全館デザイン監修と内装部分の設計・施工を担当した「ららぽーと堺」
全館デザイン監修と内装部分の設計・施工を担当した「ららぽーと堺」

同社が働き方の再構築に向け、BIM の本格導入にかじを切ったのは 3 年前のことだ。2022 年 1 月期からの 3 カ年中期経営計画でデジタル活用を基軸にビジネスと働き方の「進化」を掲げ、その手段として BIM の導入・活用を明確に打ち出した。

全国に 11 拠点を置く同社は総勢 1,000 人を超え、このうち設計領域を担うデザイン部門のデザイナーやプランナーは約 250 人、施工領域の制作部門に籍を置く技術者は約 470 人に達する。その中で実務に携わる全員にオートデスクの BIM ソフト『Revit』のライセンスを整備した。森永氏は「21 年からの 3 年間を導入期に位置付け、皆が BIM を使える組織を形づくろうと、人材育成に力を注いできた」と振り返る。

先行するデザイン部門は、BIM のスキルを段階別に分け、対象者の半数となる 100 人が実案件で BIM を実践できるレベルへの到達を 24 年 1 月期末の目標として設定した。制作部門では BIM 活用のスキルを複数の作業に分け、実際に取り組んだ作業をポイント化し、対象者の 3 分の 1 に当たる 100 人が全ポイントの取得を目標にしている。

岡崎勝久 BIM デザイン局長は「局所的な進め方では組織として BIM の効果を最大限に引き出せない。社員 1 人ひとりの BIM スキル向上とともに、成功体験の共有による意識改革にも取り組んでいる」と強調する。社内では総勢 50 人の BIM 推進委員会が組織され、教育や情報共有の母体として機能しており、組織が一丸となって向き合い、BIM 導入の歯車が回り始めた。

25 年 1 月期からスタートする 3 カ年の新中期経営計画では、BIM 導入のステージを「成長期」に位置付け、一気に定着を図る。森永氏は「これまでは 1 人ひとりの効率化の手段として BIM を重視してきた。これからは BIM プラットフォームを軸に蓄積したデータを組織として活用しながら“面”としての BIM 活用に切り替える」と強調する。

BIM 戦略図
BIM 戦略図

面的にデータ価値を最大化

その軸となる BIM プラットフォームの構築は導入期の最終年度に当たる 24 年 1 月期から 3 カ年計画でスタートしており、成長期のスタートに合わせて運用できるように 1 年前から準備してきた。導入期は BIM データを作ることに注力し、成長期はそのデータをプロジェクト関係者間で共有しながら利活用する。岡崎氏は「面(組織)としての使い方によって BIM データの価値は最大化する」と考えている。実際に BIM を使うデザイン部門や制作部門だけでなく、受注提案を担う営業部門も BIM の価値を理解することで「当社独自の一体的な BIM ソリューションに発展する」と付け加える。

社として取り組む DX(デジタルトランスフォーメーション)は管理部門のデジタル化が進行中。制作部門の基幹システムも再構築しており、書類作業の削減により、現場作業に集中できる環境づくりも動き出している。森永氏は「まさに BIM の定着も当社の DX に通じる成長戦略に他ならない」と力を込める。

イメージ共有で意思決定の迅速化が進む
イメージ共有で意思決定の迅速化が進む

一品生産の BIM ワークフロー確立

丹青社と BIM の出会いは、2016 年にさかのぼる。外資系チェーンストアからの受注条件として BIM 導入を指定されたことが出発点となった。それまで 2 次元 CAD を使っていた同社では BIM の研究を進めていたものの、実プロジェクトで導入したことはなかった。初案件で設計担当を務めた村井義史 BIM デザイン局 BIM マネージャーはオートデスクの BIM ソフト『Revit』を初めて使い、試行錯誤しながらも業務を完結したことを思い出す。

「このプロジェクトをきっかけに社内で私を含め 3、4 人が BIM に取り組み始めた。イメージを切り取り、それを図面化する 2 次元 CAD と違い、BIM は最初からイメージを形にしていく。設計の進め方はこれまでと異なり、当初は戸惑う部分もあったが、プロジェクトで実践しながら少しずつ BIM の仲間を増やしてきた」と振り返る。

