「本当の意味の BIM に取り組みたい」。大井手太上席執行役員技術本部長は設計から施工、維持管理に至るまで一貫して BIM データを利活用する流れを強く意識している。既に施工現場では、さまざまな ICT ツールを活用した品質向上や業務効率化が広がっている。「現場の便利ツールと BIM データを密接に連携することがさらなる生産性向上を実現し、働き方改革につながる。建設ライフサイクルを通して BIM データを有効に活用できる最適なツールを定着させたい」と焦点を絞り込む。

MOU では、空調・衛生・電気の連携ワークフローを確立する上で、オートデスクの BIM ソフト『Revit』と建設クラウドプラットプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を使い、CDE(共通データ基盤)環境を構築し、業務ワークフローの高度化を実現することで合意した。「当社は以前から別の BIM ソフトを使っているが、Revit についても将来の発展性や業界の動向を踏まえながら活用していきたい」と明かす。

BIM と ICT の連携で生産性向上を実現
BIM と ICT の連携で生産性向上を実現

その背景には、ダイダンを含む設備工事会社 9 社が加盟する設備 BIM 研究連絡会で Revit を軸に BIM 標準化を進めている状況がある。Revit をはじめとするオートデスク製品が API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開しており、社内の基幹システムや現場の便利ツールと密接な連携を図りやすい、自由度の高い機能拡張性も大きな魅力だ。

MOU を機に、社内では Revit 活用を本格的にスタートすることを決めた。近年はデータセンターなど外資系の建設プロジェクトで Revit 指定の案件も出てきた。各支店で年 1、2 件を Revit のトライアルプロジェクトに定め、他の BIM ソフトとの比較検証も進めていく方針だ。現在の Revit 導入率は「まだ高くはないが、2-3 年後には一気に割合を引き上げていく」と先を見据えている。

今年 1 月末には技術本部の中に BIM・ICT 推進部も発足した。山中社長は「最前線の現場が日々の業務をこなしながら新たなソフトを実践していくことは大変な作業になる。この部隊が下支え役となり、BIM 活用の流れをしっかりと形づくる」と力を込める。同推進部の人員も 4 月をめどに倍増する計画だ。

2030 年を見据えた長期ビジョンで総合設備工事から「空間価値創造」企業への進化を掲げる同社は 25 年 3 月期から 3 カ年の現行中期経営計画で「グループ総合力の強化」をテーマに置き、BIM を活用したワークフロー改革を成長戦略の 1 つとして位置付けている。「絶好のタイミングでオートデスクと MOU を結ぶことができた。計画 2 年目になる 26 年 3 月期は当社にとって BIM 活用に向けた意識改革の年になるだろう」と焦点を絞り込む。

起点となったオートデスクとの MOU
起点となったオートデスクとの MOU

ターゲットは来春の BIM 図面審査/オフサイト生産の生命線に

ダイダンは 2024 年 10 月にオンラインの建設 DX 説明会を開き、全社員に向けて BIM と ICT の推進方針を示した。ここで 25 年度までに BIM 対応プロジェクトを 5 割以上確保する数値目標も掲げ、対象案件を着実に増やすことで組織としての BIM 対応力を引き上げていくことを共有した。BIM 活用に向けて今年 2 月にオートデスクと結んだ MOU(戦略的提携)は、その流れをくんだ取り組みの  1 つになる。

杉浦聡理事技術本部設計統括兼設計統括部長は「設計、施工の各部門でオートデスクの『Revit』を積極的に使い、その良さを実感してもらうところから進んでいく。まずは全支店が活用できる状態に持っていくことが先決」と強調する。目線の先には、BIM 確認申請への対応がある。国土交通省は 26 年春から BIM データから出力した図書を建築確認申請に使う BIM 図面審査をスタートし、29 年春からは BIM データ審査に乗り出す。

国土交通省の BIM確認申請に普及時期を設定
国土交通省の BIM確認申請に普及時期を設定

申請者にとっては BIM によって図面の整合性が担保されていることから審査時間が短縮されるメリットが生まれる。社を挙げて BIM 導入にかじを切ったゼネコンや組織設計事務所が積極的に乗り出せば、設備工事会社側も対応せざるを得ない状況が広がる。「当社にとっても BIM 普及のターゲットとして 26 年春を位置付けている」と明かす。

Revit 活用の出発点になったのは、2 年前にさかのぼる。24 年 1 月に竣工した新潟支店建て替えプロジェクトでは設計図面を Revit モデルに変換し、オートデスクのクラウドシステム「BIM 360」(現Autodesk Construction Cloud)でデータを統合管理した。「Revit を使って設計、施工段階それぞれで何ができるかを徹底して検証した初のトライアルプロジェクトでもある」と付け加える。

現場では、BIM データと連携した墨出し、天井内設備共通架台による施工、遠隔進捗管理や部材管理などにも取り組み、クラウドを介して指摘事項チェックや関係者との情報共有を密に進めてきた。大井手氏は「新築プロジェクトでは設計・施工で取り組める機会は少ないだけに、自社案件としてさまざまな BIM 活用を試すことができた効果は大きい。ここで抽出した課題はオートデスクと MOU を結ぶ際のベースになっている」と明かす。

