
西松建設がオートデスクの BIM ソフト『Revit』を本格導入したのは、10 年前にさかのぼる。2018年に BIM 推進室を発足したタイミングで BIM 標準ソフトとして Revit を位置付け、その 2 年後に発足した生産設計プロジェクト室では Revit による施工図作成もスタートした。BIM 推進室と生産設計プロジェクト室が融合する形で 2024 年 4 月からデジタルコンストラクションセンターが組織化され、同社の BIM 導入は新たなステージに入った。
建築生産設計、設備生産設計、施工BIM、設計 BIM の 4 課で構成するデジタルコンストラクションセンターは設計部門への BIM 定着と、生産設計を通じて施工に BIM データを連携させるスキームの確立をミッションの 1 つに掲げている。基本設計の段階から生産設計部門が参加するフロントローディングの流れを構築するほか、生産プロセス間のデータ連携に向けた課題解決も進めており、設計や施工の各段階でいかに Revit データを利活用していくかを重点テーマに掲げている。
例えば設計時に解析シミュレーションソフトを使う際には、Revit モデルをスムーズに取り込むことができない手戻りが数多く発生していた。三ケ尻氏は「そうしたシステム上のボトルネックを解消していくためには、自社内ですべてを解決することが難しい。特に AI 活用や自動設計の実現にはより先進的で高度な専門ノウハウをもつ企業との連携が必要だった。そうした思いが WOGO との連携につながった」と説明する。

東京大学工学部の同期メンバーによって 2021 年 1 月に設立した WOGO は当初、個人向けに 3D スキャンアプリを提供してきた。ユーザー数を着実に伸ばしたものの、BtoC(消費者間取引)ビジネスでは大きな成長を見込むには限界があった。「自分たちの技術力を最大限に生かしたい」。秦竟超 CEO が経営の軸を BtoB(企業間取引)にシフトしたのは 2024 年のことだ。
3D と AI を組み合わせた独自技術による形状処理の強みを生かし、製造業分野を軸に活動してきた WOGO が、次のターゲットに位置付けたのが建設分野だった。「建設の知識はなかったが、BIM が進展する建設業界の中で、われわれの強みとしているアルゴリズムや形状処理がフィットするという手応えはあった」
24 年末に両社の共同開発が動き出した。西松建設が天空率や日影計算の際、迅速に的確なボリューム出しをしたいと考えていたタイミングだった。実プロジェクトでは Revit から出力した IFC データを解析ツールに取り込み、建物ボリュームをシミュレーションしていたものの、設計の進捗によって LOD(モデル詳細度)が引き上がり、形状が精巧になることで解析ソフトとの互換性が低下してしまう課題があった。しかも処理エラーや長時間の待機待ちの状況も発生し、手作業でのモデル修正が多発していた。
秦氏は「われわれが得意な形状処理のノウハウを活用すれば、課題解決できるのではないか」と考え、Revit の API を通じて外形データを取得する上で、独自の機械演算やアルゴリズムを組むことで形状の簡素化やデータの軽量化を実現できることを提示し、共同開発がスタートした。

Revit アドインの「BIM モデル最適化ツール」が完成したのは 2025 年春のことだ。Revit モデルを解析用途に合わせて自動で軽量化し、円滑に解析シミュレーションツールに取り込むことができ、西松建設にとってはより前段階で Revit モデルを効果的に利活用できる橋渡しのツールとなった。
設計中の 10 階建て事務所ビルプロジェクトに適用したほか、過去に手がけた 3、4 件の実プロジェクトのモデルを活用した検証も進めてきた。天空率や日影計算における解析用モデル生成の速度は飛躍的に向上し、モデル最適化に 15 分、変換と計算に各 5 分で結果を示せる成果を得た。三ケ尻氏は「こうしたデータ連携のボトルネックをひとつずつ解消していくことが、BIM 導入効果を導く上での近道になる」と考えている。
西松建設と WOGO は、4 月に「BIM モデル最適化ツール」の新バージョンを完成させた。1 年前に開発した旧バージョンはオートデスクの BIM ソフト「Revit」から IFC 形式で出力したデータを解析シミュレーションソフト側に取り込みやすくするものであったが、建物形状が限られ、より複雑な形状の建物には対応が難しかった。
新バージョンは、あらゆる建物形状に対応できるようになり、それに加えて解析用モデル生成の速度も向上し、旧バージョンで 15 分かかっていたモデル最適化を 3 分程度に短縮した。西松建設の中原拓哉設計 BIM 課主任は「解析ソフト側には Revit モデルを解析しやすいようにデフォルメしてしまうプログラム上の癖みたいなものがあることがわかり、それを解消する流れが新バージョンの開発につながった」と説明する。

