設計職 74 % が基礎教育完了。プレゼン件数は 24 年 12 月期に 200 件見込む
設計職 74 % が基礎教育完了。プレゼン件数は 24 年 12 月期に 200 件見込む

同社は 2019 年からの BIM 導入を機に、オートデスクの BIM ソフト『Revit』の全社展開に踏み切った。当初は思うように普及が進まなかったが、22 年 12 月期からの現行 3 カ年中期経営計画で BIM を設計業務のメインツールに位置付け、最終 24 年 12 月までに設計職の 70% 以上が基本技術を習得する目標を掲げたことで、社内の風向きが大きく変わった。

秋山弘明取締役執行役員コーポレート担当は「現在は既に設計職の 74% が基礎教育を完了した。組織としての BIM スキルは着実に高まっている。次のステップとして BIM を軸としたワークフロー改革を推し進め、事業戦略と BIM をしっかりと結び付けていく」と説明する。

重要視するのは、BIM 関連情報の見える化だ。プロジェクトの導入状況や教育の進捗など全ての情報をリアルタイムにモニタリングし、業務効率や品質確保につなげ、蓄積したデータを新たなビジネスにも展開する。「今後は BIM を経営情報のツールとして積極的に活用する」と力を込める。これまで DX 本部に置いていた BIM 推進部門を BIM CONNECT 本部に昇格し、各部門をつなぐ横断組織として位置付けた。

多喜井豊執行役員 BIM CONNECT 本部長は「ビジネス戦略を踏まえながら社内外に BIM をコネクトすることがわれわれの使命」と強調する。BIM データの共有基盤にオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を位置付けるとともに、営業支援や顧客管理に活用するクラウドツール『Salesforce』と ACC を連携させることで、BIM と事業戦略を密接につなぐ枠組みも構築した。

ACC を活用したコミュニケーション
ACC を活用したコミュニケーション

BIM によるプレゼンテーション件数は 22 年 12 月期に 123 件、23 年 12 月期に 148 件と右肩上がりに推移し、24 年 12 月期は 200 件を見込む。BIM CONNECT 本部が支援する実案件は月 20 件ほどに達する。これまで設計部門が主体的に BIM の導入を進めてきたため、全体の状況把握が難しかった。本部の発足に合わせ、Revit で設計し、そのデータを ACC 内で共有する流れを確立した。BIM 導入時に本部への申請をルール化することで、全体の管理が円滑に進むようになった。

プロジェクトが始動するタイミングで、BIM CONNECT 本部は ACC 内に作業環境の場を用意し、参加メンバーに ACC の権限を与えている。多喜井氏は「関係者が集い、情報共有する流れが定着し始めている。情報の流れを整えたことで、これまで“点”だった BIM の動きが“線”になり、今後は“面”として各部門が BIM データを軸に回り始める」と先を見据えている。

BIM と事業戦略をどう結び付けるか。同社では重点顧客や注力分野の対応強化に向けて、BIM データを効率的に活用するための仕組みも動き出した。

顧客ごとのテンプレート整備に注力/合意早まり設計品質も向上

内装工事業として幅広い分野で活動する船場では 2023 年から重点顧客や注力分野への BIM 対応を強化している。重点顧客は商業系を中心に 10 社を数え、注力分野はオフィス、GMS(ゼネラルマーチャンダイズストア)、量販店など多岐にわたる。建物用途を問わずニーズが高まっているトイレのリニューアルもその 1 つだ。

顧客の中には、店舗デザインの空間表現ルールが厳密に定められているケースが多い。社内で全面導入するオートデスクの BIM ソフト『Revit』を効果的に使うための準備として、顧客ごとのテンプレート整備に力を注いでいる。BIM CONNECT 本部の大倉佑介戦略企画部長は「これにより平面プランが決まってから 1 日もあれば BIM データを作成できるようになった。顧客との合意形成は従来よりも格段に早まり、それが設計品質の面でも向上している」と強調する。

ファミリも細かな部分まで整備し、建具や冷蔵ケースなどの造作物についても 3 次元データを取りそろえている。顧客の空間サインやロゴデザインが修正された場合にも迅速にデータを更新する流れを確立した。野畠滉戦略企画部チーフは「BIM データベースを社内にオープンにすることで、より効率的な設計が実現している」と付け加える。

