久米設計のBIMの事例

2025 年 4 月の就任に合わせ、井上社長は社内に設計知を浸透させるための組織として設計推進本部を新設した。本部は設計支援、設計情報、研修企画、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)、パートナーリレーションの 6 室にイノベーションラボを加えた 7 つの機能で構成し、BIM 推進については DX 室が核となり、設計支援室や GX 室などと連携しながら社内横断で BIM データ活用を後押しする枠組みを形づくった。

「あえて推進機能を 1 つに集約することで、組織横断でより迅速な対応が図れる体制に切り替えた。設計品質などの基礎固めとともに、未来に向けた取り組みも含めて幅広く展開する。設計の最前線に立つ設計本部と密接に連携しながら、BIM を軸に設計知としての情報を付加していく役割を設計推進本部が担っていく」と強調する。

今年 2 月には、全社員に向けた BIM VISION のオンライン説明会も開催した。冒頭、井上社長は「設計知を核に新たな価値を生み出していく必要性と、それを実現するための BIM の重要性」について語り、「設計図面を描くことはクライアントのために価値を形にすることであり、それを実現する手段として BIM が欠かせない」と呼び掛けた。

久米設計のBIMの普及計画

オートデスクの BIM ソフト『Revit』を全面導入する同社では、これまでプロジェクトの導入件数で BIM の浸透度合いを見定めてきたが、設計担当ごとに BIM 活用状況にレベル差があり、実態を明確に表すことができなかった。設計者を自ら BIM を扱う「ユーザー」として位置付け、一定のスキルをクリアしたユーザー数をカウントすることで組織としての BIM 対応力を指し示す枠組みに切り替えた。

意匠設計、構造設計、設備設計、コスト積算などの部署ごとに BIM のスキルマップを定義し、それに対して設計者がどこまで対応できているかを 3 段階のレベルで定義した。BIM 設計フローへの理解や Revit 操作など基本的なスキルに加え、専門分野のモデル作成や属性情報の扱いなど専門的なスキルまで幅広く項目を設定し、役職ごとにどこまで習得すべきかを明確に定めた。

同社は 3 段階のうちレベル 2 に達していれば、BIM を使って支障なく業務を進められると位置付けており、その水準をクリアしたユーザー(設計者)数を組織としての目標に位置付けた。現在、レベル 2 をクリアした設計本部の意匠設計者は 4 割、全社では 3 割程度にとどまる。これを 26 年度中には 7 割まで引き上げ、27 年度以降にはユーザー率 100 % を目指す計画を立てる。

Revit を全面導入
Revit を全面導入

VISION 策定の中心的役割を担った DX 室の古川智之室長は「BIM を使った設計が当たり前にできる組織を目指している。設計の在り方を次のステージに引き上げるためにも、BIM は設計者としての最低限の基礎になる」と強調する。社内では BIM の浸透に呼応するように、BIM データ活用を軸にした価値創造の取り組みが一斉に動き出そうとしている。

設計資産として指摘事項を DB 化/構想時から環境性能検討へ

久米設計の設計推進本部では DX 室が先導する形で、BIM データ活用に向けて設計支援室や GX 室との密接な連携が活発化している。DX 室の古川氏は「設計情報を扱うことを得意としている BIM の強みを生かすためにも、各部門が連携しながら最適なデータ活用の枠組みを導き出し、それを組織力として発揮させたい」と思いを込める。

全プロジェクトの設計レビューを担当する設計支援室では、オートデスクの共通データ環境『Forma Data Management』(旧Docs)を活用したデザインレビューシステムを構築した。BIM データとレビューの指摘事項をひも付け、対象の場所を図面上に見える化することで、設計者は指摘事項の重要度などを図面上で確認しながら修正ができる。

設計支援室の矢永勝美室長は「レビューは設計の付加価値となり、それに対して重要度を記す仕組みにした。指摘事項はまさに当社の設計知であり、それをデータ化することで設計資産として積み上げ、設計品質の向上に生かしていきたい」と考えている。既に 25 プロジェクトで試行し、2026 年度からは本格導入する計画だ。古川氏は「今後、指摘内容をいかにカテゴライズしていくかが重要になる。設計知としての指摘事項をきちんとデータベース化することによって、AI(人工知能)活用にもつなげていきたい」と付け加える。

図面シート上の指摘事項確認
図面シート上の指摘事項確認

GX 室でも、新たな BIM データ活用のシステム開発が進行中だ。建築物の新築や増改築では省エネ適合性判定が義務化され、省エネ基準へのより高い対応が求められる中、早期段階から環境性能を把握できる設計の枠組みが重要になってくる。システムは BIM 標準ソフト「Revit」の設計初期段階のデータから環境性能に関連した数値を自動抽出することで、提出が求められる環境シートなどへの転記作業を軽減するものとなり、従来の 2 次元データからの作業と比べ大幅な効率化が実現できる。

