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「BIM/CIMは絶対に外注してはならない」! 植木組が楽しむ"建設DXへの道"

新潟県柏崎市に本社を置く植木組は2016年に土木技術部の3人で、BIM/CIM活用を始めた。以来、実務での4DシミュレーションやMR(複合現実)など、実務での積極的な活用を進めている。「BIM/CIMの内製化」にこだわりながら生産性向上に挑戦する同社の技術者は、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)への道を楽しんでいるかのようだ。

CIM活用開始から3年で早くも局長表彰

植木組は2015年に、オートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)/CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)用ソリューションをまとめたInfrastructure Design Suiteを導入し、翌2016年から土木技術部の3人で本格的なBIM/CIM活用に乗り出した。

以来、同社はCivil 3DやRevit、InfraWorks、Navisworksなどのソフトを積極的に実務に活用してきた。

その成果は、早くも3年後に実った。2019年12月に完成した「新野積橋橋脚その2工事」が発注者の国土交通省 北陸地方整備局に評価され、局長表彰を受けたのだ。

ニューマチックケーソン工法で施工された橋脚
ニューマチックケーソン工法で施工された橋脚
国土交通省 北陸地方整備局に評価され、局長表彰を受けた
国土交通省 北陸地方整備局に評価され、局長表彰を受けた

工事の内容は、信濃川の大河津分水路の河道拡幅に伴って建設される新野積橋(仮称)の橋脚をニューマチックケーソン工法によって施工するものだった。

大きなコンクリート製ケーソンの内部を高圧の空気で満たしながら地下を掘削し、ケーソンを沈下させるという作業を繰り返し、最終的にケーソン内部にコンクリートを充てんして橋脚の基礎を造った。

この複雑な工事の内容を工事関係者間で共有するため、設計図(2D)を元にCivil 3DなどでCIMモデル化した。Navisworksによってわかりやすい4Dシミュレーションを作成したほか、鉄筋や鉄骨の干渉チェックを行って事前に干渉部分を解決したのだ。

ケーソン内部へのコンクリート打設工程を再現した4Dシミュレーション。Navisworksで作成した
ケーソン内部へのコンクリート打設工程を再現した4Dシミュレーション。Navisworksで作成した
現場でのコンクリート打設工程
現場でのコンクリート打設工程
Revitによる鉄筋と鉄骨の干渉チェック
Revitによる鉄筋と鉄骨の干渉チェック

BIM/CIMは絶対に外注してはならない」

代表取締役社長 植木 義明 氏
代表取締役社長
植木 義明 氏

「当初からBIM/CIMは絶対に外注してはならない、と言ってきました。モデル作成に必要なことや、モデルの詳細度を表すLODなどを理解しなければ生産性向上は難しいからです。そのため、内製化に徹底的にこだわっています」と同社代表取締役社長の植木義明氏はBIM/CIM活用方針について語る。

植木組は2021年7月現在までに、発注者指定型のCIM活用工事で3件、受注者希望型または自主活用の工事8件でCIMを活用した。さらにオンライン会議のように立会検査を行う遠隔臨場を4件行っているほか、社内でも東京本店や東北支店などと遠隔臨場を活用した会議を行い、「移動のムダ削減」に効果を上げている。

「BIM/CIMやICT関係のハード・ソフト、クラウドなどを活用する際には、常に何のために使うのかという目的を意識しています」と植木氏は言う。

つまり、やみくもにシステムを導入するのではなく、その見返りとして技術者にとってワーク・ライフ・バランスが取れ「仕事が楽しく」「時間にゆとりができ」生活の多様化に対応できるといった効果を追求しているのだ。こうしたポリシーがあってこそ、社員もBIM/CIMの活用に積極的に取り組むことができる。

新野積橋の橋脚工事の現場事務所で、CIMモデルを使って施工管理を行う女性技術者
新野積橋の橋脚工事の現場事務所で、CIMモデルを使って施工管理を行う女性技術者

4Dシミュレーションで護岸工事を20秒で理解

土木技術部 陶山 直人 氏
土木技術部
陶山 直人 氏

生産性向上と楽しさを両立させた同社のBIM/CIM活用のシーンを見てみよう。まずは2020年11月から同社が施工している発注者指定型CIM活用工事、「大河津分水路渡部地区低水路掘削及び護岸その1工事(2021年完成見込み)の河川護岸工事」だ。

その施工手順は、高水敷を掘り下げて護岸を施工→仮堤を築いて掘削の幅を広げる→床固め工を設置→最後に仮堤を撤去という工程からなる。

これらの工程を従来の2次元図面で説明するためには、数多くの図面を見比べながら工程を一つ一つ、理解していく必要があり、説明には長時間を要するほか、図面を読む力も求められる。

それがこの工事では、Navisworksによって施工ステップをアニメーション化した結果、工程全体をわずか20秒で理解できるようになった。

土木技術部でCIMモデルの作成を担当する陶山直人氏は、「今では2Dの発注図面を1週間程度で3Dモデル化できるようになりました。3Dモデルだと橋や土工事などの複雑な手順を、発注者や協力会社に説明したり、オンライン会議で説明したりするのもスムーズです」とその効果を説明する。