既に社内には 1000 種類以上のファミリデータや関連図面を整備している。BIM CONNECT 本部が主体的に BIM データ化を担うが、ジョブローテーションで設計担当が本部に配属される機会も増えており、設計担当自らがプロジェクトを進めながら、必要に応じてファミリデータを作成するケースも広がっている。

1000 種類以上のファミリデータや関連図面整備
1000 種類以上のファミリデータや関連図面整備

BIM を導入した 2019 年当初は、ファミリの作成などを外注していたことから、データ作成を負担に感じる設計担当も少なくなかった。現行中期経営計画で、最終 24 年 12 月までに設計職の 70% 以上が基本技術を習得する具体の達成目標を掲げたことで、社内の BIM 意識は高まり、BIM への活用が一気に進み始めた。

ファミリやテンプレートの整備が進むにつれ、設計担当は意匠モデルを作成することに専念できるようになった。大倉氏は「設計担当の BIM 活用のハードルが下がり、BIM を使ったより効率的な設計ができるようになった。これによって業務の進め方だけでなく、設計提案の部分でも大きな変化が見られるようになった」と説明する。

これまでは詳細な図面を示さずに設計のプランを顧客と打ち合わせしていたが、現在は BIM を活用したビジュアライゼーションによって事前にイメージ空間を示した上で、設計を具体的に進める流れになっている。多喜井氏は「顧客と空間のイメージを合意した上で、設計の作業を進められるようになった。顧客のイメージをよりダイレクトに表現でき、しかも設計時の手戻りも大幅に減っている」と強調する。

BIM 導入から 5 年が経過し、社内への普及は大きな進展を見せている。BIM をデータベースとして捉え、その基盤となるプラットフォームをしっかりと構築したことが、社内の BIM データ活用の速度を引き上げている。秋山氏が「BIM の進展が利益率の向上にも貢献し始めている」と明かすように、BIM の導入をきっかけに業務プロセスにおけるデータの流れがより円滑になり、それが業務効率化の成果として発揮されてきた。

蓄積データが次への貴重な情報に/環境への貢献度も見える化

BIM によるプロジェクト活用件数として 2024 年 12 月期に 200 件を見込む船場では実案件への BIM 導入が着実に高まりを見せており、BIM CONNECT 本部が各部門とのつなぎ役として機能し始めている。同本部の大倉氏は「BIM の流れを見える化し、それをきちんと標準化することを重要視してきた。これからは BIM データを効果的に使うためのフェーズに入る」と、手応えを口にする。

同社は CDE(共通データ環境)構築に向け、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を位置付け、各プロジェクトにおける情報共有の流れを一元的に管理し始めた。設計担当の 7 割に当たる規模のライセンスを確保し、このうちの約 40% に共同設計ツール『BIM Collaborate Pro』の利用環境も整えた。

BIM の導入拡大に呼応するように、受注プロジェクトの規模も大型化しており、設計チーム内の共同作業も増えている。照明メーカーを筆頭に BIM 対応を推し進めるプロジェクト関係者も増えており、社外とも ACC を基盤にデータを共有する流れが出てきた。「どの情報が最新であるかを常に把握することが大切になる。今後を見据えてワークシェアリングの枠組みをしっかりと標準化していく」と強調する。

例えば 23 年 12 月にリニューアルを完了した同社九州支店は BIM ワークシェアリングを進めた事例の 1 つだ。全体を4ゾーンに区分けし、それぞれに設計担当を充て、1 つのモデルにアクセスしながら同時並行で設計を進めた。社内では進化し続けることをコンセプトにした「ハッカブル」なオフィスづくりを掲げており、先行した東京本社や関西支店のリニューアルでも BIM 対応を推し進めてきた。野畠氏は「家具や備品の情報まで細かく BIM のデータベースに入れ、リニューアルに際して家具をベンチやキャビネットなど他の用途にアップサイクルする際にも利活用している」と付け加える。