WOGO 側で新バージョンの開発担当を務めた松本光平エンジニアは「外形化のアルゴリズムに、別のアルゴリズムを組み合わせることで対応力を上げた」と強調する。建物の形状モデルが閉じた状態になっていない場合、これまでは外形モデルのデータを完全に取得できない課題が見られた。開発時のポイントに位置付けたのは、建物の「内と外」の区分けを明確化することだった。
新バージョンでは建物内の情報全てをそぎ落とした上で、建物外形の情報だけをピックアップすることを追求した。区分けする際のアルゴリズムにはいくつかのパターンがあり、それを微調整しながら最適化することでより精度を高めた。「これは私 1 人の成果でなく、社内にアルゴリズムに強い人材が何人もいて、皆でディスカッションしながらより良い方法を導き出した成果になる」と付け加える。
現在 35 人体制の WOGO ではエンジニアが全体の 8 割を占める。秦竟超 CEO は「皆、問題を解くことが大好きで、システム開発でも暗礁に乗り上げた時などには意見を出し合いながら解決していくことが当社の社風になっている」と話す。
新バージョンに向けたアイデア出しでも活発な意見が寄せられた。「そもそもアルゴリズムは万能ではなく、適合した際の相性がある。そうした暗黙知的な判断の部分をエンジニアの共通認識として皆が理解している点が当社の強み」と強調する。
西松建設の三ケ尻幸生設計 BIM 課長は、この成果を「さらに発展させていきたい」と考えている。両社では天空率や日影計算に続き、気流解析向け最適ツールの開発も進行中だ。現在の気流解析では Revit モデルを使わず、あえて簡易な建物モデルを別で作成し、それを専用ソフトに取り込んでいる。そこで実施設計モデルを IFC データに出力する前に、簡素化したモデルに変更した上で解析ソフトに取り込む流れにすることで「より合理的な流れに変えていきたい」と考えている。

両社が共同開発をスタートして 1 年半ほどが経過しようとしている。秦氏は共同開発を通じて「2 つの学びがあった」と説明する。当初は Revit モデルから容易に形状を取得できると考えていたが、ドアや壁、床や天井などのファミリごとに挙動が異なることを認識した。そして「当社のアルゴリズムがまだ完璧ではない」ことを気付かせてくれたことも大きな収穫だった。「西松建設には当社の技術を底上げしてもらえた点でも感謝している」と語る。
西松建設が BIM モデル最適化ツールを常に進化させていこうと考えている背景には、実務の中で Revit データを最大限に活用していきたいという強い思いがある。
社内では BIM ロードマップに沿って、プロジェクトへの導入が計画通りに進んでいるものの、設計から生産設計、そして施工に部門間をつなぐデータ連携という点ではまだ取り組むべき課題が残っている。三ケ尻氏は「Revit モデルをダイレクトに生かす流れを確立していくことが生産プロセス全体の底上げにつながる。WOGO との連携をきっかけに Revit モデル活用の幅をさらに広げていきたい」と期待を込める。
将来的に見据えるのは FM や積算への展開だ。中原氏は「Revit の強みである属性情報を活用する部分についても、WOGO と連携して新たな枠組みを導き出していきたい」と考えている。秦氏も共同開発を進める中で「形状だけでなく、ファミリの概念部分も含めた自動化についても実現できる」と手応えを得ている。
三ケ尻氏は「外部の BIM エンジニアやソフトメーカーにも参加してもらい、新たな課題解決に向けてチャレンジしていきたい」と先を見据えている。BIM モデル最適化ツールの共同開発を出発点とした両社の二人三脚は歩幅を広げ、次なる一歩を踏み出そうとしている。






