AI と対話しながら作業する時代/MCP の登場が試金石に
会場には、MEP の各分野から設備工事会社 7 社の BIM 推進担当約 60 人が詰め掛けた。近年の設備工事会社は社を挙げて BIM データ活用に乗り出す動きが広がっている。ラウンドテーブルは AU 2025 で発表された先進テクノロジーの動向を参考に BIM ワークフローを構築していきたいとの要望を受け、解説の場として企画された。参加者の多くが注目したのは、AI の進展によってオートデスク製品がどう進化するかという点だ。
冒頭、オートデスクの中西智行社長は「AI がツールに組み込まれ、より便利になるというレベルではなく、MCP(モデル・コンテキスト・プロトコル)という共通規格によって、AI がさまざまな外部ツールやデータベースと連携し、業務の在り方を大きく変える可能性を秘めていることをイメージしてもらいたい」と強調した。このように同社の最新ソリューションは AI の組み込みにより、作業効率だけでなく、仕事の進め方自体も進化することを予感させるものとなった。
同社は、機能拡張に加え、他のシステムやデータベースなどとの連携をしやすくするため、1980 年代から各製品の API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開してきた。2000 年代に入ると、クラウドソリューションにも力を注ぎ始めた。ゼネコンや設計事務所など先行する企業では同社の BIM ソフト『Revit』を軸に、API を介して他の業務システムなどと連携させながら最適な業務ワークフローを構築し、Revit データの共有プラットフォームとして『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤に置く流れが広がっている。
同社が AI の研究に乗り出したのは 09 年からだ。18 年には AI ラボを設立し、研究開発を加速してきた。これまで同社が発表した AI 関連の論文は 90 件を超える。23 年 11 月に米国ラスベガスで開いた AU 2023 では次代のプラットフォームテクノロジーとして『Autodesk AI』を発表し、各製品に AI 機能を順次搭載することを宣言した。
AU 2025 では既に公開されている「Autodesk Assistant」のエージェント型 AI による強化が発表された。これまでは聞いたことに対し、AI が答えを返す流れだった。これからはユーザーがやって欲しいと思うことを AI が先回りして実装していく。まさに AI と対話しながら作業が進んでいく時代に入ろうとしている。
ラウンドテーブルで登壇した同社の岡部一郎技術営業本部建築・土木テクニカルソリューションエグゼクティブは、AI が公開されている Revit の API プログラムを探し出し、それを活用するためのコードを作成することで「誰でも手軽に API 連携を活用できる環境が到来しようとしている」と付け加えた。これを可能にする MCP の登場が、同社をはじめとする各ソリューションベンダーにとっての大きな試金石になろうとしているからだ。
プラットフォームの進化が業務変える/設計指示に AI が自動対応
設備工事会社 17 社から約 60 人の BIM 推進担当らが参加したオートデスク主催の第 3 回 MEP(機械・電気・衛生)ラウンドテーブルは、今年 9 月に米国で開かれた同社の国際カンファレンス『Autodesk University(AU) 2025』で発表された先進テクノロジーが今後、BIM の流れをどう変えるかを示す内容となった。
AU 2025 の解説をした同社の岡部氏は「2 年前の AU 2023 ではワークフローにデータを流す必要性を呼び掛け、当社自身がクラウドプラットフォームカンパニーになることを宣言した。AU 2025 ではそのワークフローの中に AI(人工知能)が組み込まれ、プラットフォーム自体がより進化し、業務の在り方を大きく変えていくことを伝えた」と説明した。
企業が BIM を出発点に建設 DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に踏み込む中で、より重要なのは情報を共有する受け皿としてのプラットフォームであり、先行する企業では共通データ環境(CDE)を構築する流れが広がり、その基盤としてオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を導入している。今後、ACC の中に AI 機能を拡充していくことで「業務の幅もスピードも進化し、より多様な BIM データ活用が実現していく」と付け加えた。
同社は AU 2025 の開催に合わせ、AECO(建築・エンジニアリング・建設・運用)向けクラウド『Forma』を刷新し、AI ネイティブなエンドツーエンド型プラットフォームとして提供するとともに、ACC と統合することで企画・設計から施工、運用に至るまでをシームレスにつなぐライフサイクル基盤を実現していくことを発表した。BIM ソフト『Revit』や BIM/CIM ツール『Civil 3D』など各アプリケーションユーザーに、ACC のアクセス権限を与えることも位置付け、CDE の中で作業が進むことが今後の潮流であることを示した。
