2024 年 10 月に米国サンディエゴで開かれたオートデスクの国際カンファレンス『Autodesk University(AU)』に参加した小林社長は、海外の最新事例に触れる中で「デザイン(設計)と制作(施工)が BIM データを軸につながることの大切さを改めて実感し、われわれが目指す BIM 活用の方向性が間違っていない」ことを確信した。
現行 3 カ年中期経営計画の 2 年目となる 26 年 1 月期のスタートに合わせ、バリュープロダクションセンターを新設したのも「BIM を軸にデザインと制作が一体的に動き、最前線の事業部門と密接に結びつく流れをつくる」ことが狙いにある。
代表取締役社長
小林 統 氏
これまでデザインと制作の両部門はそれぞれが主体的に BIM を推進していた。バリュープロダクションセンターでは設計と施工の戦略機能を持たせ、その中に DX・BIM 戦略部を設け、両部門が BIM を軸に連携する枠組みを形づくり、その成果を見える化し、事業部門に共有する役割を担う。
「これからは蓄積した BIM データを全社で活用していく。オートデスクとの MOU 2.0 は、次のステージに向けた重要な一歩になる」。22 年9 月に結んだ MOU 1.0 では、蓄積した BIM データを社内で共有する BIM プラットフォーム『Tansei BIM Platform』の構築に力を注いできた。これからはプラットフォーム上で組織が横断的にデータを活用するフェーズになる。
同社はオートデスクの BIM ソフト『Revit』を全面導入し、建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』にデータを蓄積、共有している。MOU 2.0 ではデザインと制作の連携による生産性向上にとどまらず、サプライチェーンを含めた業務プロセス全体の円滑な流れを整えることで、顧客への付加価値提供にも結び付ける。
到達点の指標として、英国の BIM 熟練度レベルを位置付け、中期経営計画最終の 27 年 1 月期をめどに、統合モデルを全社運用する「BIM レベル 3」の到達を目指す。ACC を基盤とした CDE(共通データ環境)で、企画立案から設計、施工、維持管理までの各フェーズをつなぐ流れを構築し、プロジェクト関係者と密接に情報を共有していく。「私自身も先頭に立って BIM が共通言語であることを全社員に呼び掛けていく」と力を込める。
同社の BIM 導入は、16 年にさかのぼる。MOU 1.0 を機に標準ツールとして位置付けた Revit の活用率は着実に高まりを見せているが、まだ完全に移行できたわけではない。「活用しきれていない社員をしっかりと引っ張り上げていくことが重要であり、みんなで取り組む状態にならなければ、BIM レベル 3 の到達はない」と考えている。社内では新設したバリュープロダクションセンターが先導する形で、BIM のスキルアップに向けた新たな仕掛けも動き出した。
皆で進む「歩み寄り」の流れに/慣れ親しむ解説動画も始動
丹青社は BIM の全社展開に向けてデザイン(設計)と制作(施工)の両部門をつなぐハブ機能として、今年 2 月にバリュープロダクションセンターを発足した。石畑和恵執行役員センター長は「連携による付加価値を導くことがわれわれの役割」と語る。社内では BIM 導入をきっかけに、自発的に勉強会を開くチームも出てくるなど、前向きな流れが広がってきた。「挑戦する意識が、個それぞれの自覚となって発展している」と手応えを口にする。
まさにオートデスクと結んだ戦略的提携(MOU 2.0)は BIM の新たなステージに向けた出発点となる。バリュープロダクションセンターの岡崎勝久デジタルクリエイション統括部長は「MOU 1.0 から 3 年を経て、次のステップとして BIM を軸に関係者が密接に連携する姿を目指していく」と焦点を絞り込む。その基盤にオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を置き、丹青社独自の運用ガイドラインに沿って、本格的な ACC の活用が動き出した。同時に「社内の BIM スキルアップも新たなステージに進んだ」と明かす。
デザイン部門では、プロジェクトを通じて BIM を先導する人材として BIM コーディネーターを位置付けており、現時点でデザイナーの 15 % に当たる 50 人を認定している。20 代、30 代の若手が中心となり、BIM を浸透させる流れが着実に広がっている。並行して「これから BIM にチャレンジしていこうという人材の育成にも乗り出した」と付け加える。
これまで同社では、BIM スキルアップの一環として e ラーニングを積極的に展開してきた。解説動画は 30 本を超え、業務の支援ツールとして活用が広がっている。今年 2 月からは BIM に慣れ親しんでもらうための仕掛けとしての解説動画もスタートした。デジタルクリエイション統括部 DX・BIM 戦略部 BIM・AI 戦略課の望月芽衣チーフは「3 次元の考え方を理解し、集計表のつくり方など、少しずつ BIM を学んでもらえるような構成で展開している」と説明する。既に 4 本を配信済みで、1 年を通して計 12 本をアップする予定だ。