今までの工事実績が評価され、設計段階から建設会社のノウハウを提供する「簡易型ECI方式」によって河川改修や鋼矢板護岸工事も2021年7月に追加で受注することができた。今後、連携会議にて、発注者、設計コンサルタントと3者で協議しながら、詳細設計をまとめ、施工に移る予定であり、コンカレントエンジニアリングとフロントローディングを実践し、手戻り削減によりさらなる生産性の向上を図る。

高水敷を掘り下げて護岸を施工する4Dシミュレーションのひとこま
高水敷を掘り下げて護岸を施工する4Dシミュレーションのひとこま
4Dシミュレーションと同様に進む実際の現場
4Dシミュレーションと同様に進む実際の現場
完成形のCIMモデル。今までの工事実績が評価され、追加工事が受注できた
完成形のCIMモデル。今までの工事実績が評価され、追加工事が受注できた

また新潟県魚沼市で施工中の四日町排水ポンプ場の工事では、植木組が自主的にCIMを活用し、地下のポンプ施設を3D化した。

こうした地下施設を持つ構造物は、図面の線が重なってわかりにくかったり、複数の層に分けて描かれた平面図や立面図などに図面が分かれていたりして、全体像がつかめないことが多い。

この工事では自主的に作成したCIMモデルから、37秒の"水路内ウォークスルー"アニメーションを作成。1分足らずで施設の全貌を理解できるようにした。

地上から見た四日市排水ポンプ場 (地下施設)
地上から見た四日市排水ポンプ場 (地下施設)
地下水路のウォークスルー。地下の水路や勾配などが37秒で理解できる
地下水路のウォークスルー。地下の水路や勾配などが37秒で理解できる

「HoloLens」で未来を施工管理

CIMモデルを使って、これから造る構造物を現場で見る未来指向型の施工管理を試行したのが、2020年度に完成した「H30鬼怒川右岸鴻巣排水樋管改築工事(国土交通省 関東地方整備局発注)」の樋管工事だ。

RevitやCivil 3Dで作成した鉄筋や樋管構造物などのCIMモデルを、MR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens」用に変換し、実際の現場に合わせて見られるようにしたのだ。

その結果、掘削が進む現場で今後、施工される構造物や鉄筋などの位置や高さなどの"未来の風景"をその場で見るというこれまでにない施工管理を体感できた。

また、配筋作業では鉄筋工がHoloLensを着けて、鉄筋のCIMモデルと実際の鉄筋の位置を合わせながら結束作業を行うことにもチャレンジした。こうした作業が実現できると、図面とメジャーはもはや必要なく、HoloLensさえあれば正確な配筋作業が行え、生産性向上につながりそうだ。

この工事は、発注者の関東地方整備局から、このような取り組みも評価され、令和2年度 局長表彰を受けた。

さらに今後は、発注者による立会検査をオンライン会議方式で行う「遠隔臨場」にCIMモデルやHoloLensを利用することも視野に入れている。

HoloLensを着けた施工管理者(左)は、これから造る構造物を現場の風景に重ねて見ることができる
HoloLensを着けた施工管理者(左)は、これから造る構造物を現場の風景に重ねて見ることができる
HoloLensを着けた鉄筋工による結束作業。右側はHoloLensを通して見たCIMモデルと現場の風景
HoloLensを着けた鉄筋工による結束作業。右側はHoloLensを通して見たCIMモデルと現場の風景
関東地方整備局に評価され、令和2年度 局長表彰を受けた
関東地方整備局に評価され、令和2年度 局長表彰を受けた

BIM/CIMで楽しく歩む"建設DXへの道"

執行役員 技術開発部長 兼 新潟本店 土木技術部長 星野 和利 氏
執行役員 技術開発部長 兼 新潟本店 土木技術部長
星野 和利 氏

2016年に3人で始めた植木組のBIM/CIM活用は、この5年間で急速に進化した。今ではCIMのユーザーが集まるCUG(シビルユーザーグループ)新潟分会の主要メンバーとして、北陸地方のBIM/CIM普及をけん引している。

また、新潟大学や長岡工業高等専門学校などにワークステーションを持ってBIM/CIMの出張授業を行ったり、数十人の発注者を招いての現場見学会を開いたりすることもある。

BIM/CIMを学ぶ立場から、教える立場へと変わったのだ。

「ICTやBIM/CIMを使って、発注者などの工事関係者と共にプロジェクトを進めていくのは、土木技術者としてとても楽しいことです」と、執行役員 技術開発部長 兼 新潟本店 土木技術部長の星野和利氏は語る。

「インターネット時代の技術革新は早いので、後追いではいけません。そしてこれから建設業の人手不足はますます大変になる一方なので、これまで5人でやっていた仕事を4人で、3人の仕事を2人でと、ますます省人化も求められてきます。同時に技術屋としては、BIM/CIMやドローン、などの新技術を楽しむことも大切だと思います」(植木氏)。

植木組では今後、BIM/CIMの内製化技術を軸に、ロボットやAI(人工知能)なども活用しながら、建設DXへの道を楽しく歩んでいきそうだ。

植木組のみなさま