AI 機能の積極的な導入に伴い、同社はセキュリティー対策として AI マネジメントシステムの国際規格 ISO 42001 の認証も取得した。これは AI を利用したシステムやサービスが急速に広がる中で、生成 AI による機械学習などのデータ安全性を担保する重要な規格となり、23 年 12 月に発行された。同社は BIM ベンダーの中でも先行して認証を取得した格好だ。
既に同社製品では AI 機能による業務の進化が始まろうとしている。例えば Revit では、照度基準に満たないため採光を調整したいと指示を出すと、AI がその問いを受けて窓の大きさを自動で変えてくれる。岡部氏は「Revit と対話しながらモデルが作り上げられる世界が目の前に来ている」と強調した。モデリングだけでなく、気象条件から水セメント比の最適な設定を示すほか、契約仕様書の中を読み解き、どの部分が重要であるかを助言する。同社の維持管理プラットフォーム『Tandem』の事例では現場の IoT(モノのインターネット)センサーと他のシステムをつなぐことで予知管理システムの精度もより進化しようとしている。
同社のアプリケーションでは、AI が公開されている API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を探し、最適なコードを作成して実行するような流れが現実味を帯びようとしている。それを実現するキーテクノロジーが、AI と外部のツールやデータソースを接続するための標準化された技術規格「MCP(モデル・コンテキスト・プロトコル)」だ。ラウンドテーブルでは、建設 DX コンサルティング会社の Arent がその有効性を分かりやすく紹介した。
公開 API つなぎ複数システム連携/MCP で開発費が経済的に
Arent の畠中大地第二事業部部長は、AI(人工知能)の技術規格「MCP(モデル・コンテキスト・プロトコル)」の登場によって「AI がより効率的に複数のソフトやシステムと連携できるようになる」と強調した。今年 9 月に米国で開かれたオートデスクの国際カンファレンス『Autodesk University(AU) 2025』に参加する中で「この流れが自社のシステム開発においても見逃せない動きの 1 つになる」と手応えを口にした。
オートデスクの BIM ソフト『Revit』は、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使って、他のソフトやシステムとつながり、設計の最適解を導き出す。企業にとっては公開されている API だけでなく、自社で独自の API を開発するケースも少なくない。エージェント型 AI システムの登場によって、AI が自律的に考え、公開された API を探し出し、最適な枠組みを提示できるようになる。
畠中氏は「これまでは設計の自動化によって効率的に作業を進めることが重視されてきた。これからは設計を進めながら指示を受けた AI が適切な機器を選定し、最適な配置場所も示してくれるようになる」と強調する。複数人の設計者が連携しながら作業を進めてきた設計の流れは変わり、「設計者 1 人が AI とやり取りしながら作業を進めるような革新的なワークフローがもう技術的には実現可能なところまで来ている」と訴えた。
AI が最良のシステムをつなぎ、最適解を導く。さまざまな外部ツールやデータソースとつながる標準規格の MCP については「UCB コネクター規格『Type-C』のようなもの」と例える。日常生活ではパソコンやスマートフォンなどさまざまなモバイル端末や充電器などの関連機器が Type-C で簡単につながり合う。Revit を標準 BIM システムに定め、営業支援や顧客管理などさまざまなツールと連携する場合、それぞれのシステムなどとの API 連携を開発する必要があるが、MCP によって API 連携する際の連携コストが大幅に削減される。「より簡単にシステム同士をつなぐことができ、開発費用面でもより経済的になる」と付け加えた。
重要なのは、AI のベースとなる良質な情報をいかに蓄積していくかだ。紙に手書きで記したようなアナログ情報(非構造化データ)ではなく、AI がしっかりと読み込めるデジタル情報(構造化データ)の蓄積が求められる。ただ、企業にとっては日々進化を続ける AI テクノロジーのスピードが早く、どのタイミングで本格的なシステム開発に乗り出すべきか悩んでいる状況がある。
畠中氏は「成熟するまで待っているのでは遅く、データを蓄積し、積極的に試行を行い、企業内で議論を深めていくことが、AI 活用や DX 推進の近道である」と呼び掛けた。ラウンドテーブルで登壇したオートデスクの岡部氏も「AI 活用には共通データ環境(CDE)がないと良質な分析ができない。
まずはクラウド環境を整えた上で、業務ワークフローを構築することが欠かせない」と呼び掛けた。
AI テクノロジーの進化によって BIM データ活用の可能性は大きく広がろうとしている。ラウンドテーブルに参加した設備工事会社 9 社約 60 人の BIM 推進担当にとっては、急速に進化する AI の流れの中で、建設 DX 推進の枠組みをどう構築していくべきか、そのヒントを得る絶好の機会となった。
この事例は 2025 年 12 月 15 日から18 日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 BIMソリューションの行方」を再編集しています。






