メーカー 6 社が標準化の議論着手/属性情報の項目設定八つに
6 社は、今年 2 月から交流会という形で月 1 回のペースで意見を交わしてきた。五味氏は「われわれにとっての BIM 標準化とは何かを考えるところから議論してきた。企業ごと、プロジェクトごとに標準化の在り方は異なる。それぞれの考え方を共有し、何が最良の道筋なのかを見定めながら一歩ずつ着実に進んでいきたい」と思いを込める。
交流会では、標準化の在り方や必要性について議論するとともに、共有パラメーターの具体項目を洗い出す作業も進めてきた。意匠設計や内装設計の担当者とも意見交換し、家具メーカーとしてどういう観点から、製品データの標準化を進めていく必要があるか、今後進むべき道筋についても話し合ってきた。
コクヨの川口りつ子グローバルワークプレイス事業本部デザイナーは「今まで企業ごとに製品のデータを公開してきたこともあり、われわれが求めるようなデータの活用がなされていない状況があった。交流会を通じてベースとなる標準化の必要項目を導き、それを出発点に標準化の実現に向けて本格的に議論を始めようと動き出した」と説明する。
導き出した標準化の必要項目は 13 項目に達したが、その中から「データ更新頻度」「対象カテゴリー」「ファミリカテゴリー」「パラメーター・名称」「挿入起点」の 5 つを重点項目に絞り込んだ。対象カテゴリーは製品群が多岐にわたることから椅子、タスクチェア、ソファ、ベンチ、テーブルデスクに限定し、間仕切りや造作系などは対象から外した。パラメーターの情報についてもW(幅)、D(奥行き)、H(高さ)、座面高さ(SH)、ひじ掛け高さ(AH)に品名、品番、重量を加えた 8 つにとどめた。
Revit のバージョンアップに伴うデータ更新の頻度を最適化するため、その時点で対象となる最も低いバージョンを選択することも決めた。意匠設計や内装設計では 2-3 年の頻度で Revit のバージョンを更新しているケースが多いことから、メーカーとしてもそれに合わせることが最適と判断し、現時点では Revit 2022 を対象に定めた。さらには製品データの起点を明確に定めることで、設計時に家具製品データの最適な配置をしやすくすることも位置付けた。
今年 8 月には、オートデスクが主催する形で業務用家具メーカーと内装ディスプレー会社による「家具に関する BIM の意見交換」が実現した。これまでメーカー 6 社が取り組んできた成果を内装各社に説明することで、BIM の標準化に向けて両者が意見を交わす初めての場となった。五味氏は「われわれの製品データを活用する内装ディスプレー各社から率直な意見をもらい、ともに標準化に向けた新たな一歩を踏み出したい」と呼び掛けた。
標準化は合意や効率化の推進力/内装会社との意見交換も始動
オートデスクが主催した「家具に関する BIM の意見交換」には、業務用家具メーカーからイトーキ、オカムラ、オリバー、コクヨ、アダル、プラスの 6 社、内装ディスプレー会社からゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッド、丹青社、乃村工藝社、船場、ワークパス、パワープレイス、三井デザインテックの 7 社が参加した。
内装ディスプレー分野では、先行して丹青社が 2022 年にオートデスクと BIM データ活用に向けた MOU(戦略的提携)を結んだように、3 年ほど前から BIM 導入の動きが広がり始めた。空間づくりにおける顧客との合意形成に BIM の可視化効果が有効に機能することから、現在は社を挙げて BIM 導入に取り組む流れが鮮明になっている。今年 2 月には丹青社が新たなステージに向けた MOU 2.0、8 月には船場が CDE(共通データ基盤)構築に向けて MOU を結んだ。
オートデスクの羽山拓也技術営業本部長は「家具メーカーによる BIM データ標準化は、BIM 導入にかじを切った内装各社にとっての大きな推進力になる。両者の考え方を共有できるように、今回初めて意見交換の場を設けた」と明かす。開催に先駆けて参加企業への事前アンケートを実施し、標準化に向けた課題整理も進めてきた。
アンケートによると、BIM の導入については内装各社と同様に、家具メーカーも合意形成や業務の効率化をメリットに挙げていることがわかった。課題については家具メーカーごとにデータ仕様が異なり、内装会社が求めるファミリ構成になっていない状況が浮き彫りになった。家具メーカーでは提供データが独自仕様になっている上、標準化の前例もない点を危惧している一方で、データ提供時に内装会社の使用目的の詳細が不明である部分も課題の 1 つとして示された。
BIM 標準化については、両者とも BIM データの新たな利活用につながるとし、内装各社にとってはメーカーごとの仕様を理解する手間が削減でき、家具メーカーにとっても日々の繰り返しの修正業務を改善できると考えていることが分かった。オートデスクのシャフ愉季ソリューションエンジニアは「内装各社は積算などへの展開、メーカーは発注効率化などに期待を示し、ともに前向きな捉え方をしている」と付け加える。