このように同社が BIM スキル向上のボトムアップに力を注ぐ背景には、22 年にオートデスクと結んだ MOU 1.0 を出発点に BIM の導入を推し進める中で「見えてきた課題が深く関係している」と岡崎統括部長は説明する。この 3 年間で着実に BIM の活用は拡大しているが、現状では先導役が組織を引っ張り、それに皆がついていくような流れになっている。「先行している人たちだけが進んでしまう恐れもあり、それでは組織力に結び付かない。歩み寄り、皆で進んでいく流れを作ることが重要」と先を見据えている。
一方でマネジメントする側も BIM のリテラシーが十分でない課題も浮き彫りになった。BIM に取り組む目的を理解、把握し、それによってどのような価値を導き出していくか。MOU 2.0 を機にオートデスクが協力する形で、マネジメント層向けの BIM リテラシー教育もスタートする方針だ。
オートデスクの林弘倫テクニカルソリューションエグゼクティブは「ACC 上でデータをやりとりするポイントとして、デザイン部門から制作部門にバトンを渡して終わりではない。デザイン側と制作側を伴奏していくような流れをつくることが何より大切であり、そこには組織内のコミュニケーションが強く求められる」と強調する。
コアコンピタンスの競争力強化/無理なく使えるBIM基盤
「日本の内装ディスプレー業界は BIM の新たなステージを迎えるだろう」。オートデスクの中西智行社長は BIM 活用に向けた丹青社との戦略的提携(MOU 2.0)におけるインパクトの大きさを予感している。2022 年に結んだ MOU 1.0 から、わずか 3 年で提携のステージが更新される状況は「われわれの想定を越えたスピード感があり、丹青社の中で BIM が着実に浸透していることを物語っている」と説明する。
内装ディスプレー業界の大手各社では、丹青社のように BIM の本格導入に踏み切る動きが急速に拡大しているが、BIM をさらに浸透するためには協力会社を含めた業界内の連携が求められる。例えば設備工事業では主要各社が設備 BIM 研究連絡会を発足し、機器メーカーや協力会社の意見を踏まえながらオートデスクの BIM ソフト「Revit」を基盤にした標準化を推し進めている。
オートデスクの鈴木美秀業務執行役員日本地域営業統括建築・土木営業本部長は「設備 BIM と同様に、内装ディスプレー業界の BIM 標準化に向け、社として全面的に支援していきたい」と強調する。
丹青社は Revit の本格導入に合わせ、同じく Revit を推進する同業他社とのコミュニケーションを拡大するほか、Revit ユーザー会「RUG」にも参加し、業界連携に向けた取り組みもスタートした。
内装工事には大工や家具、ボード、クロスなど十数もの専門職種が携わる。丹青社の小林社長は「協力会社を含めプロジェクト関係者が無理なく使える BIM のプラットフォームを確立することはわれわれの使命と捉えている。それが内装ディスプレー業界全体のポテンシャルを引き上げるきっかけにもなる。そのためにも社として BIM データ活用の実績を積み上げることが先決」と思いを込める。
建築確認申請では 26 年春から BIM データから出力した図書を建築確認申請に使う BIM 図面審査がスタートし、29 年春からは BIM データ審査が動き出す。丹青社は、ある内装改修プロジェクトで BIM データによる消防設計事前協議を国内で初めて試みた。バリュープロダクションセンターの岡崎統括部長は「このように社内では将来を見据えた BIM 活用のチャレンジが広がっている」と強調する。
21 年からスタートした社内表彰制度の BIM アワードでは、25 年のテーマに「連携」を設定した。そこには「BIM を軸に組織が一体になって取り組む際、きちんと目的を定め、そこに向かって連携しながら成果を導く」ことの重要性を意味付けている。オートデスクとの MOU 2.0 では関係者が円滑にデータ連携する姿を目指している。今年 3 月に BIM データ作成や人材育成の体制強化に向け、台湾の BIM 関連総合サービス会社「若水國際(FLOW)」と結んだ MOU も、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の観点を含めて人材交流を図る BIM 連携の一環だ。
内装ディスプレー業界では空間提案力が受注の勝敗を大きく左右する。「BIM の導入はデザインと制作の部門連携による生産性向上を目的にしているが、実はわれわれのコアコンピタンスをさらに引き上げるための競争力強化に向けた戦略に他ならない。BIM を最大限に生かし、当社が目指す『こころを動かす空間づくり』を追求していく」。小林社長が先導する形で、丹青社は BIM の新たなステージを駆け上がろうとしている。
前列:左からオートデスク 高柳氏、鈴木氏、中西氏、丹青社 小林氏、石畑氏、岡崎氏
この事例は2025年4月21日から4月23日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 丹青社」を再編集しています。






