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中央復建コンサルタンツ
将来の事業創出に向け「未来社会」描く ICT 戦略など 7 室が始動

建設コンサルタント業界の中でも先行して BIM/CIM に取り組んできた中央復建コンサルタンツが、BIM/CIM データを「賢く使う」ことで、新たな業務領域を切り開こうとしている。将来の活動領域として「未来社会」分野を定め、それを実現するための基盤ツールに ICT 活用を位置付ける。BIM/CIM を出発点にインフラ DX(デジタルトランスフォーメーション)の領域に踏み込む同社の成長戦略を追った。

BIM/CIM モデル
BIM/CIM モデル

2024 年度までの現行 3 カ年中期経営計画で「本質を極める」をテーマに掲げる同社は、維持管理、防災、マネジメント、海外を重点分野に位置付けるとともに、未来社会分野への投資や技術開発として、インフラ DX と SDGs(持続可能な開発目標)への対応強化を掲げた。今年 4 月には「未来社会創造センター」を組織し、将来を見据えた新たな業務領域の開拓に向けて動き出した。

未来社会創造センター長の坪村健二取締役は「この組織は社としての明確な姿勢であり、社内外に向けて未来へと突き進もうとする当社の本気度を示した」と強調する。センターは公民連携まちづくり、PM・CM、技術マネジメント、メンテナンスイノベーション、オープンイノベーション、ICT 戦略、万博・スマートシティの 7 室で構成し、総勢約 50 人を集約した。

各室は自らの担当分野の「未来社会」をイメージしながら、これまでの経験や新たな技術を駆使し、他の部門や室と連携しながら市場開拓の戦略を立案する。室長ら中心メンバーが集まる全体会議は隔週のペースで開かれ、将来に向けてどのようなビジネス展開が可能か否か、その道筋を描いている。

未来社会分野のイメージ
未来社会分野のイメージ

従来の事業創出は、利益確保を重視した戦略設定が前提だっただけに、収益性確保が難しいと想定される領域への開拓には消極的な姿勢になってしまっていた。同センターは「各室が未来社会へのイメージをしっかりと描きながら、すぐに利益が出なくても将来的にビジネスとして成立させる」ことを前提に活動を始めた。

その中でも ICT 戦略室は、各室の描くビジネススキームをデジタル技術の活用で下支えする役割を担い、各室と密接な連携を図っている。国土交通省の BIM/CIM 原則化を背景に、建設コンサルタント分野では 3 次元設計の時代が幕を開けた。今後は調査から設計、施工、維持管理に至るまで一貫して BIM/CIM データがつながる流れとなるだけに、そのデータを各フェーズでどう活用していくかが強く求められている。

同社は 07 年に全社技術開発プロジェクトとして3 次元設計への取り組みをスタートし、業界の中で先行して BIM/CIM に取り組んできた。森博昭 ICT 戦略室長は「BIM/CIM モデルを作ることに注力してきた時代は終わり、いまは BIM/CIM データを賢く使うフェーズに入った」と強調する。ICT を利活用しながら業務を効率化していくことが BIM/CIM の目的であり、そのためにはモデルの中に組み入れた属性情報をどう有効に活用するかが重要になってくる。「ICT 戦略室では賢く使うためのツール開発に力を注いでいる」と説明する。

2007 年から 3 次元設計をスタート
2007 年から 3 次元設計をスタート

業務基盤となる主力の設計ツールには、オートデスク製品を位置付け、自由に BIM/CIM の関連ソフトを活用できるパッケージ契約「AEC コレクション」を充実させており、社内では技術者約 500 人が無理なく活用できる業務環境を実現している。3 次元研修も 320 人が受講済み。日常的に 3 次元設計が浸透してきた。坪村センター長は「これからは蓄積したデータをどう使い、業務改革や新たな業務にどう結び付けるか。未来社会の実現に向け、ICT 戦略室の役割は大きい」と強調する。

BIM/CIM 定着し業務も高度化
BIM/CIM 定着し業務も高度化

DX 推進会議が業務最前線を下支え/「賢く使う」意識に広がり

中央復建コンサルタンツの BIM/CIM 推進に向けた足跡は、時代の変化を見据えながら進化を遂げてきた。全社技術開発プロジェクトとして 3 次元設計にかじを切った 2007 年のタイミングで、社内推進組織「CIM ミーティング」を発足したのが出発点となる。当時から BIM/CIM の推進役として社内をけん引してきた森室長は「業務の中でBIM/CIM を効果的に使うことを目的に、基盤整備や人材育成に力を注いできた」と振り返る。

社として愛用するオートデスクの BIM/CIM ツールを使いこなすため、社内 3 次元 CAD 研修をスタートしたのは 09 年。実務者が講師を務めるほか、実践で得たノウハウを研修テキストに反映するなど、自社内で全てを運営してきた。担当者が業務上の悩みを相談できるように、本社に 1 週間留学する「CIM 塾」も BIM/CIM の定着に一役買った試みの 1 つだ。

推進組織の CIM ミーティングは、国土交通省の BIM/CIM 原則化がスタートする 1 年前の 22 年度に「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進会議」へと名称を変更した。国がインフラ分野の DX 推進に乗り出したことで、原則化をきっかけにインフラ DX の基盤情報として BIM/CIM データが存在感を増す。森室長は「BIM/CIM データを賢く使うことが、当社にとっての DX 推進の出発点にもなる」と強調する。

DX テクニカル・ミーティング
DX テクニカル・ミーティング

DX 推進会議は、ICT を効果的に使いながら、インフラ DX を具体化する場として位置付け、マネジメント技術者の育成を担う「DX マネジメント・ミーティング」と、DX 関連のツール操作技術者を育成する「DX テクニカル・ミーティング」の下部組織を設けた。

