同社に「プレゼンテーショングループ」が発足したのは 2004 年のことだ。建築パースの作成を軸に受注提案の取りまとめを担ってきた。BIM の時代が色濃くなるにつれ、3 次元 CG が主流となり、デジタルを駆使したコンテンツづくりに対応する組織として 8 年前に名称を「ビジュアライゼーショングループ」に変えた。現在は東京本店、大阪本店、名古屋支店の 3 拠点に置いている。

ミッションは、コンペや入札案件を中心とした受注貢献や合意形成などに向けた CG パースや動画コンテンツの企画・制作だが、その切り口は多岐にわたる。東京本店設計部技術・BIM 部門の吉本和功ビジュアライゼーショングループ長は「以前は拠点間で業務をシェアする横のつながりがあったが、現在はそれぞれの拠点が自立した活動を進めており、VIZ 担当の役割も地域ごとに異なっている」と説明する。

月に 15-20 件の業務が動いている東京本店では、社内コンペを実施して設計担当チームを選抜するケースも増えている。「競争心を持たせるだけでなく、コンペで出てきたアイデアを担当チームが 1 つに集約し、社としてより最適な提案を追求している」と明かす。

これまでの大型民間プロジェクトは大手ゼネコン 5 社によるコンペが多かったが、最近は 5 社が勢ぞろいするケースは減ってきた。それでも競争はより熾烈を極め、総合的な提案力が勝敗を左右する場面が増えている。大阪本店設計部の本間隆司スペースデザイン部長は「VIZ 業務を担うわれわれのチームも総力戦で取り組んでいる」と力を込める。

VIZ 担当は、受注提案時だけでなく、受注後もより詳細な CG パースの作成を担うほか、対象プロジェクトによっては動画コンテンツの作成も手掛ける。吉本氏は「単に図面を可視化するだけではない。設計者のコンセプトやお客さまの要望を踏まえながらビジュアルを固めていくため、両者の想いを形にすることがわれわれ VIZ 担当の役割になる」と強調する。

3ds Max を使った「森永芝浦ビル」の建築 CG パース
3ds Max を使った「森永芝浦ビル」の建築 CG パース

提案時にはボリューム検討用のスタディーモデルから CG パースをまとめ上げるケースも少なくない。VIZ 担当は設計者と表現方法について意見を交わし、若手設計者には VIZ 担当がアドバイスするケースもあれば、逆にベテラン設計者から VIZ 担当が助言をもらいながら表現を詰めていく。

社内で愛用する 3ds Max は「プラグインの種類が多く、目的に合わせて多様な使い方ができる点が魅力」と吉本氏が説明するように、社内では VIZ 担当と設計者が画面を一緒に見ながら、互いのアイデアを出し合い、より最適な提案に仕上げていく。そうした二人三脚での CG パースづくりが同社の業務風景だ。本間氏は「設計部の中に VIZ 担当を置いていることが、自社が生み出す建築の魅力を最大限に引き出す大きな力になっている」と語る。

これまで VIZ 担当は設計者の下支え役として建築パースを描いていたが、デジタル時代の到来によって、顧客と対話しながら建築をプロデュースするような役割としても活動するケースが目立ち始めた。

設計者と協業がしやすいワークスペース環境
設計者と協業がしやすいワークスペース環境

デジタルコンテンツ駆使した表現力/エンドユーザーにもつながる

竹中工務店の建築 VIZ 業務は多岐にわたる。受注貢献や合意形成に向けた建築 CG パースづくりにとどまらず、パノラマ画像やウオークスルー、さらには社外と連携してプロモーション映像を手掛けるケースも少なくない。デジタル技術の進展に伴い、東京本店、大阪本店、名古屋支店に置くビジュアライゼーショングループの業務領域は多角的に広がりを見せている。

ある個人邸のプロジェクトでは 360 度のパノラマ VR(仮想現実)を作成し、顧客と細かな仕様決めを進めるなど、デジタルコンテンツを合意形成にフル活用した。オートデスクの 3 次元グラフィックスソフト『3ds Max』で仕上げた建物モデルを、パノラマレンダリングした画像をブラウザから手軽にアクセスできる仕組みにより、自由な視点の切り替えによって細かく確認できる。

360度のパノラマVRを活用した個人邸プロジェクト
360度のパノラマVRを活用した個人邸プロジェクト

吉本氏は「360 度パノラマ画像を活用すれば、納まりや空間の見え方など細かな部分まで iPhone などからも手軽に確認できるため、合意形成の手戻りも大幅に減らせる。大型の民間プロジェクトでも、有効な合意形成手段として活用機会が増えている」と説明する。

以前から、コンペ提案では建築プロジェクトのイメージ動画を作成するケースが頻繁にある。現在はプレゼンテーションのプログラムとして 3 分ほどの動画コンテンツを組み込むことが主流となっている。受注後も、ものづくりの様子を記録したドキュメンタリーや、竣工後のプロモーション映像を作成するケースが増えており、近年の VIZ 業務ではデジタルコンテンツを駆使した多様な表現力が問われている。