外資系専門店やロードサイドフード店が中心だった同社の BIM 事例が、オフィス、ショールーム、パブリックスペース、物販店、大型施設など他分野に広がり始めたのは、初導入プロジェクトの完成から 4 年後となる 20 年のことだ。BIM 推進委員会の前身となる組織をデザインセンター内に発足し、成功体験の水平展開にかじを切った。

内装・ディスプレー分野を主戦場とする同社の業務は、建築プロジェクトの内装部分などを担う「一品生産」領域と、チェーンストアに代表される「店舗展開」領域に大別される。デザインをパターン化でき、それをアレンジしながら設計を進められる店舗展開は BIM との相性が良いが、一品生産の場合は用途が多岐にわたり、設計与条件もプロジェクトごとに異なるため、いかに BIM の流れを組み込むかが重要になる。

高橋久弥執行役員デザインセンター長は「店舗展開のように共通項の多いデザインは BIM によって知見を蓄積できる。今後は一品生産案件にも柔軟に対応できる BIM ワークフローの確立に力を注ぐ」と強調する。BIM 推進委員会で成功体験の水平展開に注力するのも、事例を積み上げることで、より最適な枠組みを導き出すためだ。

設計製図機械(ドラフター)を使った手書きによる設計から CAD に移行する時代の波が到来したのは今からおよそ 30 年前。机にパソコン(CAD)とドラフターを置き、2 つのツールを使い分けながら習得してきた。「当時は道具の変化だったが、BIM の導入は設計の考え方や枠組みから変えていく必要がある。テクニックより、むしろマインドセットが大切になる」と続ける。

導入分野は着実に拡大
導入分野は着実に拡大

自分事にマインドセット

同社が中期経営計画で BIM を働き方改革の手段に位置付けるのも、社員 1 人ひとりに「自分事」として BIM を活用することを重要視しているからだ。BIM 戦略を指揮する森永氏が「社内の成功体験を共有し、皆に BIM の良さを実感してもらうことが組織力につながる」というように、同社はボトムアップの BIM 普及に力を注ぐ。

21 年から社内の活用事例を表彰する『BIM AWARD』を創設したのもその一環だ。エントリーした事例には合意形成の円滑化や業務の手戻り解消に加え、作業時間の短縮を実現する取り組みも多く、さまざまな成功体験が具体化してきた。森永氏は「好事例が社内の良い刺激になっている」と手応えを口にする。

社内制度『BIM AWARD』で 成功体験を共有
社内制度『BIM AWARD』で 成功体験を共有

設計と施工を一体的に取り組む

丹青社が BIM の成功体験を共有するために創設した社内表彰『BIM AWARD』はこれまでに 3 回を数える。初代グランプリに輝いたプロジェクトは、デザイン部門と制作部門が連携した設計・施工一体の BIM 活用事例となり、内装・ディスプレー業界の BIM トップランナーとして丹青社を外部に印象付けるきっかけにもなった。

高さ 20 m にもおよぶ巨大なエントランスの内装を手掛けた同社は、実施設計と施工を担った。建築施工者から引き継がれた基本設計の 2 次元図面を BIM 化した上で、設備や構造を担う企業から提供された BIM データと組み合わせた統合モデルによって細部にわたって収まりを確認。そのデータを制作部門にも共有し、造作にも活用した。設計を担当した村井氏は「設計と施工を一体で取り組んだ当社としての初の事例でもあった」と強調する。

「Navisworks」を使って納まり検証
「Navisworks」を使って納まり検証

第 2 回のグランプリに選定した複合施設『YANMAR TOKYO』の地下 1 階に誕生したイベントスペース『HANASAKA SQUARE』は、クリエーティブディレクターの佐藤可士和氏がトータルプロデュースし、同社が設計部分を担った。20 種類のパーツや約 6,000 枚におよぶ桜の花びらを幾重にも重ねる空間表現の具現化に BIM をフル活用した。村井氏は「積算連携にも取り組み、予算管理の最適化を実現した事例」と明かす。

複合施設や博物館などでは装飾パーツに加え、LED 照明などの使用面積も多く、設計段階から積算情報をリアルタイムに把握することが制作コストの最適化につながる。BIM で設計したプロジェクトは施工でも BIM を活用することを推奨している同社にとっては、生産性向上の手段としても BIM を位置付けている。

