土木・インフラ向け Home > ユーザー事例 > ビッグ測量設計点群にモデル統合の流れ拡大 工事測量の付加価値として 3 次元計測

ビッグ測量設計
点群にモデル統合の流れ拡大
工事測量の付加価値として 3 次元計測

国土交通省の BIM/CIM 原則化を背景に、建設コンサルタントや建設会社の 3 次元データ活用が広がりを見せる中、工事測量分野にも BIM/CIM 活用の流れが急速に広がり始めた。関東地区で鉄道や空港の関連工事を中心に活動するビッグ測量設計(東京都台東区)は、業界に先駆けて 20 数年前に導入した 3 次元レーザー計測技術を駆使し、工事測量や設計支援の有効な手段として BIM/CIM を活用するトップランナーの 1 つだ。

地上レーザースキャナーの計測風景
地上レーザースキャナーの計測風景

同社が空間情報事業部を新設したのは 15 年前のことだ。本業の工事測量に地上型レーザースキャナーの活用を着実に増やしてきたものの、技術者が個々に点群データや 3 次元モデルを使った業務を実施していた。そこでノウハウの蓄積や技術員育成のため、約 10 人を同事業部に集約した。当時は営業部門がなく、技術営業の部隊としても位置付けられた。

当初は、石垣や文化財関連などの複雑な測量業務に地上型レーザースキャナーなどの 3 次元計測技術を使い、現状把握や復元計画に必要な図面や資料などを作成してきた。そうした経験を積みながら同社は本業の工事測量にも展開するようになった。空間情報事業部の尾形元希部長は「今では工事測量の付加価値として、点群データと 3 次元モデルを統合した BIM/CIM 事業を積極展開している」と力を込める。

点群と3 次元モデルを統合し、走行シミュレーションを行う
点群と3次元モデルを統合し、走行シミュレーションを行う

現在の 3 次元レーザー計測は、360 度の範囲を計測できるが、当時はまだ 40 度ほどと狭く、点群データの計測速度も遅かった。機器類も重く、計測作業では複数人で対応せざるを得ないため、トータルステーションを使った通常の測量と比べても作業時間や労力はそれほど大差なかった。

同事業部空間デザイン課の由井浩二課長は「現在の作業時間は当時の 5 分の 1 ほどまで短縮し、大幅な業務効率化が実現している」と説明する。

しかも点群データから必要な部分の現況断面を自由に切り出すことができ、構造物の 3 次元モデルとデータ統合すれば、施工段階や工事完成後のシミュレーションにも有効活用できる。まさに工事測量の付加価値として領域を広げている。

同社は、ライカ社製で最大計測距離 1 km 程度の高性能な地上型レーザースキャナー、130 m 程度の中型スキャナー、60 m 程度の小型スキャナーを保有し、計測場所や利用方法によって効果的に計測器を使い分けている。データ処理や 3 次元モデル化にはライカの点群処理ソフトに加え、オードデスクの BIM/CIM ツールなどを活用している。

同事業部で手掛ける業務の 9 割は、既に地上型レーザースキャナーを使っている。尾形氏は「これからの工事測量では 3 次元計測が主流になり、それを 3 次元モデルとどのように組み合わせていくかが差別化のポイントになってくる」と語る。

豊富な実績を持つ鉄道工事では、列車運転手の視通確認手段として、点群データと 3 次元モデルを統合した走行シミュレーションに取り組んでいる。新築構造物などが運転手の目線を阻害しないかチェックするため、これまでは夜間の作業時間帯に確認者が軌道上で脚立に昇るなどして、屋根や梁などの位置を 1 つひとつ確認する必要があった。

走行シミュレーションの導入によって、関係者の全員が状況を把握でき、計画立案の円滑化にもつながる。きっかけは設計を担った建設コンサルタントからの相談を受け、具現化に至ったが、最近では点群座標データと 3 次元モデルを組み合わせた同社のソリューション展開を聞き付けた事業者から、技術的な相談を受けるケースも出てきた。

列車運行への支障確認(在来線運転手目線)
列車運行への支障確認(在来線運転手目線)

鉄道ターミナルくまなく調査/点群データの有効活用に統合モデル化

長年培った工事測量の経験と知識の蓄積から、現場のニーズに対して点群データや 3 次元モデルなどの計測・処理技術を柔軟に運用することが、ビッグ測量設計の強みだ。現況把握が欠かせないインフラ構造物の耐震補強や改修工事では、特に活躍の場が広がっている。

大規模改修計画が進行する都内の鉄道ターミナル駅では、2 年前から同社が 3 次元レーザー計測を使い、大掛かりな現況調査を進めている。空間情報事業部の清水康晴次長は「天井裏からホーム下まで点群データを取得している。広範囲かつ細かな部分までくまなく調査した当社でも最大規模の事例」と明かす。

