建設コンサルタント業界には、生産年齢人口の減少や国土強靭化による業務量の増加、そしてベテラン技術者の退職など、多くの課題がある。そこで大日コンサルタントは、デジタル技術を全方位的に活用してこれらの課題を解決する DX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略を掲げ、全社で取り組んでいる。その DX 戦略の実現のため、オートデスクの BIM/CIM ソフトを活用し、業務の迅速化や自動化を進めている。
「当社を取り巻く課題には、少子高齢化による生産年齢人口の減少やベテラン技術者の定年退職により技術が断絶していく中、業務がますます高度化、複雑化し、災害の頻発による業務量の増加などがあります」と、大日コンサルタント代表取締役社長の市橋政浩氏は説明する。
「これらの課題を解決するには、デジタル技術を全方位的に活用するしかありません。そこで当社独自の DX 戦略を構築し、全社で取り組みました」(市橋氏)。
同社では DX 戦略を支える 4 つの柱があり、「コネクト」をコンセプトとしている。(1)ICT で作業効率アップ(データをつなぐ)、(2)ICT でコミュニケーションを円滑化(人と人とをつなぐ)、(3)ICT で知の共有を加速(過去と未来をつなぐ)、そしてこの3 つの柱を実現するための(4)人材育成だ。
同社がオートデスクの BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)のソリューションパッケージである「AEC Collection」を本格導入したのは、比較的最近の 2018 年のことだった。
以来、DX 戦略に基づき、「わが事」として全社で BIM/CIM に取り組んだ結果、わずか 3 年足らずで、BIM/CIM を設計業務や災害対応のベースとして活用し、さらに業務の一部を自動化できるまでになった。そして、今後、予想される人手不足を解決するための手応えがつかめるまでになったのだ。その過程や心構えはどうだったのかを振り返ってみよう。
BIM/CIM は、同社の DX 戦略を実現するために欠かせない重要な要素だ。BIM/CIM という重要な技術を内製化することで、単純作業を減らして技術検討にあてる時間を確保するなど、BIM/CIM のメリットを最大化することを目指している。そのために、BIM/CIM 力向上のための戦略的な取り組みを展開している。
まず立ち上げたのは、「CIM プロジェクト」と呼ばれる社内活動だ。道路や橋梁、河川、調査といった工種ごとにワーキンググループを作り、各分野の BIM/CIM 活用力を高めるもので、設計技術者が参加している。ソフトウェアの習得や、BIM/CIM 関連の要領に関する勉強会、情報交換などを行っている。
毎年、その年度に習得する BIM/CIM 関連のスキルを各自で設定し、その進捗状況を BI(ビジネスインテリジェンス)ツールで見える化している。
楽しみながら技術力を高める遊び心も大切にしている。そのため、活動への参加度も自然に高まるというわけだ。
全社で BIM/CIM 活用のテクニックや設計ノウハウを共有するためのナレッジマネジメントシステムも独自で開発した。いわば、社内用にカスタマイズされた SNS だ。良い内容の書き込みには、社内から「いいね!」ももらえるので、情報提供の努力も報われる仕組みだ。
このナレッジシステムは、BIM/CIM のオペレーション習得に必要な学習時間を短くしたり、活用のノウハウをシェアしたりすることで、BIM/CIM の内製化を支えている。
そして、毎年冬には「D-1 グランプリ」も開催している。BIM/CIM 関連の技術や DX へとの取り組み事例を競う社内技術発表会だ。賞金も出るので、毎回、力の入った発表が行われるという。
続いて、同社が力を入れたのは、防災分野で BIM/CIM を活用することによる、業務の迅速化だ。
大日コンサルタントには、社内に測量部署がある。その強みを生かして、崩壊地などをドローンや地上型 3D レーザースキャナーで計測し、計測したデータを AEC コレクションのツールなどによって 3D で可視化や図面化を行っている。
「緊急の対応を求められる災害対策において BIM/CIM 業務を内製化してきた成果が表れた」と市橋氏は言う。
一方、災害現場をリアルタイムに監視する業務にも IT をフル活用している。災害発生直後から電池で駆動する IoT(モノのインターネット)センサーを設置し、地盤の傾斜や伸縮を遠隔監視。