BIMをフル活用した『HANASAKA SQUARE』
BIMをフル活用した『HANASAKA SQUARE』
装飾もBIMデータから出力
装飾もBIMデータから出力

現場担当に Revit 整備

先行するデザイン部門の後を追うように、施工を担う制作部門も BIM の普及が着実に進展している。現場に携わる技術者約 300 人全てにオートデスクの BIM ソフト『Revit』を整備し、活用事例も増えてきた。山田孝志執行役員テクニカルセンター長は「まだ部分的な活用にとどまっているが、現場の特性を踏まえ、有効に BIM を使いこなすケースも目立ち始めた」と手応えを口にする。

制作部門の BIM 導入は 2021 年からスタートした。テクニカルマネジメント統括部制作企画課の松山新吾課長は「当時は各事業部の数人に Revit ライセンスが与えられ、皆で勉強会を重ねながら徐々に仲間を増やしてきた」と振り返る。デザイン部門では施主やプロジェクト関係者と合意形成を図るコミュニケーションツールとして機能している BIM だが、施工領域の制作部門では 360 度カメラを使い、現況画像と BIM モデルを比較しながら収まりや仕上げの確認を行う現場などもあり、生産性向上ツールとして BIM が機能している。

リニューアルプロジェクトでは、図面類が現存しないケースも多く、制作部門が3次元計測で取得した点群データをデザイン部門に渡すケースもあり、BIM を軸に制作部門とデザイン部門が双方向に連携する流れも強まってきた。山田氏は「設計と施工の連携だけでなく、工場にもデータがつながることでより BIM の価値は高まる。制作部門では BIM データを協力会社にも渡すことを前提に動き出した」と強調する。

制作部門でも着実にBIM導入が進展
制作部門でも着実にBIM導入が進展
図面がない場合は点群データからBIM化
図面がない場合は点群データからBIM化

外部工場と連携した生産合理化/データ活用は点から面へ

丹青社では BIM を軸にデザイン部門と制作部門の連携がより強まってきた。森永氏は「BIM データの活用が点から面へと広がっている」と実感している。オートデスクの BIM ソフト『Revit』を全面導入する同社の動きに合わせるように、木工や金物の外部工場との BIM 連携も目立つようになった。同社が取引する主要工場は全国で 50 社に達し、そのうち1割ほどが BIM 対応にかじを切っているという。

建設業界では先行導入したゼネコンを出発点に、鉄骨ファブリケーターや設備工事会社など協力会社の BIM 導入が進展している。山田氏は「取引工場では連携ソフトを介し、Revit データを加工機械に連携させ、生産合理化につなげている。未対応の工場からも相談が出始めており、工場との BIM 連携は今後着実に広がっていくだろう」と説明する。

同社は、BIM の本格導入にかじを切った 2021 年 1 月期からの 3 年間を導入期に位置付け、BIM スキルの向上に力を注いできた。森永氏は「何よりも社員 1 人ひとりの変化が当社の BIM の原動力になっている。導入期を経て、社員の BIM に対する意識は大きく変わった」と強調する。

BIM 戦略の最重点項目として取り組んできた人材育成は着実に成果が出ている。先行するデザイン部門は、BIM スキルのレベルを複数段階に区分けし、年度ごとの達成目標を掲げている。24 年 1 月期は、基本操作をマスターした上で、実務に BIMデータを使えるレベルを、デザイン部門の半数が確保することを目標にしてきた。岡崎氏は「皆が自分事として BIM スキル向上に取り組んでいる」と手応えを口にする。

目指すべき到達点は、日常的に BIM を使うようになるレベルへの組織的な移行だ。先行するように 20 代、30 代の若手は BIM への対応力を伸ばしている。最上位のレベルには社内の講師役を位置付けており、現在は 5 人ほどに達する。そのうちの 1 人である村井氏は、解説動画で講師を務めるなど自らのノウハウを積極的に提供している。

動画は 1 回当たり 10-15 分となり、全 70 回におよぶ。村井氏が「Revit 活用のポイントを伝授している」というように、社内では BIM スキル向上のバイブルとしてフル活用されている。制作部門の BIM 推進役を務めるテクニカルマネジメント統括部制作企画課の松山氏は「この動画で学び、現場で実践する流れが着実に広がり始めている」と実感している。

