スキルがある学生の受け入れについて、同社では前向きに検討したい考えです。

「総合工学としての建築教育」のプラットフォームに

BIMで建築教育を行うと聞くと、水平や垂直を基調としたデザインにしばられると思いがちです。ところが、大学院修士課程で行われている「絵画を建築物に変換する」という授業では、のびやかな作品が続出しています。

担当する大西氏は「絵画から抽象的な線や形状を抽出して立体化します。その立体に壁や屋根、開口部などの属性をRevitで与えることによって、デザインのモチーフを建築物として実現するためのプロセスを学びます。これまで四角い建物のデザインばかりを発想しがちだった学生が、生き生きした作品を作るようになるのでビックリします」と説明します。


絵画から抽象的な線や形状を抽出して建築物を設計する授業で学生が作った作品。Revitがデザインを建築物に具現化する作業をサポートしています

熊本大学建築学科におけるRevitやEcotectは、「総合工学としての建築教育」を実践するため、デザインと建築、意匠と工学、そして大学と企業という様々な要素を結びつけるためのプラットフォームとしての重要な役割を果たしています。


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