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BIM / CIM による投資効果はいくらなのか? 設計者や実務者が定量的評価に挑戦

BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)は、建設工事の品質、工程、コストなどを改善し、生産性向上に効果があると言われる。では投資効果はいくらなのか? この問題に BIM を活用する設計事務所や建設会社の実務者が、2日間取り組んだ。 200億円の建築プロジェクトを例に試算したところ、BIM による利益創出効果は工事費の 10% に及ぶものだった。

BIM 導入効果の定量的評価に取り組む BIM / CIM 実務者たち
BIM 導入効果の定量的評価に取り組む BIM / CIM 実務者たち
講師を務める米国オートデスク建設事業開発統括部門 ワールドワイド・ディレクターのケン・ストー
講師を務める米国オートデスク建設事業開発統括部門 ワールドワイド・ディレクターのケン・ストー

9 月 12 日と 13 日、東京都内でオートデスク主催の「BIM の定量的効果(The Financial Impact of All-In BIM)」と題するワークショップが開かれた。ビルの一室に顔をそろえたのは、設計事務所や建設会社、専門工事会社で BIM を活用する約 30 人の実務者だ。

5 つのテーブルに分かれた彼らが取り組んだ課題は、「BIM を活用することで、どれくらいの投資効果があるのか」を、具体的に計算するものだった。

建設プロジェクトに潜むムダの分類
建設プロジェクトに潜むムダの分類

議論をリードする講師は、米国オートデスクのケン・ストー(Kenneth H. Stowe)だ。建設業界で25 年間、水力発電所やユーロディズニーランドなどの工事でプロジェクト・マネジメントなどを経験した後、2002 年からオートデスクの建設事業開発統括部門に所属している。

ケン・ストーは過去 8 年間にわたって BIM/CIM の導入効果を、学術文献やケーススタディー調査によって研究し、実績に裏打ちされた投資効果を定量的に把握し続けている。その成果をもとに「BIM の定量的効果」と題するワークショップを開発し、世界数十カ国で開催してきた。今回は日本で初めての開催だ。

「ムダ対価値」の研究成果では、価値を生む正味作業は 45.2 %しかなく、過半数がムダな作業であることが明らかになった
「ムダ対価値」の研究成果では、価値を生む正味作業は 45.2 %しかなく、過半数がムダな作業であることが明らかになった

プロジェクトに潜むムダを見える化する

200 億円の病院建設プロジェクトの工事費内訳を円グラフに描いたケン・ストー氏
200 億円の病院建設プロジェクトの工事費内訳を円グラフに描いたケン・ストー氏

「多忙に見える工事現場でも、実に多くのムダが含まれている。ムダこそ生産性の敵だ」とケン・ストーは指摘する。その内容は時間管理から過剰品質、作業の手戻り、情報の不足、工事中の手続きなど、様々なものがある。

「これらのムダは、大抵、前の工程で発生する。そして回避できるものが少なくない。これらは価値の損失を招く特に注意しなければいけないのは、手戻りと工事中の手続きのムダだ」。ケン・ストーはこう語ると、1 つの研究成果を紹介した。

ラウリ・コスケラ氏(Lauri Koskela)による「ムダ対価値」という研究で、施工中のムダを分析した偉大な研究成果だ。工事の総コストのうち、価値を生む作業は全体の 45.20 %に過ぎず、その他は不適切な品質、労力や材料管理、最適でない条件での作業など過半数がムダであることを明らかにしたのだ。

また、「建設現場での手戻りの指標と分類(Measuring and Classifying Construction Field Rework: A Pilot Study)」という研究では、手戻りの内容をさらに詳しく調べた。その結果によると手戻りの 55 %が設計が原因となっており、続いて資機材の供給によるものが 23 %、人材の能力によるものが 18 %となった。

最も大きな手戻り要因となった設計について調べると、設計ミスや見過ごしがうち 7 割を占めた。設計による工事の手戻りは、BIM によって解決できるものが多そうだ。

200 億円のビル建設プロジェクトを例に

建設プロジェクトにおけるムダの理解を深めた後、ワークショップはいよいよ佳境に入っていった。200 億円の病院建設プロジェクトを例にとり、従来の 2D 図面ベースで工事を進めた場合と、BIM を使った場合とで、コストの内訳が具体的にどのように変わるのかを実際に試算してみる作業だ。

