三井化学 共創空間「Creation Palette YAE®」|実績|株式会社船場 - SEMBA CORPORATION
三井化学 共創空間「Creation Palette YAE®」|実績|株式会社船場 - SEMBA CORPORATION

同社は現行 3 カ年中期経営計画の最終年度となる 2027 年 12 月期に連結売上高 400 億円、連結営業利益 25 億円を掲げる。「できるだけ早く到達点まで駆け上がる」と意気込む小田切社長は『ボーダーレス・クリエーティブ&イノベーション』というコンセプトを掲げ、「絶え間ない挑戦」を社員に呼び掛けている。「それを実現する強力な業務改革ツールが BIM であり、経営と密接に連動しながら蓄積データを利活用する戦略ツールでもある」と明かす。

19 年からの BIM 導入を機に、オートデスクの BIM ソフト『Revit』の全社展開に踏み切った同社だが、当初は思うように普及が進まなかった。設計職の 7 割以上で BIM の基本技術を習得する経営目標を掲げたことが風向きを大きく変えた。24 年 12 月期末時点で設計職の取得率は 76% に達し、プロジェクト活用件数も年間 184 件に伸ばした。24 年 1 月に発足した BIM CONNECT 本部が各部門をつなぐ横断組織として教育から導入支援まで一貫して取り組んできたことが下支えになった。

BIM の導入拡大は、設計コンペの勝率を大幅に向上させ、進行中プロジェクトの合意形成を格段に早めた。多喜井豊執行役員 BIM CONNECT 本部長は「徹底して導入の成果を社内に見える化してきたことが、BIM を使ってみようという社内の意識を高め、結果として業務の具体的成果にも結び付いている」と説明する。これからは施工段階への BIM データ活用にも踏み切る中で「若手社員を中心に BIM を積極的に使ってみたい」という前向きな声も広がり始めている。

内装ディスプレー分野は、顧客の思いを形にしていく空間創造のものづくり特性が強いことから、顧客との円滑な合意形成が業務効率化にダイレクトに結び付くため、BIM との相性が良いといわれている。BIM 推進役として 19 年から社内を先導してきた BIM CONNECT 本部の大倉佑介戦略企画部長は「次のステージに向けて突き進む上で、BIM という当社の強みをきちんと仕組み化することが重要になる」と付け加える。

オートデスクとの MOU は、まさに次への一歩になる。実は、MOU を強く熱望したのは小田切社長だった。「BIM を経営戦略の中核に据える上で、トップである私自身が先頭に立って社内の心理的なハードルを全て取り払う必要があった」。BIM CONNECT 本部のボトムアップによって社内意識は着実に高まりを見せている。「全社員が一丁目一番地に立って BIM と向き合うためにも、オートデスクの知見や技術を共有してもらうことが最良の選択である」と確信した。

「BIM 導入に向けた企業のチェンジマネジメントは、ボトムアップとトップダウンがかみ合って初めて成功する。特にトップダウンによる求心力によって成長のスピードは大きく変わる」と語るオートデスクの中西智行社長は、新たなステージに踏み込もうとする「船場の力強さ」を感じている。船場が内装ディスプレー業界の BIM 普及に向けた非競争領域への対応を MOU の柱の 1 つに位置付けている点でも「新たな MOU の枠組みになる」と期待を寄せている。

オートデスクの中西(左)と船場の小田切氏
オートデスクの中西(左)と船場の小田切氏

協力パートナーとも密接な連携/業界で成長する流れつくる

船場は、オートデスクと結んだ戦略的提携(MOU)で「CDE(共通データ環境)の構築」「協力パートナーとの連携」「教育プログラムの社外展開」という 3 つのテーマを重点領域に定めている。オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤に CDE を構築した上で、協力パートナーと密接にデータ連携するための業務プロセス改革に乗り出すとともに、展開してきた独自の教育プログラムを社外展開し、内装ディスプレー分野の BIM 普及を後押しする。

情報共有の基盤となる ACC は 2023 年から導入し、BIM 導入案件の 50% でプロジェクト関係者のワークシェアリングを支えている。これまでは設計担当それぞれが独自でBIM活用を推し進めていたため、「貴重なナレッジが社として蓄積できていなかった」と BIM CONNECT 本部の大倉佑介戦略企画部長は説明する。先行して照明メーカーのコイズミ照明とは、実プロジェクトを通して ACC 上で BIM データを共有しているように「共に空間をつくる協力パートナーと密接な連携を実現するためにも、ACC を基盤にした CDE の構築が不可欠」と強調する。

BIMを使った協力パートナーとの打ち合わせ
BIMを使った協力パートナーとの打ち合わせ
BIMを年間200件近くのプロジェクトに導入
BIMを年間200件近くのプロジェクトに導入

多喜井豊執行役員 BIM CONNECT 本部長は「当社だけが取り組んでも BIM データ活用の効果を最大限に発揮できない。協力会社も一緒に取り組み、業界全体で成長する流れをつくっていきたい」と付け加える。既に 10 社以上の建材メーカーとは BIM 連携に向けた情報交換もスタートしている。独自に進めてきた教育コンテンツの社外展開も、内装ディスプレー業界の BIM 活用促進に向けて「欠かせない重要なテーマになる」と MOU の柱の 1 つに位置付けた狙いを語る。

