土木・インフラ向け Home > ユーザー事例 > 日本工営BIM/CIM 活用の新たなステージへ向けて 3次元自動設計への転換

日本工営
BIM/CIM 活用の新たなステージへ向けて 3次元自動設計への転換

国土交通省の BIM/CIM 原則化を機に、建設コンサルタントが 3 次元設計への転換を図り、BIM/CIM 活用の新たなステージに踏み込む動きが現れ始めた。BIM/CIM のトップランナーとして業界を先導する日本工営は自動設計システムを開発し、業務の効率化や高度化を実現しようとかじを切った。一歩先をいく同社の BIM/CIM 活用はどこに向かおうとしているか。

地すべり対策工の自動設計
地すべり対策工の自動設計

実務者自ら業務のアイデアを形にする/活用定着し新たなステージに

同社では中央研究所内に組織されたCIM推進センターを軸にBIM/CIMの定着を図っている。組織は現在20人体制となり、各部門への業務支援や教育に加え、業務改革を実現するためのシステム開発にも取り組む。小野寺勝執行役員中央研究所長は「BIM/CIMに積極的な実務者をCIM推進センターの配属とし、業務上のアイデアを形にしてもらい、また現業部門に戻す流れをつくり、BIM/CIMを水平展開している」と明かす。

これまでは河川、ダム、道路、橋梁、防災、砂防の分野で先行してきたBIM/CIM活用だったが、現在は「全分野で取り組む状況となり、着実にステージを1つ上げた」と手応えをつかんでいる。BIM/CIM活用の業務件数も年200件を超えるまでに拡大した。BIM/CIMの主力ツールとして位置付けるオートデスク製品の利用状況(日単位の従量課金プラン)を見ても、近年は年1.3 - 1.4倍の伸びを示しており、社内にBIM/CIMツールが定着してきた。

新入社員が作成した地すべり対策の BIM/CIM モデル
新入社員が作成した地すべり対策の BIM/CIM モデル

背景には、国交省のBIM/CIM原則化に加え、他省庁や地方自治体でも活用業務が広がり始めたほか、受注業務の中で担当者がBIM/CIMを自主的に活用する流れが広がっていることも後押ししている。CIM推進センターの坂森計則センター長は「これからは概略・予備設計や調査・計画業務でも広くBIM/CIMの導入、活用が進む。今後は業務プロセスの再構築も必要になってくる」と考えている。

同社は、新たな業務プロセスへの転換を進める中で、モデル作成に軸足を置くのではなく、モデルの中に設計条件や設計思想を取り込む3次元設計プロセスの構築を追求している。小野寺氏は「BIM/CIMでは当然、業務の効率化を目指すが、さまざまな情報をモデルの中に入れることで、関係者間のコミュニケーションツールとしても成長していく。業務の付加価値を生む手段としてBIM/CIMを位置付けている」と力を込める。

CIM推進センターが業務改革につながるシステムとして、パラメトリックモデリングや3次元モデルによる設計照査、解析、数量算出などの開発を重視しているのも「付加価値のあるシステムを積極的に創出していく」方針が根底にある。社内では実務者がシステム開発を担い、その成果を開発者自らが現業部門に戻って推進する流れが定着しつつあり、これまでに5人が推進役として活動している。

坂森氏は「開発することが目的でなく、その成果を着実に社内に展開していくことが、何よりも重要」と強調する。だからこそシステム開発では、業務の効率化・高度化や品質の向上効果に加え、「誰もが手軽に使えるようなシステムとして仕上げる」ことに力点を置いている。

地すべり・斜面防災分野では、2022年9月に自動設計システムの開発が完了した。これまでは対策工と地形のモデルを統合する必要があり、手作業でモデル作成を進めた場合、時間と労力がかかっていた。そこで構造物のモデル化作成の流れをプログラム化し、寸法情報や部材情報などの設計条件を入れるだけで、パラメトリックモデリングによって自動でモデル作成を進めるシステムに仕上げた。22年度には地すべり対策関連の10業務に活用した。23年度には2倍増の導入を見込む。小野寺氏は「これは付加価値システムの象徴的な成果の1つ」と強調する。