「これから、皆さんにとって頭の痛い作業が続きます」とケン・ストーは前置きすると、大きな円グラフを描いた。これがビル全体の工事費だ。

そしてまずは、従来の 2D 図面を用いた場合を仮定して、円グラフを設計費や労務費、材料費などのコストと、建設会社の利益や予備費などに分割していった。例えば労務費は 35 %の 70 億円と見積もった。会場にいるワークショップ参加者の意見を聞きながら、実務での経験値を入れたものだ。

これらのコストが、BIM の導入によって、どう変わっていくかを過去の実例データに基づいて 1 つ 1 つ、試算していこうというのだ。

BIM による干渉解決、RFI の削減の投資効果

例えば設計での施工コスト削減例としては、ポピュラス・アーキテクツが設計し、BAM コンストラクションが施工したリーズ・アリーナがある。
プロジェクトチームは、BIM を活用して初期の設計段階を効率化し、9,000 枚の図面作成のムダを省き。その結果、予想された 100 カ所の設計干渉が、わずか 2 カ所だけになった。

その結果、設計段階で 1 万 5,000 人工が削減され、プロジェクト全体で 35 万ドルの工費削減につながった。

設計があいまいだったり、精度が低かったりすると、RFI(設計についての質疑応答)が増えてしまう。施工者などが設計上の不明点を設計者に問い合わせ、回答をもらう作業だ。実はこの作業は、膨大なコストを発生されているのだ。

RFI を受けた設計者は、設計上の問題を解決し、その内容を書面にして質問者やプロジェクト関係者に通知しなければならない。この作業はほんの 1 時間で終わる場合もあるが、時には何人も集まる会議を開く必要も出てくる。

ケン・ストー氏は「RFI の 1 件当たりのコストは、約 15 万円にものぼる」と説明する。日本のプロジェクトの場合は、それほどの手間やコストはかからないと思われるかもしれないが、その処理にかかる人件費などを考慮すると、このコストも理解できるだろう。表向きは代金の支払いなどない作業なので、見逃されやすいコストと言えそうだ。

RFI は部材同士が干渉している部分で多く発生する。そのため、設計上の干渉を減らせば自動的に RFI も減ってくる。

BIM で図面作成のムダを省き、干渉部分もほとんどなくなったリーズ・アリーナ
BIM で図面作成のムダを省き、干渉部分もほとんどなくなったリーズ・アリーナ
BIM 導入で RFI の件数を推定 75%も減らした水処理場プロジェクト
BIM 導入で RFI の件数を推定 75%も減らした水処理場プロジェクト

BIM による RFI 削減の一例としては、アトランタのアーチャー・ウエスタン社が設計した水処理場の増設工事がある。2D 図面をもとに BIM モデルを構築した費用は 4 万ドルだったが、これにより 15 万ドル分の部材干渉が見つかった。

設計段階で干渉を解決したため、設計変更はゼロになり、RFI の件数も推定で 75 %も減った。
その結果、28 カ月の工期も 5 週間短縮された。

項目別にコスト削減効果を定量評価

ケン・ストー氏は、過去に行われたプロジェクトを紹介しながら、コスト、RFI(設計内容についての質疑応答作業)、設計変更、工程管理など様々な面から BIM 導入による生産性向上の実績データをボード上に書いていった。

プロジェクトによって、効率化の程度はかなり違うが、それぞれの数字は、各プロジェクトの実績の結果という重みを持っている。この数字を多く集めることにより、各項目の BIM による生産性向上の金額が見えてくる。

過去のプロジェクト事例から、様々な面での生産性向上効果を数字で表した。1 つの矢印が 1 つのプロジェクト例を示す
過去のプロジェクト事例から、様々な面での生産性向上効果を数字で表した。1 つの矢印が 1 つのプロジェクト例を示す
BIM によるコスト削減額を定量評価するグループを 回ってアドバイスするケン・ストー氏
BIM によるコスト削減額を定量評価するグループを 回ってアドバイスするケン・ストー氏