取得した点群データから設備や配管などの 3 次元モデル化を進め、管理者や種別属性ごとにレイヤー分けをすることで、駅改修計画時に活用しやすいデータを作成している。360 度の撮影が可能な 3D スキャンカメラも導入し、ウェブ上で閲覧や共有が可能な 3D ウオークスルーシステムを活用することで、配管などの細かな設備のモデル化やレイヤー分けの作業性向上を図った。同社は、現地と 3 次元モデルを専用ゴーグルやタブレット上で重ね合わせるMR(複合現実)を構築しており、現地に QR マーカーを測設し、現実空間と 3 次元モデルと位置を合わせ、事業関係者との現地協議などにも有効活用している。

現実空間に 3 次元モデルを重ね合わせた AR にも挑戦
現実空間に 3 次元モデルを重ね合わせた AR にも挑戦

擁壁の壁面補強プロジェクトでは、補強材が適正に打設されているかを把握する境界越境のシミュレーションを行い、住民説明のツールとして効果を発揮している。隣接するマンションの基礎部分を避けるように擁壁の補強材を打つ必要があり、墨出しの作業を発展させ、擁壁の点群データと補強材の打設データを統合することで、その計画を見える化した。現場は鉄道設備に近接した石積み擁壁となり、補強材の打設位置や角度を現地に反映するためには、限られた時間内に 3 次元レーザースキャナーで現況を取得する経験やノウハウが必要だった。

擁壁壁面補強の住民説明用アニメーション
擁壁壁面補強の住民説明用アニメーション

同事業部空間デザイン課の由井氏は「われわれは取得した点群データをいかに有効活用するかを軸に置き、統合モデルとして提案している」と説明する。3 次元モデルの作成やデータ統合には、オートデスクの BIM/CIM ツールを全面導入している。特に点群と3次元モデルの統合作業ではコンセプトデザインソフト『InfraWorks』、地形図と連携して地盤モデルを作成する際には BIM/CIM 土木設計ソフト『Civil 3D』を日常ツールとして使う。施工ステップなどと組み合わせる際にはアニメーションソフト『3ds MAX』も活用している。

20 年ほど前から汎用 CAD『AutoCAD』を愛用しており、現在はオートデスクの BIM/CIM ツールをパッケージで利用できる『AEC COLLECTION』の契約を拡充している。これまで点群データと 3 次元モデルの作業は別々に取り組んでいたが、現在はオートデスク製品を軸にした統合データ作業が急速に増えている。

その背景には、国土交通省の BIM/CIM 原則化が少なからず影響している。建設コンサルタントや建設会社の業務支援を担う中で「工事測量段階における統合データ化の要求が着実に増えている。工事測量や設計支援の依頼に合わせ、われわれ自身が統合データ活用の逆提案を行うケースも増えてきた」と、同事業部の尾形氏は説明する。

近年、同社は建設会社の受注提案づくりに参加するケースも多く、その範囲は計画・設計・施工・維持管理など多岐にわたる。建設会社にとって、最前線の現場担当者による点群データと 3 次元モデルの統合は対応が難しい。同社スタッフが現場事務所に常駐するなど、現場の下支え役として、存在感は増している。空間情報課の伊藤紀剛課長は、時間外労働の上限規制適用による"2024 年問題"を背景に「3 次元データ関連の業務を外注する流れも今後さらに拡大してくるだろう」と先を見据えている。

統合モデル化にオートデスクの BIM/CIM ツールを全面導入
統合モデル化にオートデスクの BIM/CIM ツールを全面導入

施工に使える点群データ提供が役割/マニュアル動画で自主的教育

ビッグ測量設計の空間情報事業部は現在 33 人体制となる。15 年前の発足時から 3 倍に人員を増やした。技術者の全員が 3 次元レーザースキャナーを自在に使いこなす。全社の平均年齢は 35 歳を超えるが、同事業部は平均 30 歳と、20 代後半がボリュームゾーンを占め、社内でも若手が活躍する部署だ。

2022 年からは、社員がいつでも手軽に学習できるようにと、点群データ取り扱いのノウハウを集約した『マニュアル動画』を教育ツールとして活用し、その数は現在 60 を超える。同事業部空間情報課の伊藤氏は「業務の合間にも、手軽に学ぶことができるように 3 - 10 分の動画としてまとめている。外注せず全て自社で作成しており、それも教育の一環になっている」と説明する。尾形氏は「当社には自ら学び習得する文化が根付いている」と付け加える。

社内教育用のマニュアル動画
社内教育用のマニュアル動画

視聴数が最も多いのは、点群データ解析の動画という。同社にとっては、それだけ不可欠なノウハウでもあるということだ。そもそも点群データは取得することだけが目的ではない。現況図、平面図、立面図などに起こして納品することになり、点群から 2 次元図面に展開する部分が技術者のベーススキルになる。近年は国土交通省の BIM/CIM 原則化の流れで、建設会社や建設コンサルタントを支援するケースも多くなり、同社に求められる要求も高度化し、点群データと3次元モデルの統合化が増えている。

同事業部空間デザイン課の由井氏は「重要なのは基準点をしっかりと定めた上で点群を取得していくことであり、きちんとした方法で計測されていなければ、使い物にならないデータになってしまう」と強調する。広範囲を計測する場合、まずはトータルステーションを使って複数の基準点を位置付け、そこに取得した点群データを重ねていく。建設会社などから外注した点群データのチェックを依頼されるケースもあるが、同社が再計測して納品するケースも少なくない。