定着してきた BIM/CIM ツール
定着してきた BIM/CIM ツール

3次元設計基盤に新たなチャレンジ/自動設計は付加価値システム

日本工営がBIM/CIM活用の有効な手段として、自動設計の取り組みに力を注いでいる。中央研究所CIM推進センターでは、業務の効率化や省力化に向けたシステムの開発をミッションの1つに掲げ、その重点テーマに「自動設計」を位置付けている。小野寺勝執行役員中央研究所長は「3次元設計に切り替える中で、仕事の進め方も変わってくる。より効率的で質の高い設計を進める手段として、自動設計システムの開発に乗り出している」と説明する。

自動設計システムの概要
自動設計システムの概要

先行する地すべり・斜面防災分野では、2022年9月にプロトタイプが完成しており、業務への導入件数も着実に増加している。システム開発に携わったCIM推進センターの山口裕二技師は「国土保全分野とBIM/CIMの親和性は高く、自動設計の効果を存分に発揮できている」と手応えを口にする。

山口氏はオートデスクのビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を使い、構造物のモデル化工程をプログラム化し、寸法や部材の情報などの条件を入れることでパラメトリックモデリングによって自動作成するシステムを開発した。「プログラム初心者の私でも思うような枠組みを構築することができた」と振り返る。

地すべり対策では防止施設の多くが地下にある。設計では地すべり発生機構や、防止工法の検討をすべり面や地下分布などの構造を踏まえて進める必要があり、BIM/CIMの可視化によって干渉のチェックなどもしやすくなる。現在は参考資料扱いとなったが、21年3月に国土交通省が示した3次元モデル成果物作成要領(案)に集水井工などのサンプルモデルが紹介されたことで、パラメトリックモデリングに必要な寸法や部材情報などが統一され、プログラムの要件定義が容易になったこともシステム開発を後押しした。

システムは入力値を調整し、設計条件や設計思想の情報を追加するだけでモデルを自動作成する。地形や地質モデルに合わせた対策工の3次元モデル作成も可能だ。自動化により、作業の効率化や高度化に加え、品質や信頼性も向上する。経験が浅く対策工の完成イメージを想像しづらい若手技術者の設計支援にも活用できる。

小野寺氏は「3次元設計データから自動化している点でヒューマンエラーも防げる。設計の入力条件を増やせば、さらに付加価値のある3次元モデルを提供できる」と強調する。CIM推進センターの坂森計則センター長も「3次元設計に乗り出したことで、そのデータを活用してさまざまなチャレンジができる流れになり、自動設計だけでなく、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の切り口も積極的に展開する」と先を見据えている。

このように同社では、3次元設計への転換を機に、新たなシステム開発に乗り出す流れが広がり始めた。オートデスクの技術営業として主に建設コンサルタントを担当している植田祐司は「Dynamoを活用し、効率化を目指したシステム開発を進める動きは同業他社でも見られるようになったが、日本工営のように3次元設計がきちんと社内に定着していなければ、良質なシステム開発に結びつかない」と分析する。日本工営では河川、ダム、砂防、道路、橋梁の分野でも自動設計の取り組みが進行中だ。坂森氏は「実務者自らがシステム開発を担う流れを整えたことで、より最前線の目線から業務課題と向き合うことができるようになった」と手応えを口にする。

レーザー光で離れた場所にある物体の形状や距離を測定するリモートセンシング技術「LiDAR」を使った現地調査ツールも導入が進む取り組みの1つだ。ツールの社内普及を手掛けたCIM推進センターの奥平賢太氏は「事務所でも情報が共有でき、災害復旧時にも迅速な現況把握と計画立案が可能」と説明する。22年度で57件の業務に活用した。仙台支店の防災担当約20人が活用を始めたように、社内では現況変調を把握する応急復旧の有効なツールとして期待されている。

