中日本高速道路(以下、NEXCO 中日本)は、2017 年に CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)導入に着手し、既に中央自動車道小仏トンネルの渋滞対策事業や 新東名高速道路の土工工事などに導入している。今後、ICT 土工を本格的に採用 するほか、プレキャスト部材による橋梁工事の効率化や 2,000 km にもわたる高速 道路網の IoT(モノのインターネット)的な維持管理など、CIM による高速道路の建設、維持管理の生産性を大きく変えていきそうだ。
「土石流などの影響を防ぐため、トンネルの坑口はなるべく谷を避けた方が安全です。CIM モデルで検討を行うとトンネルの坑口と周囲の尾根や谷などの地形との位置関係がよくわかります」と、大型モニターを指さして説明するのは、NEXCO 中日本東京支社 環境・技術管理部 環境・技術チームでサブリーダーを務める石田篤徳氏だ。
東京都と神奈川県にまたがる中央自動車道の小仏トンネルでは、上り線の渋滞対策のため、小仏トンネルを 1 車線分増設する事業が行われている。2016 年に国土交通省が i-Construction 施策をスタートさせたのと軌を一にして、NEXCO 中日本でも CIM を本格的に導入した。その適用現場第 1 号になったのが小仏トンネル渋滞対策事業だった。
同社はこのほか、東京外かく環状道路でも CIM モデルを導入した。構造物や施工計画の位置関係を可視化するとともに、将来の維持管理業務での活用を視野に入れたものだ。
「東京外かく環状道路は、国交省や東日本高速道路と当社の事業が複雑に入り組んでおり、事業主体間の入念な調整が求められます。CIM モデルでシミュレーションを行うと、橋からトンネルに接続する部分の取り合いなどの詳細がはっきりし、いままで 2D の図面で表現できなかった『モヤモヤ感』がなくなります」と石田氏は言う。
NEXCO 中日本は CIM の本格導入に当たり、オートデスクの CIM 用 3 次元 CAD「AutoCAD Civil 3D」や「AutoCAD Map 3D」、複数の CIM モデルを統合して見ることができる「Navisworks」などを含む CIM ソフトパッケージの「Infrastructure Design Suite」を導入した。このほか、数十 km にも及ぶ土木インフラを 3D モデル化できる「InfraWorks」を含む「AEC コレクション」を導入している。
「InfraWorks にはウォークスルー機能も付いており、完成後のトンネルを走行するドライバーの視点で、トンネル内の視環境や標識などの視認性を事前に確認することができます。これまでの2 次元図面では、こうしたシミュレーションは困難でした」(石田氏)。
トンネル現場での CIM 導入に続き、NEXCO 中日本が目指すのは CIM モデルと ICT 建機によって施工する ICT 土工の本格導入だ。複数年契約の工事が多い同社では、測量から設計、施工までを 3D で行う「フル ICT 土工」を 4 件、一部に ICT 土工の技術を用いる工事を 10 件スタートしている。
「山間部を通る道路が多い当社の工事では、山の斜面を切り土、盛り土で通す区間が多くあります。そのため、ドローン測量では斜面を含めた 3D モデルを高精度で作る必要があり、平らな現場とは違った難しさがあります」と石田氏は説明する。
国土交通省の i-Construction 施策では、(1)ICT 土工、(2)コンクリート工の規格の標準化など、(3)施工時期の平準化という 3 つの「トップランナー施策」が挙げられており、ICT 土工が先行している。
これに対し、NEXCO 中日本では、プレキャスト PC 部材を活用した「U コンポ桁」や「PC 床版」の活用によるコンクリート橋建設の効率化が進んでいる。U コンポ桁は 7 件、PC 床版は 2 件の工事で適用している。
これらの工法は、使用する PC 部材を規格化しやすく、各部材を CIM パーツ化しておくことで、詳細設計の効率化が期待できる。
「3 次元モデルを使って設計する CIM なら、誰でも完成後の様子が詳細にわかります。維持管理の担当者にも、橋の設計段階で参加してもらうことで、より維持管理がしやすい橋にする『フロントローディング』も実現しそうです」と石田氏は言う。
このほか、NEXCO 東日本、NEXCO 西日本と共通する 2 次元の標準図集もある。例えば、標識の支柱やガードレールなどだ。これらを施工図レベルの CIM パーツ化しておくことで、NEXCO 関連の設計業務を効率化するのに役立ちそうだ。
また、高所での型枠工事やコンクリート打設工事がほとんどなくなるため、現場での生産性や作業の安全性が高まる。
NEXCO 中日本では、複数年契約の工事が主流のため、施工時期の平準化については単年度契約の工事に比べて、かなり改善が図られている。あとは、ICT 土工を本格化すれば、国交省が i-Construction で目指す 3 つのトップランナー施策とほぼ同じ目標を実現できそうだ。
NEXCO 中日本にとって、高速道路の建設はもちろん、その後、長く続く完成後の運用・維持管理はさらに重要な仕事だ。管理する高速道路網の延長は、約 2,000 km にも及ぶ。現在は GIS を使ってタブレット端末などで参照できる「点検・補修業務支援システム」などが使われている。
今後は既に供用中の道路を含めて高速道路網全線をどのように 3D モデル化し、既存のシステムを統合しながら、維持管理の効率化を実現していくかが課題だ。
既設の高速道路を CIM モデル化するのに、活用を検討しているのが 3D レーザースキャナーを車両に搭載し、路上を走行しながら路面や道路標識、周囲の構造物などを丸ごと 3 次元の点群データとして計測できる「MMS(モービルマッピングシステム)」だ。
従来の縦断測量に比べて面的に道路の状況を把握できるうえ、交通規制が不要というメリットがある。継続的に計測していくと、長期的な路面の沈下傾向も計測できる。
「路面の凹凸を 3 次元の点群データで可視化すると、一定間隔の断面でなく、路面を連続の面として高度に管理できます。そのため路面の異常も、見落とす心配がありません」と石田氏は言う。
また、NEXCO 中日本では、道路脇ののり面に植樹して樹林化にも取り組んでいる。現在は木の苗を植えた位置を平面図で表し、成長が進むと間伐などを行っているが、問題は植生の遷移につれて図面との照合が難しくなることだ。
そこで樹林を 3D レーザースキャナーで計測し、位置把握の効率化や倒木などの危険の把握に活用している。
今後、現在の交通量や気温、監視カメラの映像、構造物に設置した加速度センサーの計測データなど、リアルタイムな情報を CIM モデルにリンクさせて高速道路網を「IoT (モノのインターネット)化」し、AI (人工知能)やロボットと連携させて、維持管理の自動化を図ることも夢ではない。
NEXCO 中日本の事業は、CIM の強みと相まって、幅広く発展する可能性を秘めていると言えそうだ。