同社は千代田化工建設のグループ会社 3 社が統合し、2023 年 4 月に発足した。医薬品、食品、化粧品関連の工場や研究所を中心に建築プロジェクト領域を担うライフサイエンスプロジェクト(LSP)本部に移管した旧千代田テクノエースでは、08 年からオートデスクの BIM ソフト『Revit』を導入し、受注提案を足がかりに設計ツールとして活用の幅を着実に広げてきた。

ただ、21 年に設計プロセスの現状分析を依頼した外部コンサルから、各部門がそれぞれ別の設計ツールを使いデータを変換しながら共有している流れが非効率な現状を生んでいることを指摘された。その解決策として示されたのが BIM の定着であった。建築、設備電気、生産設備の各ユニットからメンバーを選任した BIM 推進タスクフォースを発足し、社長だった伊藤氏がリーダーとして陣頭指揮をとった。「本格的な BIM 導入の動きはそこから始まった」と振り返る。

千代田エクスワンエンジニアリング株式会社 代表取締役社長 伊藤 卓 氏
千代田エクスワンエンジニアリング株式会社
代表取締役社長
伊藤 卓 氏

同社は、エンジニアリング会社として石化プラントをはじめ、多様な産業施設のFS(事業化検討)、FEED(基本設計)、EPC&M(設計・調達・建設・保守)を展開する。野田繁構造改革・デジタル推進担当は「各ユニットのデータをいかに効率的に統合管理できるかが求められている。LSP 本部が先行する BIM の流れを確立し、それを全社展開することが、当社の DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の重点テーマになる」と強調する。

DX 推進では、コーポレート系デジタルとプロジェクト系デジタルの両面から展開し、BIM はプロジェクト系の 1 つの柱に位置付けている。先導している LSP 本部では、導入案件を選別し、受注した建築プロジェクトの約半数で BIM を活用している。坂本昌祥 LSP 本部副本部長は「5 年前に指摘された非効率なデータ受け渡しの課題を解決するため、社内を 1 つのツールに統一することを決め、環境整備を進めている。重要なのはツールの親和性であり、それを実現する Revit をデータ基盤の中心に置いた」と説明する。

医薬品、化粧品などの工場や研究所は建築だけでなく、空調、給排水、電気、生産設備、物流設備など多くの要素技術で構成されている。伊藤氏は「これらの要素技術を BIM によって統合することで、設計品質や業務効率化の側面で大きなメリットが出てくる。アウトソーシング先との協業作業でも同様だ。BIM は全体最適のツールとして機能する」と確信している。

少子高齢化時代の到来で人材の確保が難しくなり、時間外労働の規制も動き出した。BIM は豊富な経験を持つベテラン社員の知識やノウハウをデータベース化する「技術継承の観点でも有効」と考えている。社内ではエンジニアリング(ENG)本部も BIM の活用に取り組み始めた。LSP 本部が支援役となり、全社的な BIM 推進を後押しする流れが色濃くなってきただけに「LSP 本部内に BIM 推進組織の発足も具体化していく」と先を見据えている。

BIM ロードマップ
BIM ロードマップ

建物と生産設備の統合モデル化へ/Revit 軸に密接な連携

オートデスクの BIM ソフト『Revit』を軸とした設計プロセスの確立に乗り出した千代田エクスワンエンジニアリングのライフサイエンスプロジェクト(LSP)本部では、建築、設備電気、生産設備の各ユニットが円滑なデータ連携の環境整備を本格化している。坂本昌祥 LSP 本部副本部長は「社内では他のユニットとの連携を見据える意識が着実に広がっている」と語る。

建築ユニットは、LSP 本部の前身となる旧千代田テクノエース時代から先行して Revit 活用を進めてきた。建築セクションの竹中幸智子氏は「最近は月 1 のペースで各部門からの相談が舞い込むようになった」と話す。社内では LSP 本部の BIM 活用が進展する状況に刺激を受け、エンジニアリング(ENG)本部も BIM 活用に乗り出し始めた。建築ユニットにはパラメーターの設定方法など基礎的な問い合わせだけではなく、BIM 活用のより実践的な相談も出てくるようになった。

医薬品、食品、化粧品関連の工場や研究施設を手掛けている LSP 本部では、設計段階から建築、設備電気、生産設備の 3 ユニットが密接に連携しながらプロジェクトをまとめ上げている。坂本氏は「3 ユニットは施設の与条件を踏まえながら、連携して建物のプランニングを進めている。親和性の高い Revit を軸にツールの統一を図ったことで、より迅速にデータの共有ができるようになった」と説明する。

生産設備ユニットでは、建築と設備電気ユニットが Revit を標準ソフトとして位置付けたことを踏まえ、将来的にどのツールを選択すべきかを入念に検討してきた。最終的にオートデスク汎用 CAD『AutoCAD』のプラント設計に特化した『Plant 3D』を採用した背景には、Revit との親和性に加え、海外とのデータ共有を考えた場合、国産ソフトでは対応が難しいとの判断があった。

生産設備ユニットはオートデスク『Plant 3D』を採用
生産設備ユニットはオートデスク『Plant 3D』を採用

磯誠知セクションリーダーは「原薬工場は建物よりも製造設備が主体となり、装置レイアウトやプロセス配管設計を先行させながら建物との空間調整を行う。限られた空間を使って効率的なプランニングができるかが強く求められる」と説明する。現在は Plant 3D の運用について検証しているが、近い将来には「建物(Revit)モデルと生産設備(Plant 3D)モデルを統合する流れを確立したい」と強調する。