国のインフラ DX(デジタルトランスフォーメーション)が進展する中で、企業側の DX 対応が高まり、建設現場でのデジタル化の流れはより進展の兆しを見せ、それに呼応するように同社の存在も大きくなっている。「施工に使える点群データ提供が当社の役割」と尾形氏が力を込めるように、同社は工事測量の付加価値として、点群データと 3 次元モデルの統合提案を強化している。

毎年、着実に新卒採用を続けている同社には、今年 4 月に 10 人の新卒者が入社し、このうち 2 人が同事業部の配属となった。3 次元レーザー計測の測量会社というイメージを持って入社する社員もおり、その技術を習得したくて門をたたくケースがほとんどだ。

3 次元レーザー計測は同社の日常ツールになっており、近年は点群データと 3 次元モデルデータの統合化業務も急増している。統合モデル作成時に使っているオートデスクの BIM/CIM ツールをもっと効果的に使いたいという社内意識も広がっており、販売代理店を通して、積極的にサポートを受けるケースも増えているという。

自ら学び習得する文化が根付く
自ら学び習得する文化が根付く

使い勝手良い統合モデル提示/新技術に挑戦する姿勢が成長後押し

20 年前に導入した 3 次元レーザー計測がビッグ測量設計に BIM/CIM 導入の流れをもたらした。当時はまだ日本に数台しか導入されていなかった 3 次元レーザー計測の有効性を目の当たりにした村田豊世社長は、迷うことなく導入を決めた。

1980 年に創業した同社は、難しい仕事や、時間に余裕のない仕事に対しても前向きに取り組む「思いやりの心」を持ち、常に技術の向上を心掛け、チャレンジの精神で失敗を恐れず常に新しい技術を習得しながら成長してきた。

いまでは計測現場で欠かせないツールの 1 つになっている 3 次元スキャンカメラ『Matterport』も村田社長が展示会で目を付け、購入に踏み切った。最近では、3 次元プリンターやドローンも自社の業務に活用可能と考え、導入を始めた。各部門も新技術を自らのものにしようと前向きだ。そうした社員一人ひとりの挑戦する姿勢が同社の成長を後押ししている。

3 次元レーザー計測で取得した点群データを統合モデル化する際に利用しているオートデスク製品については『AEC COLLECTION』というセットパッケージを 15 アカウント契約しており、このうち空間情報事業部には 8 アカウントを配分している。これまではコンセプトデザインソフト『InfraWorks』やBIM/CIM設計ソフト『Civil 3D』、アニメーションソフト『3ds MAX』などを活用してきたが、23 年度からは BIM ソフト『Revit』を積極的に導入することも決めた。

国土交通省の BIM/CIM 原則化を背景に、土木構造物では鉄筋の属性まで含めた詳細な BIM/CIM モデルの要求が拡大する可能性がある。これまで LOD(モデル詳細度)400 の業務要求については外注をしていた。空間デザイン課の由井氏は「これからは社内で全て対応していきたい」と先を見据え、Revit の担当として 2 人の社員を任命した。

使い始めた Revit の作業画面
使い始めた Revit の作業画面

近年は、強みの分野でもある鉄道や空港で耐震補強の需要が拡大傾向にあり、元請けの建設会社や建設コンサルタントから業務支援を求められるケースが増えている。3 次元レーザー計測の強みが大いに発揮できる流れが強まり、呼応するように点群データと 3 次元モデルデータの統合化依頼も増えている。

耐震補強の現況調査では 3 次元レーザー計測に加え、より詳しく対象物の状況をピンポイントで把握する手段として近接写真測量を導入するケースも目立ってきた。清水氏は「目的に合った技術をより効果的に使うことが当社の強みであり、新技術の導入機会も多く、これからも積極的に試し、新たな道を切り開いていきたい」と語る。

近接写真測量の導入も拡大
近接写真測量の導入も拡大

国のインフラ DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を背景に、企業の DX 対応も着実に広がりを見せており、元請け企業から具体的にどのような 3 次元レーザー活用ができるかを相談されるケースも増えてきた。事業者側と連携して実証実験に取り組むプロジェクトもある。空間情報課の伊藤氏は「対象現場がより大規模になっていることもあり、より簡単に使い勝手の良い統合モデルを提示できるかが、われわれの使命」と説明する。

3 次元レーザー計測の導入を機に、同社の進化が始まった。尾形氏は「デジタル化の進展により、われわれの活動の幅は着実に広がっている」と力を込める。社名にある「ビッグ」とは、より大きく成長していくとの意味が込められている。BIM/CIM の時代が色濃くなるにつれ、同社の存在感はより輝きを増している。

(左から)清水氏、由井氏、伊藤氏、尾形氏
(左から)清水氏、由井氏、伊藤氏、尾形氏

(本記事は建設通信新聞のシリーズ連載「BIM/CIM 未来図」からの転載になります)