アトアレ

アトアレは、構造計算データと仕様書から鉄筋部材を BIM 上で自動配置し、設計 BIM を参照しながら検討が必要な個所を抽出して、配筋検査を自動化する。同社が施工段階で標準化するオートデスク BIM ソフト『Revit』のアドオンツールとして開発した。導入実績は 20 年の試行開始から、これまでに 70 件を超える。鉄筋工事の生産性向上ツールとして全国の現場で導入が広がっている。

アトアレの導入実績は 70 件超
アトアレの導入実績は 70 件超

建設現場における配筋の不具合は、組み立て作業後となる配筋検査のタイミングにならないと発見できなかった。図面作成段階に仮想空間上で対処できれば、現場の生産性向上に大きく寄与し、専門工事会社にとっても現場での手戻りを大きく軽減できる。16 年からスタートした開発のパートナーとして、鉄筋加工ソフト『DIN-CAD』を業務ツールとして使っていた鉄筋専門工事会社のアイコー(東京都中央区)に声を掛け、二人三脚で取り組んできた。

曽根氏は「専門工事会社とのデータ連携が前提になり、アイコーとは月 2 回のペースで会議を開き、鉄筋工事における BIM 活用を徹底的に研究し、お互いのノウハウを形にしてきた」と説明する。開発期間は 4 年にもおよんだ。鉄筋工事のデジタル化について意見を交わし、部材の自動配置ルールに加え、加工時に部材の伸び方なども検証し、BIM ワークフローについても確立した。

図面作成、鉄筋加工、配筋・組み立て、配筋検査という作業プロセスの中で、構造計算データから作成する図面作成段階を「鉄筋 BIM」、加工図に基づいた段階を「配筋 BIM」と位置付け、BIM データの流れを分かりやすく規定することで、それぞれの役割分担も明確化した。

専門工事会社は前田建設から提供された鉄筋BIMをもとに加工図を作成し、前田建設は専門工事会社から戻された加工図データを配筋BIMデータに変換する。開発では専門工事会社側のツールとしてDIN-CADを位置付け、双方向のデータ連携を検証してきたが、別の加工図・加工帳作成ソフトにも対応できるようにオープンな連携環境を整えている。

アトアレの導入は年 30 現場を超える勢いで伸びている。鉄筋の納まり検討に必要なデータ作業はほぼ自動化となるため、従来比で 9 割の時間短縮を実現するなど大幅な生産性向上効果が現れている。建築事業本部 BIM プロダクトセンター建築 BIM 推進グループの渡邉寛也グループ長は「われわれだけでなく、専門工事会社側にも導入効果がはっきりと出ている」と付け加える。

鉄筋納まり検討は9 割の時短が実現
鉄筋納まり検討は9 割の時短が実現

現場では、自動配筋検査によって正しく作成された鉄筋 BIM データを専門工事会社が使う流れとなり、加工図や加工帳の作成作業は 6 割の短縮となった。組み立て作業前に現場関係者が完成形データを確認できることから、専門工事会社側の配筋検査も手戻りが大幅に減り、最大 5 割の低減を実現する現場もあるという。

これまで専門工事会社側との打ち合わせは 2 次元図面で進めてきたが、現在は 3 次元モデルを使って進めるケースが多くなった。専門工事会社からの質疑書も 3 次元モデルから抜き取った画像を使うことでより理解度も増している。建築 BIM 推進グループの大塲巧巳氏は「設計・施工案件だけでなく、他社設計の案件でもアトアレの導入効果が出ており、社内では着実に浸透している」と説明する。24 年度はさらに導入数が拡大する見通しだ。

自動配筋検査の結果を表示
自動配筋検査の結果を表示
アトアレは鉄筋部材をBIM上で自動配置
アトアレは鉄筋部材をBIM上で自動配置

鉄筋 BIM の自動配置・自動配筋検査は専用パソコンで稼働(昼夜対応中)

アトアレによる自動配置、自動配筋検査の実施状況(専用スペースを確保)
アトアレによる自動配置、自動配筋検査の実施状況(専用スペースを確保)