設備電気ユニットでは、Revit の MEP(機械・電気・配管)機能を導入し、環境整備を本格化している。大山龍一ユニット長補佐は「建築ユニットと双方向で密な設計諸元データのやり取りを進めていく上でも、Revit に統一することが最良の選択だった」と考えている。設備工事会社各社が Revit の標準化に向けて設備 BIM 研究連絡会を立ち上げた動きも後押しとなった。

設備電気ユニットは Revitの MEP機能を導入
設備電気ユニットは Revitの MEP機能を導入

医薬品関連施設の設計に必要な空調・衛生設備の部品データ(ファミリ)は現時点で 50 点を整備済みだが、「これを 25 年度中に 150 点程度まで拡充することでより円滑に活用できるようになる」と強調する。建築の部屋情報を設備のスペースに流す仕掛けもオートデスクのプログラミングツール『Dynamo』で実現しており、これを応用する形でコンセントや照明などの自動配置も確立していく方針だ。

LSP 本部では、建築ユニットを起点に設備電気ユニットや生産設備ユニットが密にデータ連携する流れが整いつつある。坂本氏は「BIM を使い、各ユニットの設計を可視化し連携させることで全体調整は円滑に進んでいる。何よりもオートデスクの手厚いサポートがその下支えになっている」と付け加える。

建築、設備電気ユニットの調整会議
建築、設備電気ユニットの調整会議

BIMプラットフォームの確立へ/本部 3 ユニットの融合が進展

千代田エクスワンエンジニアリングのライフサイエンスプロジェクト(LSP)本部では、医薬品・食品・化粧品関連の工場や研究施設を事業化検討から設計、工事まで一貫して手掛けている。プロジェクトの特性に応じて建築や生産設備ユニットの担当者が全体調整役となるPMr(プロジェクト・マネジャー)を担っている。

同社が強みとする医薬品関連の施設は、製造対象によって建物特性が大きく異なる。原薬工場では装置レイアウトやプロセス配管の設計に応じて建物の規模や仕様が決まるため、生産設備ユニットが PMr の役割を担う。製剤工場では建築物としての設計要素が強まることから、建築ユニットが主体になって全体を統括する。

2021 年 8 月に竣工した S 造 4 階建て延べ 1 万1,000㎡ のカナエ栃木工場第 3 工場棟では、建築ユニットの九里俊夫氏が建築主担当として設計全体の取りまとめ役を担った。オートデスクの BIM ソフト『Revit』を効果的に使いこなす社内推進役の 1 人だ。製剤工場は医薬品の品質を担保するため、清浄環境の維持が求められる。「製造工程に応じて、清浄度や内装仕上げ、気密性など細かな仕様を決めていく必要がある。詳細な設計情報をモデル上にインプットすることにより、データベースとして建物情報をトータルに管理ができる Revit の特徴を最大限に発揮し、プロジェクト関係者との調整も円滑に進めることができた」と振り返る。

カナエ栃木工場第 3工場棟の BIMモデル
カナエ栃木工場第 3工場棟の BIMモデル

Revit の活用方針を打ち出したのは 21 年にさかのぼる。旧千代田テクノエース時代に発足した BIM 推進タスクフォースが出発点となり、社を挙げて BIM 導入を進めてきた。それまでは担当者同士の情報交換が不足していたこともあり、担当者それぞれで Revit の描き方が異なり、別の担当が修正を加えることが難しい状況があった。坂本氏は「現在は建築、設備電気、生産設備の 3 ユニットが 1 つになり、本部内の融合が進んでいる」と手応えを口にする。

千代田化工建設のグループ 3 社が統合した同社は、23 年 4 月の発足から丸 2 年が経過した。野田氏は「発足初年度は旧社それぞれのことを知る共有の 1 年だった。2 年目の 24 年度は BIM を柱にプロジェクト系デジタルの DX 推進に力強く踏み出した。そして 25 年度からは本格的な BIM 活用に向けて走りだすフェーズに入る」と明かす。DX 推進には BIM 推進関係者を含むプロジェクト部門にコーポレート部門の IT マネジメント部なども加わり、総勢約 50 人の体制で挑む。

伊藤卓社長は「社を挙げて取り組む DX 戦略の 1 つの柱は BIM であり、これは当社にとっての成長戦略に他ならない」と思いを込める。既に 19 年からはベトナムの設計支援会社 ACSD 社(Aureole グループ)と連携した Revit のワークシェア体制も確立している。「このようにアウトソーシングを効果的に取り入れながら、業務効率化や組織の人的資源の最適化を図り、社員 1 人当たりの生産性をさらに引き上げていく」と強調する。

その目線は 10 年先に向けられている。「組織規模を維持したまま、業績を着実に拡大していくには、BIM を軸にしたプラットフォームを確立し、さらに生産効率を引き上げていく必要がある」。同社の BIM は LSP 本部を起点に、社内の各本部や千代田化工建設グループ、さらには海外にもつながろうとしている。同社は BIM の階段を力強く上り始めた。

BIM 推進の関係者
BIM 推進の関係者

この事例は2025年4月14日から4月17日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 千代田エクスワンエンジニアリング」を再編集しています。