現場目線の足場モデルづくり/最前線が現場ニーズ把握

同社が提供する足場 BIM の方向性は“見える化”から、現場で“使える化”へと移行している。導入から3 年で BIM のステージを 1 つ上げた。推進役として最前線に立つ技術営業部デジタルサービス推進課の三宅祥子課長は「現場が何を求めているのか、そのニーズをきちんと把握することに力を注いでいる」と話す。現場目線の足場 BIM づくりがコンセプトになっている。

2017 年から社内向けの数量算出ツールとして BIMの導入を始めた同社は、CAD で立案していた仮設計画を BIM データ化することでモデリングのノウハウを蓄積してきた。19 年に東京都内の大型プロジェクトで BIM をフル活用する大手ゼネコンから足場モデルを求められたことがきっかけとなり、実現場への提供が始まった。その時の施工者がオートデスクの BIMソフト『Revit』を使っていたこともあり、社を挙げてRevit を軸とした BIM ワークフローの確立にかじを切った。

技術営業部設計課の吉川聖武課長は「いまではゼネコンから提供される図面を単に BIM 化するのではなく、現場のニーズに見合ったモデルづくりを重要視している」と話す。BIM を本格導入するゼネコンでも、現場によって BIM の要求レベルにばらつきがある。足場モデルの提供実績は 300 現場に達するものの、中には足場モデルが現場内で効果的に使われていないケースもある。現場の要求に見合ったモデルをつくる手段の 1 つとして、1 年前から現場のニーズを把握する「ヒアリングシート」の導入もスタートした。

技術営業部 デジタルサービス推進課  課長 三宅 祥子 氏
技術営業部 デジタルサービス推進課 課長
三宅 祥子 氏
技術営業部 設計課  課長 吉川 聖武 氏
技術営業部 設計課 課長
吉川 聖武 氏

ゼネコンの現場担当にとっては部材数量の迅速な把握に加え、BIM の見える化によって足場の組み方についても現場関係者間で共有しやすくなる。とび職とのコミュニケーションツールとして、数量の最適化にもつながる。三宅氏は「従来の 2 次元図面では見つけにくかったつじつまの合わない部分も、BIM によって明確に確認できるようになった」と、品質面の効果も実感している。

【2D 申請図】
2 次元では見つけにくい部分も BIM で明確に
【BIM モデル】
2 次元では見つけにくい部分も BIM で明確に
2 次元では見つけにくい部分も BIM で明確に

現行の CAD 作図では基準点を決めて設計を進めるが、実際の現場では敷地の状況や躯体のせり上がりもあり、高さが微妙に異なる。吉川氏は「BIM 対応の現場では現況を細かく把握するため、より正確な計画が立案できている」と強調する。

その根底には、最前線の営業担当と設計担当が密接に連携する社内の枠組みを確立したことも大きく関係している。三宅氏は「われわれ最前線がしっかりと現場のニーズを聞き、設計課にオーダーする流れが整ったことで的確なモデルづくりを実現できるようになった」と説明する。現場目線の足場 BIM づくりを重視することで、社内の意識が変わるきっかけにもなった。

「手軽感」重視のモデルづくり/Revit 扱う二刀流育成

「BIM をきっかけに現場で足場がどう組まれていくかをイメージしながら設計する意識が芽生えてきた」。杉孝の吉川聖武設計課課長は、広がり始めた設計担当者の意識変化を実感している。ゼネコンに足場モデルを提供するようになって 3 年が経過し、社内の BIM に対する向き合い方も変化している。

足場がどう組まれるかイメージして設計する意識が広がっている
足場がどう組まれるかイメージして設計する意識が広がっている

設計課では、現場と密接に連携する最前線の設計担当が中心になり、BIM 対応を進めている。普段はオートデスクの汎用 CAD『AutoCAD』を業務ツールとして使っているが、BIM 案件については BIM ソフト『Revit』で対応しているため、社内では Revit も扱える“二刀流”の設計担当を育てている。作図業務を担うベトナム子会社でも、Revit を扱えるオペレーターを増やしており、グループを挙げて BIM への対応力を引き上げている。

現在の BIM 対応案件は年 100 件を超える。吉川氏は「この規模であれば十分に対応できるが、今後さらに案件数が増えれば、体制を拡充していく必要がある。いまは最前線で活動する設計担当の全てが “二刀流”になれるよう、今後も人材育成に力を入れていく」と強調する。

CAD 図面と足場モデルデータの違いは、3 次元による視覚的な効果だけではない。施工ステップまで表現でき、時系列で足場がどう組まれていくか、そのイメージを共有できる点も BIM の利点だ。とび職を含め現場関係者と作業の流れをリアルタイムに確認できる。技術営業部デジタルサービス推進課の三宅祥子課長は「足場モデルを有効に使ってもらうためにも、ニーズを把握し、現場目線の足場モデルづくりに力を注いでいる」と語る。