大倉氏は「当社は 21 年から独自の教育コンテンツで人材育成に取り組んできた。それが価値のある教育であるか、MOU を通して知るきっかけになる」と期待している。現在は年 2 回の BIM 研修に加え、社内標準に位置付けるオートデスクの BIM ソフト『Revit』や ACC などの e ラーニングコンテンツも拡充している。新入社員や中途社員に BIM 活用意識を植え付けるため、BIM 推進者側の教育マニュアルも整備した。入社 3 カ月で推進役として活動するケースも出てきた。

BIM CONNECT 本部は 15 人体制。社内の BIM 活用が拡大するにつれ、役割も多様化してきた。現在は社内への BIM 活用支援と、社内外への BIM 活用推進を担う 2 つのチームに区分けしている。設計部門などからも人材を受け入れ、BIM 推進を学んで各部門に戻す人材交流の展開を始めた。多喜井氏は「BIM 活用に向けた部署間の壁を小田切社長が取り除いてくれたことが大きな推進力になっている」と明かす。

今年 3 月に船場の代表取締役に就任した小田切潤社長は、丸紅やアクセンチュア、オンワードなどでグローバルでの事業経営や M&A(企業の合併・買収)などに従事してきた。「設計から施工を経て竣工する内装工事のビジネスタームは他業種に比べて長く、その流れに働き方のリズムも合わせてしまっている。もっと高速でリアルタイムに経営判断する流れに切り替えたい」

既に同社はクラウドツール『Salesforce』などを導入し、KPI(重要業績評価指標)や顧客管理情報、BIM 活用情報も可視化している。CDE 構築に合わせ、ACC と IT 基幹システムとのデータ連携を本格化させる計画だ。「そうなれば BIM は、私が掲げる『スピードと集中』という経営方針を実現できる強力なツールになる」と確信している。

船場のデジタルプラットフォーム概念図
船場のデジタルプラットフォーム概念図

BIMレベル5逆算した戦略立案/ACCと基幹システム連動

船場の小田切潤社長は、英国の BIM 熟練度レベルに例え、自社の BIM データ活用に向けた到達点を見定めている。「現在、英国 BIM 熟練度レベルはグローバルでレベル 3 まで定義されているが、当社は独自にレベル 5 までを定義し、そこから逆算した BIM 経営戦略を立案、実施している」と先を見据えている。オートデスクとの戦略的提携(MOU)に合わせ、将来に向けた BIM レベルの形を描くよう指示を出した。

レベル 4 では、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』と基幹システム系ツールを密接に連携し、プロジェクト関連の情報だけでなく、事業運営に関わる情報まで全てを集約し、見える化することで組織がリアルタイムに動ける「経営 BIM」を確立する。

その先に描くレベル 5 の姿は、顧客や協力パートナーも含めた「誰もが直感的に使える BIM の一般化」だ。空間創造企業の同社が掲げるコアコンピタンスは「クリエーティビティー」と「顧客リレーションシップ」であり、そこに向かうための最適な手段として BIM を経営戦略の中核に位置付ける。「重要なのは当社の付加価値とは何かを常に考え、最適な選択ができるようにしていくこと」と力を込める。

レベル5では誰もが直感的に使えるBIMの一般化を目指す
レベル5では誰もが直感的に使えるBIMの一般化を目指す

生成 AI(人工知能)の飛躍的な進化によって、蓄積したデータの利活用が多様な広がりを見せる時代になった。オートデスクは 9 月に米国テネシー州ナッシュビルで開いた国際カンファレンス「Autodesk University(AU) 2025」の中で、人間を介さず自律的に計画を立て実行する「エージェント型 AI」機能への対応を発表し、来場者の注目を集めた。

オートデスクの中西智行社長は「船場が描くレベル 5 は未来の話をしているようで、実はもう目の前まで来ている動き」と説明する。BIM データ活用の対象を設計から施工に広げ、ACC を基盤にデータを蓄積していく船場は、BIM と基幹システムとのデータ連携も推し進めようとしている。「それにより蓄積データの価値は大きく進化するだろう」と期待している。

BIM 活用の新たなステージに踏み込む船場は何を重要視しているか。近年は DX(デジタルトランスフォーメーション)を戦略ワードに設定する企業が増えているが、小田切社長は「DX は全てのデジタル化を包含してしまい、目的が見えにくい。あえて BIM をキーワードにすることで、社員一人ひとりが自分事として業務改革を考えるようになる」と語る。

2024 年の BIM CONNECT 本部設立によって、社内の BIM 意識は一気に高まりを見せた。小田切社長のトップダウンによって、BIM を経営戦略の中核に位置付けるとともに、オートデスクとの MOU にも踏み切った。多喜井豊執行役員 BIM CONNECT 本部長は「まさにホップ・ステップ・ジャンプで次のステージへと足を踏み入れようとしている」と強調する。導入時から推進役として奮闘してきた大倉佑介 BIM CONNECT 本部戦略企画部長も「これからが新たなスタート」と力を込める。

BIM 経営を選択した小田切社長は「非効率的な流れを払拭し、BIM の習熟度を高め、『クリエーティビティー』と『顧客リレーションシップ』に特化することでさらなる競争優位性を確保する。われわれにとっての BIM は、まさにディスラプション(破壊的イノベーション)でもあり、本質的な競争優位性を強化するためのもの」と言い切る。内装ディスプレー業界の BIM 普及も後押ししようと動き出した船場の「絶え間ない挑戦」の幕が開いた。

船場とオートデスクのMOU主要メンバー
船場とオートデスクのMOU主要メンバー

この事例は2025年10月8日から10日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 船場」を再編集しています。