皆が対話できる作業環境づくりへ/構造化データを軸に協業
日本の一歩先を進むように欧米の MEP(機械・電気・配管)業界は、BIM データを活用した工業化の流れが着実に進展している。米国オートデスクで設備業界・戦略担当シニアマネージャーを務めるスティーブ・バトラーは「プロジェクト関係者が垣根を越えてコラボレーションできる基盤構築がポイントになる」と強調する。同社の調査によると、全体の 8 割は成長戦略としてデジタルツールの活用が不可欠と位置付けている。その多くが BIM を中核の機能に据え、蓄積したデータを各事業に利活用する戦略図を描いている。
その最前線には CDE(共通データ環境)を構築し、プラットフォーム上でプロジェクト関係者が密接に連携し合う姿がある。北米を拠点にグローバル展開している建設会社のターナーは BIM のフル活用で生産性向上を追求しており、工期を 3 割削減した。スウェーデンに本社を置く建設会社のスカンスカはプレハブ化の促進で生産性を大幅に向上している。両社ともオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤に CDE を構築し、施主を含むプロジェクト関係者がリアルタイムに情報を共有する枠組みを確立している。
バトラーは「プロジェクト関係者が BIM に精通していることよりも、皆が同じ作業環境で対話できることがもっとも大切」と説明する。これは BIM モデルの中にあるデータを一元化し共有することが重要であることを指し示している。モデルベースでは情報共有に制約が出てきてしまい、AI(人工知能)と組み合わせる上でも効果が薄い。蓄積データは「構造化された質の高いものでなければいけない」と付け加える。
オートデスクではファイルの中にあるデータを「粒状データ」と表現しており、それによってクラウド上で共通データとして関係者が利活用できるようになる。構造化されたデータを軸にプロジェクト関係者がリアルタイムに協業することが、コストや工期の削減につながる糸口となる。まさにBIM活用で重要になるのは、構造化されたデータをクラウド基盤上で一元化し、それを AI にも拡張していく流れだ。
海外の先行事例は、BIM の導入を出発点に生産プロセスやワークフローを見直し、蓄積したデータを各事業で有効に活用している。その先には DX 戦略につながる道筋がある。オートデスク技術営業本部建築ソリューション部建築ソリューションリーダーの橘田憲人氏が「3 年ほど前から日本の設備工事会社も BIM を中心に置き、業務フローの再構築にかじを切る動きが広がってきた」と説明するように、日本の設備 BIM は新たなステージに踏み込もうと動き出した。
MEP ラウンドテーブルでは、先陣を切って BIM 活用にかじを切った高砂熱学工業や新菱冷熱工業などの取り組みが紹介された。そこには BIM のデータ活用に向けて乗り越えるべき「課題」も見え隠れしている。
成功体験の共有が導入の原動力/BIM 軸にデジタル基盤構築
オートデスクは、社を挙げて BIM 活用に乗り出す企業と密接に連携するため、積極的に MOU(戦略的提携)を結んでいる。以前はゼネコンや建築設計事務所が中心だったが、BIM 導入の広がりを反映するように、近年は設備工事会社や内装ディスプレイ会社などとも締結する流れが広がってきた。
設備工事会社では 2022 年 2 月の高砂熱学工業を皮切りに、24 年 3 月に新菱冷熱工業、25 年 2 月にダイダンと MOU を締結した。オートデスクが設備工事会社向けに開いた会合「MEP ラウンドテーブル」では、MOU 3 社に大気社を含む計 4 社の担当者や役員をスピーカーに招き、BIM データ活用のポイントだけでなく、課題も紹介された。
全社展開に向けて BIM ソフト『Revit』活用のトライアルプロジェクトを拡大している高砂熱学工業では、これまで DX(デジタルトランスフォーメーション)推進本部内に位置付けていた BIM 推進室を技術本部システム技術統括部の中に移管した。齋藤英範担当部長は「より現場と密接な連携が図れるような BIM 推進の流れに変えた」と説明する。
施工現場、オフサイト、バックオフィスの 3 拠点をつなぐ新菱冷熱工業では、最前線の現場担当の負担を軽減する手段としてユニット化やモジュール化を推進している。デジタルトランスフォーメーション推進本部デジタル推進企画部の酒本晋太郎 BIM 課長は「3 拠点を有機的につなぐ基盤として BIM データが欠かせない」とし、「データを円滑に共有する流れを構築し、DX 戦略へとつなげる流れを確立していく」と強調する。
両社のアプローチの仕方は違うものの、BIM を軸にデジタル基盤を構築していこうとしている点は共通する。齋藤氏が「当社は設計から施工、維持管理の各フェーズで必要な情報を取り出して使っていくような流れを構築している」というように、情報共有の基盤には CDE(共通データ環境)プラットフォームとしてオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を位置付けている。