制作部門では、BIM 活用の作業を育成課題に位置付けている。課題として「基礎」と「応用」を分け、その中に制作業務に有効な活用の項目を設定している。24 年 1 月期の目標として「基礎+応用」を約 100 人がクリアすることを掲げている。山田氏は「実案件でのチャレンジを経験値としてポイント化することで、自らのスキルが見える化でき、それが意識の向上につながっている」と語る。

新たな中期経営計画の初年度となる 25 年 1 月期がまもなくスタートする。同社では BIM を軸にデザイン、制作、営業の各部門が一体になって動き出した。

社員の意識変化が組織力に
社員の意識変化が組織力に

データ解析で設計根拠を明確化

丹青社の BIM ステージは「導入期」を経て「成長期」に入ろうとしている。2025 年 1 月期から 3 カ年の新中期経営計画に合わせ、データ連携の基盤を担う BIM プラットフォームを始動し、業務ツールとしてオートデスクの BIM ソフト『Revit』の定着を図る。

岡崎氏は「成長期最終年度の 26 年 1 月期には日常的に BIM を使う組織として導入のステージを 1 つ上げたい」と先を見据える。設計を担うデザイン部門で作成したRevitデータを施工領域の制作部門につなぐ基盤として、オートデスクのクラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud』(ACC)を位置付け、独自の BIM ワークフロー確立にも乗り出す。

同社は、蓄積したデータを現場作業の自動化などにも生かそうと準備しており、BIM をインフラデータに位置付け、多角的に利活用する青写真を描く。プラットフォームに BIM データをどのように納めるか、その基準やルールを盛り込んだガイドラインの素案もこの 1 年で整えてきた。26 年 1 月期にデータ連携の環境を確立し、27 年 1 月期にはデータ活用環境の基盤を完了させ、新たな BIM 活用のステージに踏み込む。

森永氏は「重要なのはきちんとしたルールに基づいてデータを蓄積することであり、それによって施主を含むプロジェクト関係者の新たな価値として BIM データが生まれ変わる」と考えている。同社は 24 年 1 月期から 3 カ年を BIM の「成長期」、さらにその先の 3 カ年を「活用期」と位置付ける。「BIM データを他のデジタルデータと組み合わせることで、われわれは DX の領域にも踏み込んでいく」と語る。

これまで手薄だった内装工事完了後のアフターメンテナンスへの対応も、BIM データの活用によって新たな業務創出の可能性を見いだせる。これにより内装・ディスプレー分野と関係性が深い設備や照明などの領域ともより密接につながる道筋が開ける。村井氏は「われわれの BIM データに関連領域のデータを組み合わせた解析が実現すれば、施主に対して設計の根拠を明確に示すことができる」と説く。

BIM をきっかけに受注が成立するケースも少しずつ出てきた。最前線の営業担当が BIM の成功事例を理解し、受注時の差別化提案として盛り込む流れが広がっていることが背景にある。博覧会など国を挙げたイベントで成長を遂げてきた同社だけに、Revit データの提出が義務化される 25 年大阪・関西万博の関連施設への準備も進めており、BIM を足がかりに受注拡大を狙う。

同社のBIMステージは「成長期」に入る
同社のBIMステージは「成長期」に入る

ディスプレー業界をけん引

最近は、大型プロジェクトを中心に元請けのゼネコンから BIM データを提供されるケースも増えてきた。建設業界内で「丹青社=BIM」との認識が徐々に浸透してきた裏返しでもある。ゼネコンや設計事務所が先行する中、近年は設備工事業などの分野も BIM に大きくかじを切り始めた。森永氏は「われわれ内装ディスプレー分野も同様だ。いずれ BIM が当たり前の時代が到来することは間違いない。当社がこの流れをけん引し、業界の発展に貢献していきたい」と力強く語る。

左から村井氏、岡崎氏、高橋氏、森永氏、山田氏、松山氏
左から村井氏、岡崎氏、高橋氏、森永氏、山田氏、松山氏

この事例は2024年1月22日から1月29日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図DX-丹青社」を再編集しています。