専門工事会社の生産性向上につなげる/アトアレはアイコーが下支え

前田建設の建築現場で浸透する鉄筋/配筋 BIM システム『アトアレ』は、オートデスクの BIM ソフト『Revit』をベースとしたアドインツールだが、専門工事会社が使う加工図ソフトとのデータ連携が整わなければ、その枠組みは成立しない。開発時から鉄筋専門工事会社のアイコーが参加してきたのも、現場で使われている加工図ソフト『DIN-CAD』とデータの流れを厳密に検証する必要があったためだ。

DIN-CAD は、オートデスク汎用ソフト『AutoCAD』のアドオンツールとしてアイコーグループ会社のデーバーインフォメーションネットワーク(東京都中央区)が 2009 年に開発した。当初は自社の業務ツールとして位置付けていたが、アイコーの職人が活用している姿を見た他社から評判が口コミで広がり、14 年から外販に乗り出した。

実は、アイコーには他のゼネコンからも DIN-CAD 連携への相談があったという。藤池晴行常務執行役員は「専門工事会社目線の BIM を構築したいという前田建設の熱い思いに賛同し、アトアレの開発に全面協力してきた」と振り返る。同社では職長 20 人と協力企業の職人 40 人の計 60 人全てが DIN-CAD を使っており、鉄筋工事業の中でも先陣を切ってデジタル化に取り組んでいただけに「社を挙げて BIM 連携を実現したい」との思いを持っていた。

大手・準大手ゼネコンを中心に建築プロジェクトへの BIM 導入が拡大する中で、呼応するように DIN-CAD の販売も右肩上がりに推移している。デーバーインフォメーションネットワークの長嶋一浩取締役常務執行役員は「現在の契約数は 500 ライセンスを超え、順調に伸びており、関東中心だったユーザーも全国に広がり始めている」と強調する。

近年の建築現場では外国人労働者の姿も目立ち、専門工事会社にとっては BIM による可視化が有効なコミュニケーションツールにもなっている。DIN-CAD を業務ツールとして現場で積極的に展開する流れがきっかけとなり、ゼネコン側から鉄筋の納まり検討業務を依頼されるケースも増えてきた。施工企画部の岩永幸治部長は「もともと 2 次元で納まりを検討するケースは以前からあったが、前田建設とのアトアレ開発に取り組んだことで BIM 活用という武器を手に入れることができ、それが後押しする形で業務依頼に発展している」と強調する。

アイコーでは 22 年度からアトアレを活用した鉄筋の納まり検討を本格的に始めた。現在は年間 60 件の鉄筋工事に携わる中で、アウトソーシング業務は 4 割ほどを占めるまでに拡大している。藤池氏は「当初は営業活動の一環として無償で納まり検討を進めてきたが、現在はフィービジネスとして成長している」と手応えを口にする。

アイコーでは鉄筋納まり検討業務依頼が増加
アイコーでは鉄筋納まり検討業務依頼が増加

開発当初から月2回のペースで開いてきた前田建設とアイコーの調整会議は、現在も同様のペースで続いている。両社から毎回計 10 人ほどが参加している。アイコーの舘野邦之施工企画部課長は「既に標準仕様には完全対応しており、現在は特殊形状にも幅広く対応できるようにデータ連携環境を整えている」と明かす。

アトアレは、前田建設の現場で既に 70 件を超える導入実績がある。同社 ICI 未来共創センターリサーチ・事業化グループの龍神弘明シニアプロデューサーは「常に現場の声を形にしながらアトアレを進化し続けている」と説明する。社内では鉄筋工事以外の工種でも専門工事会社との連携を軸にした BIM のシステム開発が進行中。渡邉氏が「われわれの生産性向上は、専門工事会社の生産性向上につながらなければいけない」と強調するように、同社の BIM は専門工事会社との二人三脚で進んでいる。