コンペ提案時に作成した建築モデルを次のフェーズにつなげる新たな流れも出てきた。創立 60 周年を迎える神戸学院大学では記念事業として 2026 年 4 月の完成に向けて「有瀬キャンパス 1 号館」の建設が進んでいる。設計施工を担当する同社では大阪本店ビジュアライゼーショングループの山口大地主任が同館のティザーサイト立ち上げに協力し、ウェブデザインや中身のコンテンツについても手掛けており、BIM モデルを 3ds Max に取り込み、新しい学舎の魅力を伝える動画コンテンツを作成した。

神戸学院大学有瀬キャンパス1号館のティザーサイト
神戸学院大学有瀬キャンパス1号館のティザーサイト

本間氏は「作業所と連携して現場の仮囲いもデザインし、そこからウェブコンテンツにアクセスする遊び心を持った仕掛けも盛り込んだ。建築モデルを生かしてエンドユーザーまで届くプロモーションの取り組みを、VIZ 業務の新たなラインアップとして展開していきたい」と強調する。

業務範囲は広がりを見せ、最近は映像コンテンツ関連の業務が拡大し、表現手法も多様化している。「VIZ 担当がお客さまと直接打ち合わせする流れが顕著になり、そうしたプロモーション関連業務には報酬もしっかりと支払われ、付加価値の高い業務として位置付けられている」と付け加える。VIZ 担当の役割は大きく変わり始め、新たな職能としても確立しつつある。

社内では、設計案件の全てで BIM モデルを作成し、施工や維持管理段階への活用が動き出している。BIM データを VIZ 業務にも取り込めれば、より迅速で一貫した流れが実現できる。本多氏は「現在は BIM と VIZ の業務がそれぞれで進むダブルワークの状態になっている。これを解消できれば生産性や品質面でも大きな効果が出てくる」と先を見据えている。

BIM と VIZ つなぐ流れ構築へ/蓄積した例から最適なCG

竹中工務店のビジュアライゼーショングループは東京本店、大阪本店、名古屋支店に配置され、契約社員も含め 3 拠点で計 28 人が業務に携わる。受注提案では設計者のスケッチやボリューム検討のスタディーモデルを、オートデスクの 3 次元グラフィックスソフト『3ds Max』で読み込み、建築 CG パースを描くが、受注後には BIM モデルと連携させて CG パースを仕上げるケースもある。

本多氏は「BIM と VIZ をつなぐデータ連携は今後実現したいテーマの 1 つ」と強調する。同社は「設計 BIM ツールを開発」し、BIM の形状と情報を分けて管理することで BIM を中心とした設計業務効率を向上し、顧客への付加価値提案を高める取組を始めている。形状と情報は、構築中の「建設デジタルプラットフォーム」に蓄積する仕組みだ。「VIZ との連携が可能になれば、蓄積した事例から、より最適な建築 CG パースを描く道筋を示すこともできる」と考えている。

本間氏は「建築 CG パースだけでなく、VIZ 業務に必要なあらゆる情報を BIM モデルデータから直接連携することができれば、より合理的に業務を進められる」と期待している。BIM データは設計段階でのデータ活用に加え、施工段階へのデータ活用を軸に設定しているため、その流れの中で VIZ の業務に必要なデータをいかに抽出できるかが焦点になる。

多様化するVIZ業務
多様化するVIZ業務

BIM と VIZ をつなぐためには、リアルタイムにデータを共有することが前提になる。吉本氏は「現時点では最新の BIM データを待っていたら期日までに仕事を終わらせることが難しい。BIM データの流れに VIZ 業務をつなぐことが重要になり、そうなればわれわれ VIZ 業務のワークフローも変わってくる」と思いを込める。

あくまでも VIZ 担当は BIM データを作成する立場でないため、常に最新データが更新される BIM の枠組みを構築することが、VIZ 業務に連携するための条件になる。運用を始めた設計 BIM ツールをより使いやすくするため、オートデスクとの意見交換もスタートした。本多氏は「この協議の中で VIZ への BIM データ活用についても新たな知見やアイデアをもらいたい」と期待している。

業務領域は CG から VIZ に広がり、一方でデータ活用の側面では BIM と VIZ をつなぐことが新たなテーマとして浮上している。吉本氏は「われわれ VIZ 担当の役割も変化していく。いままでは建築パースを作ることが役割だったが、これからは映像コンテンツにも力を入れ、よりお客さまの近くで仕事をする機会を増やしていきたい」と強調する。

ビジュアライゼーショングループでは業務を展開する中で「ビジュアルコミュニケーション」という概念を使い始めるようになった。本間氏は「われわれは建築プロジェクトの魅力を最大限に可視化する表現者であり、建物特性に応じて伝える内容や表現の仕方も変わってくる。これまでは設計者やお客さまの思いを形にすることが役割の中心だったが、今後は SNS(交流サイト)などを通じてエンドユーザーと直接つながることを強く意識する必要がある」と語る。

デジタル技術の進展に加え、BIM データ活用の流れが急速に広がる中で、VIZ 業務の在り方は転換期を迎え、呼応するように VIZ 担当の役割も大きく変わろうとしている。BIM と VIZ のつながりを強く意識し始めた同社は、BIM 活用の新たなステージに向けた力強い一歩を踏み出した。

左から本間氏、本多氏、吉本氏
左から本間氏、本多氏、吉本氏

この事例は2025年1月27日から1月29日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 竹中工務店」を再編集しています。