ワークシェアリングで設計を進めた Revitデータ
ワークシェアリングで設計を進めた Revitデータ

同社が BIM 導入にかじを切ったのは 5 年前。店舗系では 5-7 年で内装のリニューアルを実施するケースが多い。BIM 導入当初に取り組んだプロジェクトでは今後、リニューアル時期を迎える案件も出てくる。大倉氏は「われわれ内装工事業にとって BIM データは次のリニューアルにつなげる上での貴重な情報でもある。FM 展開も見据えた BIM の活用についても具体化していきたい」と強調する。

九州オフィスパース(左)と竣工写真
九州オフィスパース(左)と竣工写真

環境配慮に向けて社を挙げて取り組むエシカルデザインとも、BIM は密接に連携している。現行中期経営計画では「エシカルとデジタル」を重点テーマに掲げており、実プロジェクトを通して環境への貢献度を見える化している。内装工事の廃材を極力なくすだけでなく、使用材料も環境を配慮したエシカルマテリアルを認定し、その詳細な情報を BIM のデータベースに組み込むことで、設計時に環境配慮空間の最適解を導くことを検討している。

エシカルマテリアルは約 100 社の建材・原材料メーカーから情報を収集し、地球環境、資源循環、人・社会、意匠・経済の視点から独自の基準を設けて選定している。リサイクル方法や再生資源の活用方法まで含め、ライフサイクルを通じて最適な材料を選定することが特徴だ。多喜井氏は「BIM を軸にエシカルとデジタルを融合し、付加価値の追求とともに、新たなビジネスの扉も開いていく。

当社は BIM データを社内だけでなく、社外にもコネクトしていくフェーズに入った」と力を込める。

エシカルマテリアルの使用状況の可視化
エシカルマテリアルの使用状況の可視化

手軽に学べる e ラーニングを拡充/意識変わり新たなステージ

船場の BIM 導入は、2020 年東京オリンピックに向け、在宅勤務ができる職務環境の構築を進めたことがきっかけとなった。社内インフラや押印など業務フローのデジタル化を進める中で、設計・施工業務のデジタル化については検討が十分にできていなかった。建築設計事務所やゼネコンが先導する BIM の導入が建設業界に広がりを見せ始めていたことを踏まえ、働き方改革や建材の情報をきちんと蓄積する手段として BIM を軸にしたデータベースが有効性と考え、導入に至った。

BIM CONNECT 本部の大倉氏は学生時代からオートデスクの BIM ソフト『Revit』を使っていたため、「偶然にも BIM 導入の推進役に任命された」ことをいまでも鮮明に覚えている。19 年 7 月に新設した BIM 推進室の初代メンバーであり、現在もなお BIM の先導役を担っている中心人物の 1 人だ。

当時は同業他社も BIM 導入にかじを切り始めたタイミングであった。設計担当にとっては Revit の基本操作を習得するだけでなく、設計の進め方もこれまでと大きく変更する必要があった。導入当初は悪戦苦闘が続いた。いかに BIM への前向きな意識を社内に浸透させるか。意識改革が最大のテーマであった。BIM を軸に事業展開するという方針が示されたことで、「社内の意識は変わり始め、当社の BIM 活用が新たなステージへと動き出した」と強調する。

転機となったのは、DX 本部の中で BIM の位置付けを明確化したことだ。秋山氏は「社として BIM を事業戦略の 1 つに定めたことが出発点になった」と振り返る。22 年 12 月期からの現行 3 カ年中期経営計画では組織の BIM スキルを向上するため、設計職の 70 以上が BIM の基本技術を習得する目標も示された。大倉氏は「これが社内意識の変化を生んだ」と実感している。

同時に社を挙げた BIM 人材の育成もスタートした。BIM のトレーニングマニュアルを作成し、アパレルショップを題材にしたモデリングカリキュラムも整備した。誰でも手軽に学べるように 5-10 分間の e ラーニングも充実した。現在は 100 を超えるテーマをそろえ、さまざまな切り口から社員が BIM を学べるようにしている。野畠氏は「社内では中級スキルも学びたいという前向きな意識も芽生えており、個別研修やスキルアップ支援などのメニューも拡充している」と説明する。

