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"超精密"な薬液注入工事で CIM モデルを活用
東急建設が「Point Layout」を測量機器と連携し、作業量を従来の1/4に圧縮

東京・渋谷駅付近で、東急建設は古い橋台を撤去するため、周辺地盤への薬液注入 工事を行った。斜め下方に向かってボーリングし、地下にあるトンネルや建物の基礎などを傷つけず、橋台周囲の限られた地盤だけを改良するという "超精密"な工事を可能にしたのは、オートデスクの CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング) ソフトと、トプコンの測量機を連携させるタブレット用アプリ「Point Layout」だった。

地下埋設物の間を通す "超精密"な薬液注入

東京・渋谷駅の周辺では、大規模な再開発事業が行われている。その一環として行われたのが、東急東横線の旧渋谷駅跡に残っていた橋台の撤去作業だ。

橋台を掘り出し、解体する際には橋台周囲や下の地盤を薬液注入によって改良する必要があった。地上の掘削機から斜め下方向にボーリングを行い、必要な部分だけに水ガラス系の薬液を注入していくのだ。

必要なボーリングは約100本。しかし、現場周辺には様々なライフラインのトンネルやビルの基礎などの地下構造物が密集している。これらを傷つけず、狙った場所までボーリングを行うためには、地盤面上の正確に位置に墨出しを行う必要がある。

そこで施工者の東急建設が利用したのが、CIM モデルと測量機を連携させるオートデスクのタブレット用アプリ「Point Layout」だった。

Point Layout とは、CIM モデルをクラウドサービス経由でタブレットに取り込み、Wi-Fi(無線LAN)でトプコンのレーザー測量機「LN-100」と連携させることによって墨出しを行うシステムだ。

墨出しを担当する技術員が持つタブレット端末で BIM 360 Layoutアプリを開くと、現場のCIM モデルとこれから墨出しを行うポイント、そして プリズムバーの現在位置がリアルタイムで表示される。

そして現在位置から墨出しポイントまでの移動方法や距離を 3D モデルで直感的に案内してくれる。そのため 1 人でも次々とポイントを移動しながら、墨出しを行うことができる。その精度は 3 mm 以内と高い。

Point Layoutを使った墨出し作業のイメージ。奥はトプコンの測量機「LN-100」
Point Layoutを使った墨出し作業のイメージ。奥はトプコンの測量機「LN-100」
タブレットの画面には、墨出しを行うポイントまでの方向と距離を 3D モデル上に わかりやすく表示する
タブレットの画面には、墨出しを行うポイントまでの方向と距離を 3D モデル上に わかりやすく表示する

電力トンネルを 3D スキャナーで点群化

薬液注入工事に先立って行ったのは、現場周辺の地下にある橋台や電力トンネルなどの地下構造物と地上の構造物を Autodesk Civil 3D で CIM モデル化する作業だった。

東急建設 土木事業本部事業統括部 ICT 推進グループ グリープリーダー 小島 文寛 氏
東急建設
土木事業本部事業統括部 ICT 推進グループ グリープリーダー
小島 文寛 氏

東急建設土木事業本部事業統括部 ICT 推進グループのグリープリーダー、小島文寛氏は「これらの構造物は、所有者が別々の場合が多いので、図面が残っていてもお互いの位置関係の整合性がとれていないことがよくあります。そこで Autodesk Civil 3D 上で座標を合わせながら 3D 空間上に配置していきました。CIM モデルの作成は 2 日ほどでできました」と語る。

約 80 年前に建設された橋台は、残っていた図面をもとに 3D モデル化した。また水平・上下方向に複雑なカーブを描く電力トンネルは橋台との位置関係がわからなかったため 3D レーザースキャ ナーを用いて、地上から連続して内部までを計測。その点群データを CIM モデルに取り込んだ。

「こうした作業により、これまでわからなかった地上と地下にある構造物などの位置関係が、Autodesk Civil 3D 上で正確に再現されました。土で見えない地下が見える化されたわけです。 その結果、地上のどの位置からどんな角度、どんな距離で薬液注入のボーリングを行えばよいのかを、3D 空間上で検討することができました」と小島氏は説明する。

斜めボーリングに不可欠な 3D墨出し

こうして作成された CIM モデルは、オートデスクのクラウドシステム「BIM360」を通じてタブレットに取り込んだ。タブレット端末と測量機 LN-100をWi-Fiでつなぎ、BIM 360 Layout アプリを開くと、LN-100 がプリズムバーの位置を 計測し、現在位置がリアルタイムで表示される。