毎月開催する DX テクニカル・ミーティングは各部門から CAD オペレーターを中心に総勢 38 人が集まり、ツールの操作に関連した業務上の相談事を吸い上げ、社内に水平展開する橋渡し役を担う。

メンバーの 8 割は女性が占めている。まとめ役を務める ICT 戦略室の伊藤麻衣子氏は「メンバーの大半は土木を学んでいないが、オペレーターの域を越え、業務上のアドバイスをするメンバーも多く、業務の下支え役として活躍している」と説明する。

BIM/CIM の定着に呼応するように、各部門のツール操作に関連した要求事項はより高度化している。オートデスクの担当者を招待し、操作テクニックや情報交換を行う機会も増えている。最近はオートデスクのビジュアルプログラミングツール『Dynamo』に関連した問い合わせが多く寄せられるようになった。

同室の阿比留麻織氏は「業務の高度化に伴い、新たな業務ツールの開発を求める声もあり、Dynamo の活用は今後さらに増えていく」と考えている。BIM/CIM 設計ソフト『Civil 3D』の操作感を高めるため、ツールボタンの開発など、使い勝手を良くするシステム改善を求められるケースも頻繁にある。森室長は「ツールのカスタマイズが広がる背景は、BIM/CIM を賢く使っていこうという意識の表れに他ならない」と手応えを口にする。

オートデスクで建設ソリューションマネージャーを務める松本昌弘は「BIM/CIM 原則化に伴って建設コンサルタントに情報提供する機会が増えているが、中央復建コンサルタンツはより高いレベルの要求をしてくる一歩進んだ企業の 1 つ」と評価する。推進役として BIM/CIM の普及に力を注いできた森室長は「進展する当社の BIM/CIM 活用を DX テクニカル・ミーティングがけん引している」と強調する。

ICT を賢く使い業務に付加価値/自由な発想で未来を描く

中央復建コンサルタンツでは、先進的な BIM/CIM の活用が広がりつつある。それを下支えする ICT 戦略室は外注や高価な機器に頼った派手な枠組みではなく、手軽に効果を実感できる ICT 活用をテーマに業務改革を後押ししている。森室長は「新しい道具を使うことが目的ではない。BIM/CIM データをいかに賢く使うかが業務の付加価値につながっていく」と力を込める。

プロジェクト関係者が BIM/CIM モデル上に話し合う「メタバース協議」ではゲームエンジンを活用して関係者が手軽に集えるようにした。毎月開催している DX テクニカル・ミーティングを通じて社内に情報発信したところ、発注者との協議ツールとして使っていきたいと依頼が着実に増えている。

2 年前に開発した「MR 遠隔臨場」や「MR 設計協議」は既に手軽で分かりやすい業務ツールとして定着しつつあり、国土交通省の直轄業務でも導入事例が出てきた。3 次元モデルを閲覧できるクラウド型 3 次元モデル閲覧システム「Panorama manager(パノラマ マネジャー)」も地元説明の場などで活用が進んでいる。

定着している MR 協議
定着している MR 協議
手軽に集えるメタバース協議
手軽に集えるメタバース協議

伊藤氏は「BIM/CIM データを効果的に使う視点でシステム開発を進めている。各部門から活用に向けたアイデアも多く寄せられるようになった」と明かす。阿比留氏も「社内が国交省の BIM/CIM 原則化を前向きに受け止め、データを有効に活用していきたいという意識へとつながっている」と語る。森室長は「BIM/CIM を賢く使おうとする流れが広がり、新たなステージに踏み出せた」と考えている。

4 月に発足した未来社会創造センターは、ICT 戦略室のほか、公民連携まちづくり、PM・CM、技術マネジメント、メンテナンスイノベーション、オープンイノベーション、万博・スマートシティの計 7 室で構成している。坪村センター長は「各室それぞれが当社の未来の姿を描きながら活動を始めた」と説明する。

発足時には、7 室に所属するメンバー総勢 50 人に対し、自らの描く未来社会を考察してもらうとともに、各室長はそれぞれが取り組む未来社会の方向性を示した。隔週のペースで精力的に開いている全体会議は「われわれ建設コンサルタントとしての役割は何かを考える場になり、インフラ構造物の整備だけではなく、完成したインフラ構造物を効果的に使っていくサービス的な視点も含め、横断的な議論に発展している」と説明する。

森室長は、ICT 戦略の目線として「30 年先の未来社会をイメージしている」という。国交省の BIM/CIM 原則化をきっかけに 3 次元データ活用の流れが急速に動き出し、各フェーズにデータをつなぐ役割として「建設コンサルタントとしての職域は大きく広がる」と考えている。デジタル技術の進歩もあり、ICT 戦略は時代とともに急速な広がりを見せるだけに「世の中の一歩先を見据えて動くことが求められる」と、次代をしっかりと見据えている。

同社は「インフラ DX」と「SDGs」の 2 つを未来社会の重点分野に位置付けている。現行中期経営計画では「本質を極める」をテーマに設定し、真に求められる技術者集団として価値創造企業を目指す。坪村センター長は「社として未来社会のターゲットを定めたことで、さまざまな視点から自由な発想で未来の姿を考えられるようになった」と手応えを口にする。同社は、BIM/CIM を出発点にインフラ DX の領域に力強い一歩を踏み出した。

(左から)伊藤氏、森氏、坪村氏、阿比留氏
(左から)伊藤氏、森氏、坪村氏、阿比留氏

(本記事は建設通信新聞のシリーズ連載「BIM/CIM 未来図」からの転載になります)