前田建設とアイコーの調整会議は現在も続いている
前田建設とアイコーの調整会議は現在も続いている

専門工事会社と二人三脚フロー確立/設備、とび・土工でも最適化

前田建設は、鉄筋/配筋 BIM システム『アトアレ』を出発点に、他の工種でも専門工事会社との円滑な BIM 連携環境を整えようと動き出している。ICI 未来共創センターリサーチ・事業化グループの曽根巨充担当部長は「既に設備やとび・土工でも専門工事会社との BIM 連携を積極的に展開しており、全体最適の枠組みを形づくる」と説明する。

データ連携の軸には、施工段階の標準 BIM ソフトとして活用するオートデスクの『Revit』を位置付けている。各工種の専門工事会社も BIM ツールとして Revit を活用するケースが多いことから、各現場では Revit データの連携事例が着実に増えている。鉄骨工事では生産性の向上だけでなく、有効な安全対策の手段としても活用できると、部材の建て方を見える化するほか、鉄骨ファブリケータ側にも BIM データを共有する流れを確立しようとしている。

2022 年からは、各工種で先行する専門工事会社の BIM 導入効果を共有し、デジタル化のリテラシー向上にも結び付けてもらいたいと、専門工事会社向けの BIM/ICT オンラインセミナーを年 1 回のペースで開いている。23 年 10 月に開催したセミナーには、鉄筋工事で約 20 社、設備工事で約 35 社、とび・土工で約 25 社が参加した。

先行して BIM の導入効果を得ている専門工事会社の活用事例を紹介し、他の専門工事会社にも BIM 連携のポイントを水平展開することが狙いだ。鉄筋工事のセッションではアトアレを活用する鉄筋専門工事会社のアイコー(東京都中央区)が登壇した。4 月からは建設業に時間外労働の上限規制が適用され、生産性向上は専門工事会社にとっても直近の課題だ。曽根氏は「実際の工事でわれわれと連携しながら、どうやって BIM を有効活用しているかを同業各社に知ってもらい、まずはデジタル化と向き合ってもらうことが第一歩になる」と考えている。

前田建設にとっては先行している鉄筋工事でも BIM データ活用の余地がまだ残っているという。納まり検討のイメージによる可視化だけではなく、生産プロセスで正しい情報が次工程に流れていくワークフローを確立することが到達点の 1 つだ。図面作成、鉄筋加工、配筋・組み立て、配筋検査という流れで進む鉄筋工事の作業プロセスでは、鉄筋の加工から物流、施工、検査に至る部分についてもデジタル化を実現する青写真を描く。

ワークフロー図
ワークフロー図

既に社内では、設計段階から施工部門が参画するフロントローディング(業務前倒し)の流れを加速させており、これからは仮想空間上で確定した生産情報を実空間で再現するデジタルツインの領域にも踏み込んでいく。オートデスクとも Revit データと現実空間の融合に向けた検討などをさらに推し進める計画だ。

ゼネコン各社で広がる施工段階の BIM 活用は、元請け企業から生産情報を受け取る専門工事会社側のデジタル化への対応力をどこまで引き上げるかが重要になる。渡邉氏が「専門工事会社に対してデジタル化を推進するインセンティブ(動機付け)をきちんと明示することが何よりも大切」と強調するように、プロジェクト関係者それぞれが効果を享受できる全体最適の BIM ワークフロー確立が強く求められる。

前田建設ではアトアレから始まった専門工事会社との密な BIM 連携の考え方が他の工種にもつながろうとしている。曽根氏は「社を挙げて BIM 導入に踏み切った当初から、専門工事会社とのデータ連携をしっかりと進めていく流れを確立してきた。アトアレを出発点に、われわれが描く施工 BIM の形が着実に進展しつつある」と強調する。専門工事会社と二人三脚で進む前田建設の BIM 展開は、新たなステージを迎えようとしている。

左から龍神氏、大塲氏、渡邉氏、曽根氏、藤池氏、長嶋氏、岩永氏、舘野氏
左から龍神氏、大塲氏、渡邉氏、曽根氏、藤池氏、長嶋氏、岩永氏、舘野氏

この事例は2024年2月28日から3月1日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図DX-前田建設」を再編集しています。