得られたデータは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ソフトで処理し、現場ごとに異なるレポートを自動生成、自動配信しているのだ。
こうした DX 戦略への取り組みの成果は、すぐに実プロジェクトで現れることとなった。
2020 年 7 月に岐阜県内で発生した豪雨災害では、飛驒川に並走する国道 41 号の盛土が流出、JR 高山本線が盛土変状により不通となった。その際、同社のドローンによる現地確認や JR 擁壁のモニタリングと安定解析を行った。
その迅速な対応の結果、約 2 週間後には JR が運転再開し、1 カ月半後には国道 41 号が 1 車線開通、そして 2 カ月半後には本復旧の設計が完了し、約 1 年後には全面開通した。この功績により、大日コンサルタントは国土交通省中部地方整備局長から表彰されたのだ。
BIM/CIM を設計や災害対応のベースとして活用できる素地は整った。次の取り組みは、少子高齢化による生産年齢人口の減少という課題を解決していくことだ。そのためには、手作業に頼った労働集約型の設計業務を、人間以外に行わせることで自動化していくしかない。
「橋梁や道路などの土木構造物は、平面線形や勾配、路面の傾斜が非常に複雑で、BIM/CIM ソフトの基本的な機能だけで忠実に 3D モデル化することは難しいです。そこで、Civil 3D と Dynamo を組み合わせて、3D モデルを自動作成させるプログラムを開発しました」と語るのは、大日コンサルタント(本社:岐阜市)コンサルタント事業部 ICT 開発室 ICT 開発グループ長の飯田潤士氏だ。
「Dynamo」とは、オートデスクが BIM/CIM ソフトによるモデリングや繰り返し作業などをプログラムで自動化するためのビジュアルプログラミングツールだ。
例えば、トラス橋などの設計を行う際に、構造解析プログラムの出力データとして、トラス格子点などの 3D 座標が得られる。Dynamo はこの座標データ読み込み、Civil 3D 上にプログラムによって橋梁の 3D モデルを自動的に作成できる。
「この Dynamo のプログラムを開発したことによって、当社独自のワークフローを構築することができました。有効桁数の多い 3D 座標を手作業で入力しながら 3D モデルを作成するのに比べて 10 分の 1 程度の時間で 3D モデルを作成することが可能です」と飯田氏は胸を張る。
このほか、Dynamo で自動化した作業の例としては、計測したデータを AEC コレクションのツールなどで 3D 可視化や図面化を行う、切土・盛土の 2D 横断図を 3D 空間上に配置する、3D モデルに属性情報を付与してCIMモデル化する、そして冒頭に示した橋梁の自動3Dモデリングなどがある。
定型的な業務は設計者がマウスやキーボードを操作して行うのではなく、Dynamo でプログラミングし、自動化することで設計の生産性を向上させるというのが、同社における人手不足問題に対する"勝利の方程式"になりつつある。
大日コンサルタントの BIM/CIM を軸とした新技術への挑戦は、とどまることを知らない。今後、力を入れるのは Civil 3D に 3ds MAX や、Twinmotion を組み合わせた、リアリティーの高い VR(仮想現実)の技術だ。
さらに現実空間に設計中の 3D モデルを重ねて表示する AR(拡張現実)システムも Vuforia や Unity の技術を使って開発中だ。
コロナ禍によるテレワーク時代を反映して、世の中では仮想空間でコミュニケーションを図る「メタバース」による業務が、ビジネスにも導入されつつある。この業務スタイルを取り入れ、これまでのオンライン会議を超えてさらに実感的で高い生産性を期待できる VR 会議も導入を検討している。
「さらに災害現場のリアルタイムデータ処理も、将来はオートデスクのクラウドシステム『Autodesk Forge』と連携させて、3D でデジタルツイン化することを考えています」と、飯田氏はさらなる災害対応における建設コンサルタントの高度化を視野に入れている。
明確な課題解決を目標に、経営陣自らが目標を掲げ、全社が一丸となって取り組めば、BIM/CIM を軸とした DX の実現も夢ではないことを、大日コンサルタントは実証している。
逆に「今は仕事があるので、何も困っていない」と、BIM/CIM への取り組みを後回しにしていると、気がついた時には人手不足の影響で業務遂行が困難になり、業務のスピードや生産性でも他社に追いつけなくなる。そのタイムリミットは、迫りつつあるのだ。