ここから先は、各グループの経験と勘が大事になってくる。先に想定した 200 億円の建物建設プロジェクトで、BIM を導入することにより、設計や RFI、施工の手戻り、プレハブ化による利益がどれだけ出るかを予測しながら積み上げていくのだ。

まず、5 つの班それぞれに BIM 導入による設計費、RFI・設計変更、そして運用・維持管理費に伴う投資効果を見積もり、発表した。その数字をケン・ストー氏が平均していった。

設計費は 1 億 4,000 万円のコストアップとなるもの、RFI や設計変更の減少で 2 億 5,500 万円、運用・維持管理ではデータ入力の効率化で 400 万円、各作業の効率化で 4 億円のコストダウンという数字がはじき出された。

「さらに BIM を使うと、現場作業の一部を工場製作に切り替えることができる。同じ部材を作る場合、私の経験ではコストは半減する。70 億円と見積もった現場労務費のうち、いくら分を工場製作に切り替えることができるかがわかれば、その分の 50 %をコストダウンできる。プレハブ化には品質や作業の安全性向上などのメリットもある」とケン・ストー氏は指摘する。

各班は BIM による投資効果を検討し、発表する
各班は BIM による投資効果を検討し、発表する

各班でプレハブ化による労務費の削減効果を計算すると、2 億 6,500 万円のコストダウンになることが明らかになった。

「BIM のシステム導入費は、いろいろな研究によると工事費全体の 1 %くらいだ。200 億円のプロジェクトだと 2 億円のコストアップになる」とケン・ストー氏は、BIM システムの費用をスプレッドシートに入力すると、金銭的な効果は約 10 億円ということになった。工事費の 5 %に当たる額だ。こうして生まれた金額は、建設会社や発注者、設計会社などで適切に分配するべきだ。

最終的に算出された BIM による投資効果は合計で 10億円となった
最終的に算出された BIM による投資効果は合計で 10億円となった

隠れたコストに意識が向いた

ワークショップに参加した日本の実務者は、今回、BIM 導入による投資効果の検討作業を行ってみて、どのように感じたのだろうか。

竹中工務店設計本部 設計企画部部長の能勢浩三氏は「RFI など、日本の建設業界で行われている方法と異なる部分もあるが、プロジェクトに潜む隠れたコストが見える化されるように感じた。会議費などを含めると、RFI の処理に 1 件当たり15 万円かかるというのも、妥当と思った」と語る。

大和ハウス工業商品開発部の伊藤久晴氏は「海外も日本も問題は同じ。BIM 導入による金銭的評価の手法は、日本の実情に合わせることで使えると感じた。費用対効果が定量的に把握できると、BIM 導入の参考になる」と言う。

名古屋工業大学大学院教授の秀島栄三氏は「BIM の投資効果を評価する手法としては、かなり粗い部分もあるが、ともかく数量化することは大事だ。CIM の投資効果も明らかにして、建設分野に発信していきたい」と語る。

ワークショップの最後に、ケン・ストー氏はこう語った。「今回の BIM の投資効果計算で行ったことは、とてもシンプルだ。2 次元図面ベースから BIM ベースに変えていくことによって、生産性が向上するという様々な研究の結果を利用して、計算した。そして海外の研究成果を日本の建設業の費目分類や建設プロセスに当てはめて、どんな効果があるのかをディスカッションしたのだ」。

「BIM を導入するコストも必要だが、それによって様々なメリットも生まれる。では、誰が BIM ソフトやハードの導入費用を負担する。米国では建設会社が、英国ではオーナーがその費用を負担している。日本では誰がリーダーシップをとるべきなのか、考えてほしい。このワークショップ参加者が素晴らしい結果を出すことを祈っている」とケン・ストー氏は締めくくった。

BIM 活用によって生まれた利益は、建設プロジェクトに携わる建設会社やオーナー、設計会社などで適切に分配する
BIM 活用によって生まれた利益は、建設プロジェクトに携わる建設会社やオーナー、設計会社などで適切に分配する