設計者自らが家具や什器などのファミリを作成できるように、270 ページにもおよぶファミリマニュアルも整備した。内装ディスプレイ分野では、備品類が多岐にわたり、しかも顧客ごとにしつらえや、サイン計画などが厳密に設定されているケースが多い。「BIM を円滑に進めるためには基盤データとなるファミリの充実が欠かせないことから、積極的にデータ整備に取り組んでいる」と説明する。

現在は、設計職の 74% が BIM の基本技術を習得し、中期経営計画の目標値を上回り、順調に BIM 人材の育成が進んでいる。社内の BIM プロジェクトではオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤に関係者間の情報共有が本格的に動き出している。多喜井氏は「これからは BIM プラットフォームの中で、関連データの作成や連携をしていくスキルを養う段階に入る」と明かす。

整備するBIM用テキスト
整備するBIM用テキスト

成果をリアルタイムに見える化/単純作業なくし設計提案力

船場は BIM データの活用状況を見える化する組織として、BIM CONNECT 本部内にデジタルコラボレーション室を発足した。室長を務める矢部元貴 DX 部長は「リアルタイムに BIM の活用状況を把握し、多角的にデータを分析することで、導入の成果を見える化していく。現状の把握にとどまらず、次へのステップに導くことが役割になる」と説明する。

BIM活用状況のダッシュボード化
BIM活用状況のダッシュボード化

同社ではオートデスクの BIM ソフト『Revit』を全面導入し、プロジェクト関係者とは建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤にデータのやり取りを活発化している。BIM によるプロジェクト活用件数は 2024 年12月期に200件を見込んでいる。現時点で 80 件ほどに達し、計画どおりに推移している状況だ。

同室は、営業支援や顧客管理に活用しているクラウドツール『Salesforce』と ACC を連携することで、プロジェクト進捗やライセンス利用状況など BIM 関連情報についても細かく見える化し、事業戦略と結び付けている。「組織の誰がどの業務にかかわり、BIM がどのような事業領域で効果を発揮しているか。可視化した数値を事業分析にも役立てている」と説明する。

BIM研修風景
BIM研修風景

コロナ禍を経て事業領域の拡大にかじを切った同社は、重点顧客や注力分野への競争力強化策として戦略的に BIM を位置付けてきた。24 年 12 月期に入り、飲食系やオフィス系の割合が増加傾向に転じているのもデータから把握した成果の 1 つだ。多喜井氏は「BIM 教育やトレーニングの進捗、Revit の利用状況なども日々把握している。それらの成果を多角的に分析することで、次への一歩を踏み出す」と強調する。

目線の先には、新たなビジネス領域の創出につなぎたいとの期待がある。「そのためにも BIM のデータベース確立に力を注いでいる。蓄積したデータをヒト、モノ、コト、そして情報にもつなげていく」と力を込める。社内では受注から設計、施工に至るワークフローに沿って BIM CONNECT 本部が密接にかかわる流れが整い、BIM を軸に事業全体が円滑に進み始めている。

呼応するように、社内の働き方も変化してきた。BIM 導入に踏み切った 5 年前に月 24 時間だった平均の残業時間は、現在 18 時間まで短縮している。テレワークを全面導入し、場所を選ばずにどこでも仕事ができる環境を整備したことが下支えとなっているが、「BIM 導入の視点から分析すれば、単純作業を極力減らすことで、設計担当はよりクリエーティブな部分に時間を費やすことができるようになり、それが設計提案力の向上につながろうとしている」と分析する。

注力分野では顧客ごとの専用ファミリを整備するなど、より効率的に設計が進められる BIM の環境を整えたことで、生産効率や設計品質が着実に向上してきた。設計コンペの獲得率が高まりを見せていることも BIM 導入の成果だ。秋山氏は「蓄積した BIM データをいかに利活用していくか。当社にとって BIM は経営情報のツールであり、成長戦略のツールでもある」と強調する。同社は BIM とともに進化を始めた。

左から矢部氏、多喜井氏、秋山氏、大倉氏、野畠氏
左から矢部氏、多喜井氏、秋山氏、大倉氏、野畠氏

この事例は 2024年7月18日から7月24日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 船場」を再編集しています。