自社の開発案件は新たな技術を展開する絶好の場となるだけに「今後、タイミングよく案件が出てくれば空調、衛生、電気設備の連携 BIM にも取り組みたい」と考えている。設計・施工への BIM 活用については、改修プロジェクトでの積極展開も見据えている。「改修後の維持管理にもデータを活用できることから規模や工事特性を見ながら BIM の活用を推し進めていく」と明かす。

社を挙げて BIM 活用にかじを切った山中社長は、生産合理化の一環として取り組むオフサイト生産への展開にも「BIM データが生命線になる」と確信している。現場以外の場所で配管などを加工するオフサイト施設は関東(川崎市)、関西(奈良県天理市)、名古屋(名古屋市)、九州(福岡県宮若市)などのエリアに設けており、現在は北陸にも計画中だ。設計段階で作成した BIM データをオフサイト施設の部材加工へとリアルタイムにつなぐことで、より機動的に施工現場への部材搬入が実現する。「いわば BIM データは当社にとっての情報インフラになり、現場の省力化や省人化を支える基盤になる」と手応えを口にする。

Revit活用の出発点は新潟支店建て替えプロジェクト
Revit活用の出発点は新潟支店建て替えプロジェクト

価値創出に向けたワークフロー改革/データ活用の価値最大化へ

ダイダンの山中社長は、オートデスクと結んだ MOU(戦略的提携)を機に「当社は業務効率化の新たなステージへと踏み込む」と強調する。BIM を活用したワークフロー改革を働き方改革の手段に位置付けるとともに、空調、衛生、電気設備のデータ連携による総合力を発揮させることで「BIM 活用の価値を最大化していく」と手応えを口にする。

近年、オートデスクは設備工事会社との関係性を強めてきた。2022 年 2 月の高砂熱学工業を皮切りに、24 年 3 月に新菱冷熱工業と MOU を結び、ダイダンは 3 社目となる。オートデスクの中西智行社長は「BIM 導入の流れがデータをつくる時代からデータを有効に使う時代に変わりつつある中で、世界的にも設備 BIM の動きは顕著になっている」とし、ダイダンとの MOU では「電気設備を含めた総合設備のワークフロー連携を支援できることは当社にとっても貴重な場になる」と受け止めている。

ダイダンは空調、衛生、電気設備の BIM データ連携を図る上で、オートデスクの BIM ソフト『Revit』の定着に並行して、建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を CDE(データ共有環境)基盤に位置付け、蓄積データの高度利用を推し進める。山中社長は「関係者が ACC を使って密に情報を共有する流れを確立できなければ、われわれが目指す BIM には到達できない」と強調する。

関係者が ACC で密に情報共有
関係者が ACC で密に情報共有

オートデスクが日本国内で ACC の販売を本格化したのは 22 年 4 月からだが、既に国内企業によるユーザー会が発足するなど、導入企業が急速に拡大している。ACC を最大限に活用するためには構造化されたデータの蓄積が欠かせない。ダイダンにとっても従来の業務プロセスを大きく変えざる得ない部分も出てくる。オートデスクの鈴木美秀業務執行役員日本地域営業統括建築・土木営業本部長は「われわれが国内外で培ったノウハウを使い、全面的に支援していきたい」と語る。

Revit データを ACC 上でリアルタイムに共有できれば空調、衛生、電気設備のモデル作成をシームレスに共同作業化でき、元請け企業の建築(Revit)モデルともデータ変換なく密接に連携できる。Revit はデータベースとして扱いやすいパラメーターを持つため、ユニットの標準化やオフサイト生産とも相性が良い。中西社長は「われわれのソリューションの特長は BIM データ活用の拡張性にある」と力を込める。

ダイダンが BIM 活用を軸に総合設備業としてのメリットを最大化することができれば、オフサイト生産のさらなる強化にもつながる。Revit データを軸に企業同士の連携も図りやすくなる。山中社長は「オフサイト施設を同じ現場で仕事をする他の設備、電気工事会社とユニットの組み立て・搬入を行うなど、より効率的な使い方も考えられる」と期待をのぞかせる。

25 年 3 月期から 3 カ年の現行中期経営計画を「磨くステージ」に位置付けるダイダンにとって、BIM を活用したワークフロー改革は新たな企業価値を創出するための取り組みに他ならない。BIM の定着によって人員配置の最適化や、リアルタイムに工事量を把握できるデータ活用の切り口も生まれる。受注プロジェクトを通して蓄積したさまざまなデータを分析することで、受注計画や事業評価など経営判断ツールとしての活用も可能だ。「われわれの業務を多角的に分析できる武器として『ダイダンの BIM』をしっかりと育てていきたい」。山中社長は先頭に立って BIM のワークフロー改革を呼びかけている。

(左から)ダイダン杉浦氏、大井手氏、山中氏、オートデスク中西、鈴木
(左から)ダイダン杉浦氏、大井手氏、山中氏、オートデスク中西、鈴木

この事例は2025年3月17日から3月21日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 ダイダン」を再編集しています。