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オリエンタルコンサルタンツ
DX手段に主導型ビジネスへ転換 BIM/CIMを高度活用

オリエンタルコンサルタンツの BIM/CIM 活用が DX(デジタルトランスフォーメーション)の領域に踏み込んでいる。DX 推進本部長の青木滋取締役執行役員は「業務プロセスの変革に向けた基幹技術として BIM/CIM が定着し、社を挙げた DX 推進へと深化している」と強調する。BIM/CIM の高度化により、建設コンサルタントとしての新たな役割も見え始めてきた。

アニメーション機能を使った施工計画の見える化
アニメーション機能を使った施工計画の見える化

2030 年に向けた経営ビジョンとして「社会価値創造企業」を掲げる同社は、基本戦略のキーワードに「革新(イノベーション)」「変革(チェンジ)」「挑戦(チャレンジ)」を設定する。変革への戦略として受動型から主導型へのビジネス転換を掲げており、その手段として「DX 推進」を明確に位置付ける。

社内に DX 推進本部を立ち上げたのは 4 年前。当時は国土交通省が 23 年度からの BIM/CIM 原則化に向け大きくかじを切ったタイミングでもあり、BIM/CIM 推進室と CIM 人材育成検討委員会を発足し、DX の基盤となる BIM/CIM の確立に乗り出した。青木氏は業務ツールとしてオートデスク製品を主体的に使う中で「DX の推進に向けて BIM/CIM 活用をどう展開していくべきか、当社の事業戦略に照らし合わせながら、社としての方向性を整えてきた」と明かす。

20 年度に 63 件だった BIM/CIM 活用業務件数は 22 年度に 131 件、23 年度も 130 件を大きく上回る見通し。既に社内では BIM/CIM 活用が定着し、BIM/CIM 推進室を介さず、各部門が自発的に推進する流れが整ったことから、国交省の BIM/CIM 原則化前となる 22 年 10 月に BIM/CIM推進室を発展解消した。

各部門で自発的に BIM/CIM を推進する流れが定着
各部門で自発的に BIM/CIM を推進する流れが定着

CIM 人材育成検討委員会が認定する社内資格者は、日常業務でオートデスク製品などの各種ソフトを使いこなす初級人材が 200 人を超え、高度な操作スキルを持つ中級のスペシャリストは 20 人、事業や業務の課題解決に BIM/CIM で対応する上級のゼネラリストは 30 人に達するまでに拡大した。青木氏は「1 年前に組織の BIM/CIM 基盤が整い、DX 推進のステージに入ることができた」と説明する。

社内では、BIM/CIM を利用することへの抵抗感が少なくなり、より高度な利用方法を模索する際に DX 推進本部へ支援依頼が届く。支援は企画提案が中心で、BIM/CIM の作成は現場が主体となる。DX 推進本部の出本剛史副本部長は「事業部の BIM/CIM 活用は高度化し、従来とは違った BIM/CIM の使い方が広がっている」と強調する。

DX 推進本部には、各事業部で BIM/CIM を先導する人材を集約しており、DX 戦略の基盤技術として BIM/CIM が機能するような流れを確立している。「当社にとって BIM/CIM 活用はプロローグでしかなく、BIM/CIM を使って DX 領域にしっかりとつなげることを前提にしている」と続ける。

目指すのは、インフラ分野の調査から設計、施工、維持管理までを見据えた「ライフサイクルマネジメント」と、まちづくりの視点で取り組む「エリアマネジメント」への展開だ。青木氏は「各事業部で BIM/CIM の導入効果が現れ、われわれ建設コンサルタントとしての事業の幅も広がり始めている」と強調する。

既設と新設のトンネル位置を照査・対策検討
既設と新設のトンネル位置を照査・対策検討

3D 空間で詳細なまちづくり検証/LCM 見据えた事例も拡大

オリエンタルコンサルタンツの BIM/CIM 活用が高度化する中で、出本氏は「特に計画立案から維持管理までをワンストップでサービスするライフサイクルマネジメントを見据えた活用事例が着実に増えている」と説明する。

電線共同溝の設計段階では、錯綜するライフラインの計画立案を円滑化する手段として、3 次元モデルの自動設計プログラムを開発した。国土交通省が全国 9 カ所で進めている電線共同溝 PFI 事業のうち、同社は 5 事業に参画しており、1 年前に自動設計プログラムの導入に踏み切った。

MR を用いて電線共同溝で不可視部分となる地下空間を見える化
MR を用いて電線共同溝で不可視部分となる地下空間を見える化

関係者との協議によって計画を固めるため、協議のたびに計画が変更されるケースが多いことから、これまでは 2 次元設計後に 3 次元化せざるを得なかった。設計時の入力方法をルール化し、誰が設計しても自動化できる枠組みを確立したことで、業務の大幅な効率化につながっている。DX 推進本部の三住泰之氏は「作業時間にして 1 カ月ほどの短縮効果があり、そこで削減した時間を別の作業に回す省人化の効果も生まれている」と強調する。

河川事業では、3 次元管内図と BIM/CIM を統合したデータプラットフォームを使い、関係者との協議を円滑化し、事業の詳細な事前検討にも役立てている。既に国土交通省の事業で採用実績がある。DX 推進本部の吉田勢氏は「時間軸を入れた 4 次元シミュレーションによって施工段階の対策もフロントローディングして検証できる」と説明する。