現地調査ツール(点群編)
現地調査ツール(点群編)

実践しながらスキルを磨く/重要なコミュニケーションツールに

日本工営は、国土交通省の動きを見ながら、社内のBIM/CIM教育を拡充してきた。2022年9月からは原則化を踏まえ、社内資格制度の運用も始めた。日本工営グループを統括するID&Eホールディングスの新屋浩明社長も「もう一歩先のことを考え、行動を始めよう」と、動き出したBIM/CIM資格の進展に期待を寄せている。

資格は3段階に設定した。2時間の動画学習を位置付けた初級は、既に1500人の技術者が受講済み。今年から動き出した中級は実務で使いこなせるスキルを養うことを目的にBIM/CIMソフト操作研修を含む40-80時間のプログラムを設けた。現時点で100人が受講している。BIM/CIMマネジャーの育成を目的とした上級資格の準備も進めており、同社はBIM/CIMへの対応力を技術者の重要な素養の1つに位置付けている。

ソフト操作研修を含む中級資格には現時点 100 人が受講
ソフト操作研修を含む中級資格には現時点 100 人が受講

日頃の業務では、オートデスクの汎用CAD『AutoCAD』やBIM/CIM設計ソフト『Civil 3D』、コンセプトデザインソフト『InfraWorks』、BIMソフト『Revit』などを活用している。海外でもオートデスク製品を使っており、国内外共通のツールとして位置付けている。16年からスタートした社内のBIM/CIM研修もオートデスク製品を軸に教育プログラムを作成した。

オンラインでの社内教育風景
オンラインでの社内教育風景

CIM推進センターに所属する入社3年目の奥平賢太氏は、今年から研修の講師役を務めている。2週間の基礎研修に加え、研修の応用編では各部門の設計者とともに講師役となり、受講者に高度なBIM/CIM活用についても伝授している。奥平氏は「私が学生時代に点群データを研究してきたように、デジタルツールに触れてきた新入社員は多く、BIM/CIMへの適用能力はとても高い」と実感している。

山口氏は「4年前に研修を受けた後すぐに国交省の斜面防災関連業務のBIM/CIM項目を担当することになり、悪戦苦闘しながらもBIM/CIMに取り組んだ。その時の経験がいまの基礎になっている」と振り返る。このように同社では、実践しながらBIM/CIMスキルを磨く流れが着実に浸透している。

社内の変化を目の当たりにして、小野寺勝執行役員中央研究所長は「BIM/CIMはわれわれにとっての重要なコミュニケーションツールになるだろう」と考えている。2週間の新入社員研修をわずか1週間で終え、残りの期間を使ってオートデスクのビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を学ぶ社員もいるように「若手(デジタルネイティブ世代)がこれからのBIM/CIMをけん引していく」と期待している。

坂森氏は、BIM/CIMを出発点に「DX(デジタルトランスフォーメーション)の領域に入っていく」ことを実感している。3次元設計にかじを切ったことで、自動化への筋道をつくり、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といったデジタルツインとの結び付きについてもより強固にした。技術開発センターの佐藤隆洋センター長も「BIM/CIMデータを基盤に構築したデジタルツインを業務でどう有効活用していくかが重要な視点になってくる。これはDXの領域に他ならない」と確信している。

CIM推進センターの発足から7年が経過した。同社のBIM/CIM活用の流れは急速に広がりを見せている。重要視する自動設計システムは、業務の効率化や高度化、品質向上につながるとともに関係者との情報共有手段としても有効だ。小野寺氏は「BIM/CIM活用の切り口は多岐にわたる。国がインフラDXの推進にかじを切ったように、われわれの付加価値づくりはこれからDXの領域にも踏み込んでいく」と、次への進展をしっかりと見据えている。

(左から)奥平氏、坂森氏、小野寺氏、山口氏、佐藤氏
(左から)奥平氏、坂森氏、小野寺氏、山口氏、佐藤氏

(本記事は建設通信新聞のシリーズ連載「BIM/CIM 未来図」からの転載になります)