「当社では施工フェーズで使うモデルだけでなく、ドキュメント類も含めすべての情報を ACC の中に入れ、一元管理しようと動いている」と酒本氏も同調する。ACC 活用の利点には、ファイル名の変更が必要ない使いやすさがある。従来はデータを更新するたびにファイル名を変更していたが、ACC では上書き保存するだけで、最新データを位置付けることができ、これまでのデータも履歴として保存されているため、「最新データの管理が容易かつ確実に行われる」と付け加える。
ただ、両社とも ACC とオンラインストレージサービス『BOX』を併用している。齋藤氏が「当社は先行してBOXをクラウドサーバーとして使ってきたが、施主やプロジェクト関係者との共有が必要な場合は ACC を中心にして情報のやり取りを進めていく検討を行っている」と説明するように、情報共有の内容や状況に応じて効果的に使い分けながら最適なデータ共有環境を構築している。
とはいえ、ACC は建設に特化したクラウドプラットフォームであり、工事進捗などを可視化して分析できる。酒本氏は「各部材の作業進捗を色分けする使い方によって遅れの原因などを皆で共有しやすくなる。現場出来形の見える化によってプロジェクト関係者への情報共有も迅速化している」と ACC の効果を挙げる。齊藤氏は「このように具体の成功体験を社内で共有していくことが、BIM 導入の原動力になる」と呼び掛ける。
現場の思い考慮したワークフロー構築/前向きな雰囲気づくり後押し
いかに BIM 導入に向けた意識を社内に浸透させるか。オートデスクの会合「MEP ラウンドテーブル」には BIM 導入に動き始めた設備工事会社 12 社から 32 人の担当が参加した。各社ともオートデスクの BIM ソフト『Revit』を軸に BIM 導入に踏み切るが、思うように社内に BIM が浸透しない悩みを抱えている。それは登壇した先行企業も同じだ。むしろ導入案件を増やしていく中で、意識の二極化がより鮮明になっている課題も浮き彫りになっている。
「トライアルプロジェクトが“打ち上げ花火”にならないように注意している」と、高砂熱学工業の齋藤英範技術本部システム技術統括部担当部長は明かす。重視するのは「Revit を軸としたワークフローに切り替えることで、手軽に業務の効率化などが実現できるように心掛けている」点だ。現場には Revit 活用の説明資料を配布し、業務を細分化して新たなワークフローに落とし込み、従来との違いを明確化して理解を促している。
新菱冷熱工業の酒本晋太郎デジタルトランスフォーメーション推進本部デジタル推進企画部 BIM 課長は「現場担当者がBIMと向き合う際、目の前の仕事がどれだけ効率化できるかが重要と考えるが、われわれ推進側は全体最適の視点からワークフローを構築しているため、いかに現場の思いも考慮しながら、全てを満足させる流れをつくれるかが問われる」と強調する。
両氏は「意識を変えてもらうためのマインドセットが最重要テーマになる」と口をそろえる。齊藤氏は「当社が施工段階の全面展開に向けて成功事例の共有に力を注いでいるのも、従来との違いを認識してもらい、それぞれの視点から BIM 導入の利点や効果を感じてもらいたいからだ」と説明する。設備工事会社各社は生産プロセス全体を通して BIM データを活用し、最大限の効果を引き出そうと動き出しているだけに、両社と同じように BIM の導入意識をいかに醸成していくかに注力している。
ラウンドテーブルのパネルディスカッションで登壇したダイダンの大井手太技術本部上席執行役員も「現場の技術者に BIM のメリットを感じてもらうことが先決」と語る。同社はパイロットプロジェクトを定めて段階的に BIM 導入を推し進める計画で、2025 年度から専門部署として BIM・ICT 推進部を創設し、施工現場で直面する課題に対して、支援する体制を確保した。
中期経営計画で BIM の導入を明確に位置付ける大気社では、各部門で活用しているアプリケーションを統合する BIM プラットフォームを構築している。橘正章執行役員技術本部副本部長兼デジタルイノベーションセンター部長は「仕事をしながら自然とデータがたまっていくように、業務の流れを整えようとしている」と説明する。BIM 活用に向けたワーキンググループ(WG)も発足し、海外を除く各拠点から自発的にメンバーを求め、より前向きな WG を形づくる。
新菱冷熱工業の斉藤佳洋デジタルトランスフォーメーション推進本部副本部長デジタル推進企画部長は「全社教育を通じて自主的に BIM に取り組む意識づくりを進めている」と明かし、「BIM に前向きな社員を後押しするような社内の雰囲気づくりも大事なポイント」と強調する。橘氏が「全社員がデジタル対応を前向きに受け止める流れになれば、組織としての大きな力になる」というようにマインドチェンジが BIM 導入の原動力になることは間違いない。設備工事会社各社は BIM を出発点に DX 戦略の扉を開け、効果的なデータ活用のフェーズへと突き進もうとしている。
この事例は2025年9月3日から5日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 設備BIMの行方」を再編集しています。