GX 室の横山大毅室長は「BIM データを使うことで構想の段階から設備設計に必要な建物の情報が迅速に入手可能となり、早期に環境性能の検討に取り組めるようになる。提案時も環境性能を加味した複数の設計案を示すことができる点も強みになる」と手応えを口にする。オートデスクのプログラミングツール『Dynamo』をベースに、AI ツールを組み合わせたシステム開発と設計フロー構築を進めており、汎用的に設計者が使えるようにアドインツールとして具体化する方針で「早期にシステムを完成させたい」と前を向く。

建物負荷から熱源機器容量への流れ
建物負荷から熱源機器容量への流れ

設計者一人ひとりの Revit 操作スキルを高めながら組織の BIM 対応力を引き上げている同社では、設計活動の中で BIM データを効果的に活用していく流れが広がっている。設計推進本部本部長の鈴木章浩執行役員は「BIM のユーザーが社内で急速に育つ中で、Revit をはじめとする、あらゆるデジタルツールをきちんと有効に使っていくためには設計者の BIM リテラシーも問われる。操作スキルとともにマインドの部分をどう高めていくかにも力を注ぐ」と強調する。

同社では組織として BIM 導入のかじを大きく切ったことで、BIM との向き合い方を通して、設計の在り方を改めて見つめ直すきっかけにもなっている。井上社長は「まさに BIM で大事になるのはインフォメーションであり、クライアントが建築を通して進めていく事業の組み立て部分にも BIM は力を発揮していく。建物完成後の維持管理段階にも、BIM を通してわれわれの設計知が生かせる」と先を見据えている。

設計知の価値を AI で進化させる/眠っているナレッジの共有

久米設計は、AI(人工知能)を使った BIM データ活用の検証にも着手した。今年 2 月に策定した BIM VISION では BIM を使いこなす設計者の習熟度向上とともに、設計活動を通して BIM データ活用の幅を広げていく方針も明確に位置付けた。井上社長は「これから BIM を通じてさまざまなデータやノウハウが蓄積していく。積み上げた設計知の価値を、AI を使ってどう進化させるかが重要になってくる」と強調する。

建築設計 AI プラットフォームを提供する Tektome(東京都渋谷区)とは、過去ナレッジからの設計データベース構築と BIM モデルを AI で自動チェックする検証に着手している。DX 室の古川氏は「われわれの設計知を有効活用していく流れを作っていく中で着目しているのが、設計をアシストしてくれる AI であり、それは業務の自動化にもつながっていく」と手応えをつかむ。

過去にさかのぼって設計図書やデザインレビューで指摘した不具合などの情報が蓄積されているが、そのままでは活用が難しい。データベースとして体系的に整備し、設計者に見える化をしてフィードバックすることが設計技術の基盤づくりに重要になってきている。Tektome との連携によって「眠っているナレッジを吸い上げ、皆で共有できれば、設計品質は格段に高まる。AI がアシストしてくれる形で設計知を常にブラッシュアップしていく枠組みを実現したい」と考えている。

Tektome の BIM-AI 検証
Tektome の BIM-AI 検証

BIM モデルの AI 活用の事例では、例えば本社ビルの BIM モデルから方位別に外部ガラスの総面積を算出してほしいと指示を出すと、AI が自動でプログラムを作成し、どういうステップで BIM モデルを解析すればいいかを自ら判断して結果を指し示す。過去の設計を題材とした AI 活用だけでなく、設計中のプロジェクトを題材に、法規チェックや環境負荷検証も含めたさまざまなシミュレーションを実現する可能性を秘めている。

これまではアドイン開発やプログラミングツールを使って緻密なプログラムを組む必要があったテーマでも、AI が質問の意図をくみ取り、答えを示してくれることから、BIM データの解析や設計シミュレーションへの対応が劇的に変化する期待もある。「われわれにとって重要になるのは過去の図面も含め、AI がきちんと料理できる下地をつくることであり、良質な設計知のデータベースを構築し続けていくことだ」と付け加える。

Tektome とは BIM モデルを AI で自動チェックする検証に着手
Tektome とは BIM モデルを AI で自動チェックする検証に着手

社内では、設計者を BIM ユーザーに位置付けて Revit 活用の浸透度合いを引き上げている。古川氏は「BIM が必須になったことで、日々の設計活動によって Revit データが着実に蓄積されており、われわれが目指す価値創出に向けたさまざまなチャレンジができるようになった」と強調する。

同社は、1932 年の創業から 94 年にわたって蓄積してきた「設計知」を生かす手段として BIM への対応強化に乗り出した。井上社長は「われわれが提供する建築の価値を引き上げるためにも、BIM を軸にしたコンピュテーショナルデザインを導入する効果は大きい。何よりも BIM によって組織が 1 つの方向性に向かった」と実感している。今年 2 月に策定した BIM VISION のスローガンには「新しい創造の力」を掲げた。同社では BIM をきっかけとした価値創造の流れが、組織全体を包み込み始めた。

(左から)矢永氏、鈴木氏、井上氏、横山氏、古川氏
(左から)矢永氏、鈴木氏、井上氏、横山氏、古川氏

この事例は2026年4月13日から16日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 久米設計」を再編集しています。