3 次元管内図を用いた情報の一元管理
3 次元管内図を用いた情報の一元管理

両システムは、オートデスクの 3 次元土木設計ソフト『Civil 3D』をベースに構築している。出本氏は「オートデスク側にわれわれのアイデアを伝え、どのような機能を組み合わせれば具現化できるか、その実現性を両社間で検証し、システムを構築している」と説明する。オートデスクとは DX 推進本部が発足した 4 年前から密に情報共有を進めており、それをきっかけに BIM/CIM 活用の高度化が一気に進展した。

全社的に BIM/CIM が定着する中で、関係者との情報共有の手段として、VR(仮想現実)への展開事例も増えている。地元協議の確認ツールとして活用するだけでなく、インフラ整備によって変化する施設の使い方を検証するツールとしても活用している。

リニア新幹線新駅が計画されている自治体では仮想の都市空間上で車の自動運転をシミュレーションする業務を実施しているほか、国土交通省の 3 次元都市モデル「PLATEAU(プラトー)」をエリアマネジメントに取り組む事例もある。DX 推進本部の中村実氏は「交通量や人の動きを 3 次元空間上で表現することにより、詳細なまちづくりの検証ができている」とし、出本氏は「これまでは道路や河川などインフラ構造物への活用が中心だったが、これからは交通や地方創生などエリアマネジメント分野への展開も重視する」と強調する。

建設コンサルタントにとって、BIM/CIMや 3 次元都市モデルの活用は業務の差別化につながる切り口の 1 つだけに、同社の企画提案も従来とは大きな変化が出てきた。青木氏は「各事業部で BIM/CIM を先導していたメンバーが事業の DX 化をけん引しており、それが組織力としても機能している」と手応えを口にする。

AI カメラで観測した人をリアルタイムでアバター化して、3 次元都市モデルに投影
AI カメラで観測した人をリアルタイムでアバター化して、3 次元都市モデルに投影

領域広げスマートシティに展開/ゼネラリストがつなぎ役

BIM/CIM を通過点に DX の領域に踏み込むオリエンタルコンサルタンツにとって、事業立案のキーマンになっているのが、社内で認定する上級資格者のゼネラリストだ。全国で 30 人に達する。出本氏は「彼らが社内外の"通訳"として機能していくことになる」と説明する。

社内では、全体像を見据えた上で提案づくりを進めている。DX 推進の到達点として「ライフサイクルマネジメント」と「エリアマネジメント」を位置付けており、そこに BIM/CIM や DX をどう活用していくか、関係者が意見を出し合いながら最適解を導いている。社内に加え、発注者や施工者、さらにはソフトベンダーやシステム会社などからも広く意見を聞くこともあり、DX 推進本部とともに、ゼネラリストが全体のつなぎ役を担っている。

リニア新幹線新駅が計画されている自治体では車の自動運転シミュレーション業務を機に、まちづくりや防災の観点にも業務が広がっている。このように複数の事業部が連携する業務も増えている。青木氏は「部署間の垣根を取り払い、業務の方向性を整えることも DX 推進本部の重要な役割」と説明する。

サイバー空間上で自動運転をシミュレーション
サイバー空間上で自動運転をシミュレーション

特に BIM/CIM を活用したプログラム化についてはオートデスクと連携しながら計画実現性を検討し、システム開発につなげている。ソリューションの概要を 2 分ほどのプレゼンテーション動画に集約し、システムの価値を説明している。出本氏は「オートデスクがこちらの要望を丁寧に聞き取って対応してくれることでより深い対話ができている」と説明する。

同社では BIM/CIM 活用が定着したことで、社を挙げて DX の領域に踏み出すことが可能になった。CIM 人材育成検討委員会には各事業部から総勢 100 人ほどが参加しており、社内では技術者の重要なスキルとして BIM/CIM が位置付けられている。委員会運営を下支えしている三住氏は「人材が整い、部署内で教え合う流れが広がり、それに併せて BIM/CIM のアイデアをお互いで共有し合う流れも出てきた」と語る。

DX 推進本部は、具体的な成果を出すことを前提に事業を立案している。出本氏が「常に何か新しい切り口がないかを探しながら、アイデア出しを進めている」というように、最近では同業他社にない新たな取り組みとして、土工部 ICT 施工データ変換システム「eMS」を開発した。

土工部 ICT 施工データ変換システム(eMS)の効果も実証済み
土工部 ICT 施工データ変換システム(eMS)の効果も実証済み

国土交通省の BIM/CIM 原則化が動き出すものの、施工者は設計段階の BIM/CIM を使わず、ICT 施工用の 3 次元モデルを自ら作成している状況がある。eMS では設計の BIM/CIM を簡単に施工モデルとして加工できる。国交省直轄 3 現場で実証実験し、施工者の作業時間が約 8 割削減できる効果を実証済み。今後は外販にも乗り出すという。

これまで BIM/CIM の活用は、自社の業務効率化や省人化が主体となっていた。青木氏は「DX では発注者や地元住民も含め、多岐にわたるインフラ事業関係者側のメリットにつながる視点も重要になる」と強調する。DX 推進の到達点として掲げる「ライフサイクルマネジメント」と「エリアマネジメント」の先には、「スマートシティ」への展開がある。同社は一歩ずつ着実に DX 推進の領域を広げ始めている。

左から吉田氏、出本氏、青木氏、三住氏、中村氏
左から吉田氏、出本氏、青木氏、三住氏、中村氏

(本記事は建設通信新聞のシリーズ連載「BIM/CIM 未来図」からの転載になります)