そしてボーリングを始める地盤面上の墨出し位置まで、CIMモデルと座標値を表示しながらわかりやすく誘導してくれるのだ。

Point Layoutを使った墨出し作業のイメージ。奥はトプコンの測量機「LN-100」
Point Layoutを使った墨出し作業のイメージ。奥はトプコンの測量機「LN-100」
タブレットの画面には、墨出しを行うポイントまでの方向と距離を 3D モデル上に わかりやすく表示する
タブレットの画面には、墨出しを行うポイントまでの方向と距離を 3D モデル上に わかりやすく表示する

しかし、鉛直方向へのボーリングと違って、斜め方向にボーリングの場合は気をつけなればならないことがある。それは実際の地盤高が設計と違っていたとき、ボーリングの軸がずれ、埋設物を傷つけてしまう心配があるからだ。

CIM モデル上で作成した薬液注入のボーリング計画図
CIM モデル上で作成した薬液注入のボーリング計画図
薬液注入用のボーリング孔がぎっしりと並ぶ CIM モデル。 斜め方向のボーリングは地盤高に応じて進入位置を変える必要がある
薬液注入用のボーリング孔がぎっしりと並ぶ CIM モデル。 斜め方向のボーリングは地盤高に応じて進入位置を変える必要がある
東急建設 土木事業本部事業統括部 ICT 推進グループ 太田 啓介 氏
東急建設
土木事業本部事業統括部 ICT 推進グループ
太田 啓介 氏

「その点、Point Layoutを使うと、CIMモデル上のボーリング軸と現場の地盤面の交点位置を、LN-100 で現場をリアルタイムに計測しながら求め、墨出し位置へ誘導してくれるので安心でした」と、東急建設土木事業本部事業統括部 ICT 推進グループの太田啓介氏は説明する。

実際の施工時にはボーリングの長さを短くするため、作業前に地盤を掘り下げた。ボーリングの墨出し作業も再び行うことになった。

「Point Layoutシステムを使うと従来のように地盤高の変更に伴う再計算や、測量機やメジャーによる手計測、丁張りの設置が不要なため、現地での作業時間は従来に比べて4 分の 1 に削減 できました。約 100 本行うボーリング作業の墨出しも、数時間ほどで行うことができました」と太田氏は語る。

その後、行ったボーリングや薬液注入作業、地 盤改良は計画通りに進んだ。改良された地盤を掘削して、古い橋台は無事、解体・撤去された。

2D による墨出しシステムは、地盤高が設計と違っていたとき、ボーリングの軸がずれてしまう心配があった
2D による墨出しシステムは、地盤高が設計と違っていたとき、ボーリングの軸がずれてしまう心配があった
CIM モデルと測量機を連動させる「Point Layout」による墨出しは、地盤高が設計と違っていてもボーリングの軸線と 地盤面の交点をリアルタイムに計算し、地盤進入部分の位置を墨出ししてくれるので、ボーリングの軸線は一定となる
CIM モデルと測量機を連動させる「Point Layout」による墨出しは、地盤高が設計と違っていてもボーリングの軸線と 地盤面の交点をリアルタイムに計算し、地盤進入部分の位置を墨出ししてくれるので、ボーリングの軸線は一定となる
CIM Point Layout によって墨出しした位置からボーリングを行い、地盤改良用の薬液を注入する
CIM Point Layout によって墨出しした位置からボーリングを行い、地盤改良用の薬液を注入する
改良された地盤から掘り出された橋台
改良された地盤から掘り出された橋台

オートデスクとトプコンの提携で誕生

電源を入れると自動的に鉛直軸の方向を調整する機能を 搭載した「LN-100」
電源を入れると自動的に鉛直軸の方向を調整する機能を搭載した「LN-100」

測量機として使った LN-100 は、いわば「望遠鏡 のないトータルステーション」のようなマシンだ。現場をよく見通せる場所に設置して、既知の 2 点 を視準するだけで自分の位置が求められる。

また、自動整準機能を搭載しているため、三脚上に据え付けて電源スイッチを入れるだけで自動的に鉛直軸の方向を調整してくれるという便利さもある。

LN-100 の遠隔操作やデータ交換のため、トプコンではAPI(Application Programming Interface) を公開している。Point LayoutはこのAPIを通して、LN-100 との連携を実現している。

米国のトプコン・ポジショニング・システムズ社と米国オートデスク社は、2012 年 12 月に BIM (ビルディング・インフォメーション・モデリング)分野で包括的な業務提携を行って以来、オートデスクの BIM/CIM ソフトとトプコンの測量機器を連携させるシステムの開発を行ってきた。

Point Layout はその成果の1つだ。バーチャルな CIM モデルで設計した構造物を、リアルな現場で再現するための第一歩となる墨出し作業を、 面倒な手作業なしで行えるようにしたことで、現場の IoT(Internet of Things)化はまた一歩、進んだといえるだろう。

小島氏と太田氏