足場モデルづくりで心掛けているのは「手軽感」と、両氏は口をそろえる。年間 100 件に達する BIM 案件だが、これは同社が手掛ける年間件数の 1 割にも満たない。9 割以上の案件は AutoCAD を使い、2 次元ベースでものづくりを進めている。「BIM でも同等のスピードで作業できなければ、生産性向上のツールとして社内に浸透していかない」と考えている。

手拾いで進めていた数出し作業は、足場モデルを使えばワンクリックで完了するようになった。手拾い作業は 1 工区単位で 1、2 時間かかっており、BIM 現場の作業負担は大幅に軽減している。ただ、足場モデルの作成時間については、まだ CAD 作図よりも時間がかかってしまうのが現状だ。

足場の計画パターンは無尽蔵で、部材点数も多い。より効率的にモデル化できる仕掛けとして、セットファミリー化の試みも進めているが、足場の計画は変更が頻繁にあり、修正への対応が難しいという課題もある。三宅氏は「BIM の完全導入にはまだ多くの課題がある」と明かす。モデルから出力した申請図面の精度向上も乗り越えるべき重点課題の 1 つだ。

BIMモデリングサービスのフロー
BIMモデリングサービスのフロー

データつなぎ注文から供給へ/到達点はプラットフォーム化

杉孝が足場モデルを提供するゼネコンの現場では、5 年前から運用を始めた独自のウェブオーダーシステム『COLA』が活用される傾向が強いという。同社が標準システムに位置付けるオートデスクの BIM ソフト『Revit』は集計表を CSV ファイルデータとして書き出すことが可能で、これを COLA に取り込む形で連携すれば、簡単に注文まで実現できる使い勝手の良さが要因の 1 つだ。

BIM 現場はウェブオーダーシステム「COLA」を積極活用
BIM 現場はウェブオーダーシステム「COLA」を積極活用

COLA は 24 時間の注文が可能で、しかもシステム内に搭載する自動計算機能によって、注文する仮設機材の個数や重量を明確に把握できる。現在のユーザー登録数は 3 万 6000 社を超える。首都圏内の活用は全体の 5 割に達するが、BIM 現場の活用率はそれを大きく上回る。技術営業部デジタルサービス推進課の三宅祥子課長は「COLA を有効に活用するために BIM を指定する現場もあるほど」と説明する。

BIM を使って付加価値を提供する仕掛けは、他にもある。CG コンテンツ制作会社の積木製作(東京都墨田区)と MR(複合現実)を活用した足場安全教育用のコンテンツを開発し、事務所に居ながら足場点検などを学べる枠組みを整えた。足場モデルを提供する実プロジェクトでの現場検討会では VR を使った安全対策もスタートした。

事務所に居ながら学べる足場安全教育用コンテンツも開発
事務所に居ながら学べる足場安全教育用コンテンツも開発

設計課の吉川聖武課長は「社としてオール BIM 化を目指していることは間違いないが、重要なのはBIM と関連するデータがシームレスに結び付く連携性が重要になる」と焦点を絞り込む。BIM を本格導入するゼネコンとはオートデスクのプラットフォーム『BIM 360』などを使ってリアルタイムに情報を共有しているが、とび職とは直接的に共有する手段がない。

同社が足場モデルづくりで「手軽感」を掲げるのも、とび職をはじめ現場関係者と手軽にコミュニケーションを向上していきたいとの思いからだ。Revit を有効に活用するための支援パッケージ『BooT・one』を提供する応用技術(大阪市)が、そうしたノン BIMユーザー向けのクラウドサービスとして運用を始めた『Connect・one QS』も有効な手段になり得ると、導入検証をスタートした。

三宅氏は「足場モデルのデータを生産工程まで有効活用していくことが、当社が目指している BIM のカタチ」と強調する。足場モデルの中にあるさまざまなデータは同社の事業基盤であり、注文からリアルタイムで現場に機材を供給できるデリバリーの部分にまでシームレスにデータをつなぐプラットフォーム化を到達点の 1 つに置く。

目指すのは仮設計画の立案から積算、見積もり、数出し、搬入、配車、安全点検、引き取りまでを一元管理する一貫システムの確立だ。仮設機材レンタル分野では先頭に立つ同社の BIM 対応だが、杉山亮取締役副社長は「われわれの目指す BIM の到達点から言えば、まだ山の 2 合目当たりを登っているところ」と語る。同社は BIM を基軸にDX(デジタルトランスフォーメーション)の領域に踏み込もうと動き出した。

この事例は、日刊建設通信新聞で2022 年 9 月に掲載された「BIM 未来図 仮設リース業のいま - 杉孝」の連載記事を再編集したものです。