このように標準化への期待は高いものの、意見交換では標準化の実現にはまだ多くの乗り越えるべき課題があることが見え隠れした。内装会社の設計担当はイメージに合うような家具のファミリデータを選択して、空間の収まりを確認しており、作業の中でそのデータのパラメーターを自ら微調整する際にはどの設定を変更すればいいか、判断しにくい状況があるという。BIM スキルに関係なく対応がしやすいように「データ階層を少なくし、パラメーター項目も必要最低限にすべき」との声も上がった。
BIM データから数量算出を展開している内装会社では、顧客の環境配慮ニーズが高まりを見せる中で、家具製作における排出 CO2 の数値なども盛り込んでほしいとの意見も出た。そのような付加価値部分の数値をパラメーターにどこまで盛り込むべきか。標準化を議論する上でまだ積み残している課題が多いことも分かった。
特に意見交換では、作り手である家具メーカーと、使い手である内装会社それぞれが同じ目線から標準データの在り方を考えるべきとの視点も話題になった。そのきっかけになったのはオブザーバーとして参加した先行する建築設計事務所側のアドバイスだった。
「不安」から前に進む意識へ変化/RUG が標準化に向け助言
オートデスク主催の「家具に関する BIM の意見交換」には、業務用家具メーカー 6 社と内装ディスプレー会社 7 社に加え、BIM ソフト『Revit』のユーザー会組織 RUG(Revit ユーザーグループ)から、会長の吉原和正日本設計生産系マネージメントグループ長兼 BIM 支援グループ長、副会長の古川智之久米設計設計推進本部 DX 室室長、意匠ワーキンググループ(WG)リーダーの村井一東京都市大学准教授がオブザーバーとして参加した。
吉原氏はパラメーターリストについて「具体の目的をきちんと設定しなければ、標準化を実現したとしても、有効に使われない状況を生んでしまう。属性情報の項目が多ければ良いわけではなく、実際にどのように使われるかを踏まえ、整備していくことが何よりも大切」とし、「標準化後に最新データとしてメンテナンスしていく点も踏まえた議論をすべき」と強調した。
古川氏は「数量の算出だけでなく、デザイン意図を伝える部分も標準化の目的としては大切になるが、あまり詳細度の高いデータにこだわらず、利用目的に見合った使い勝手のよい仕様を心掛けた方が良い」とアドバイスした。村井氏は「RUG の意匠ワーキンググループも、このような標準化について議論を継続しているが、同じデータであってもそれぞれの立場から見ようとする情報が違うという状況を前提として共有できるかが前進の鍵になる」とし、RUG 意匠 WG が取り組む「Room Rule Book」という共通指針づくりの考え方を紹介した。
意匠 WG には各企業の設計者が集まるが、日頃手掛けているビルディングタイプが違えば、Revit の使い方もそれぞれ異なっている。古川氏は「皆で突き詰めた議論をしていく中で、根っこの部分で設計の考え方ややり方が異なるため、ボタンを掛け違えているケースがあった。共通項として空間オブジェクトの入力や情報伝達の在り方をまとめるため、Room Rule Book づくりが始まった」と、その経緯を説明した。
企業や所属の異なる設計者はそれぞれのルールでモデリングをしており、しかも意匠・構造・設備の連携に取り組む上では、異なる専門分野間での情報伝達に向けた調整が必要となる。それぞれが BIM の情報伝達に期待するものを見極める 1 つの手法として Room Rule Book を位置付けている。村井氏は「家具データの議論でも形式的に標準化を急ぐのではなく、互いの情報の捉え方を把握、理解していくことがデータ連携の道筋を高めていく」と呼び掛けた。
意見交換会にはイトーキ、オカムラ、オリバー、コクヨ、アダル、プラスなど業務用家具メーカー 6 社の BIM 担当者が参加した。各社とも自社の営業戦略に基づいて BIM データの提供を進めているだけに、今年 2 月の議論を始めた当初は「標準化の実現は難しいのではないか」と不安に包まれていたが、共有パラメーターの項目を洗い出し、一歩ずつ着実に標準化の議論を進める中で、その意識は「前に進むことができるのではないか」という期待に変わろうとしている。
意見交換で実現した内装会社や RUG 幹部との対話は、家具メーカー 6 社の担当者に対して標準化を後押しする貴重な機会になった。発起人として家具データの標準化を呼び掛けたアダルの五味隆夫 BIM 推進事業室チーフは「まだ道のりは長く険しいが、その先にある価値を皆で見いだしていきたい」と先を見据えている。今回の議論を踏まえ、6 社は次のステップに進もうと前を向いている。BIM 標準化に向けた業務用家具メーカーの挑戦の幕が開けた。
この事例は 2025年 10月 20日から22日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 家具 BIMデータの行方」を再編集しています。






