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土木と建築が協力し、BIM/CIMモデルと点群を一体化! 岩田地崎建設の"デジタルツイン"施工管理

岩田地崎建設(本社:札幌市中央区)は、札幌市内に建設した地下駐輪場の施工管理で、オートデスクのBIM/CIMソフト「Revit」や「Civil 3D」などを活用。さらにBIM/CIMモデルを3Dレーザースキャナーで計測した街並みの点群データと合体させて、埋設管や歩道、そして近隣ビルまでを"デジタルツイン化"した。社内の土木・建築部門が協力し、地下から地上まで整合性がとれた施工計画で合意形成が早まり、工事の生産性向上を実現した。

BIM/CIMモデルと街並みの点群データを合体させた完成予想図。地上の歩道(左)と地下駐輪場(右)の位置関係は完全に整合性がとれている
BIM/CIMモデルと街並みの点群データを合体させた完成予想図。地上の歩道(左)と地下駐輪場(右)の位置関係は完全に整合性がとれている

BIM/CIMと点群を合体しデジタルツイン化

2022年4月1日にオープンした西2丁目線地下駐輪場は、地下鉄大通駅の地下鉄コンコースと直結する大型地下駐輪場だ。その収容台数は、1354台にも上る。

現場周辺には以前、放置自転車が多く、この駐輪場の完成によって大通駅周辺の自転車放置禁止区域が拡大し、スッキリとした街並みに変わったのだ。

地下駐輪場のBIM/CIMモデル
地下駐輪場のBIM/CIMモデル

この施工を担った岩田地崎建設は、RevitやCivil 3Dなどを含む幅広いソリューションがセットになったオートデスクの「AECコレクション」で作成した地下駐輪場のBIM/CIMモデルと、既存の街並みを3Dレーザースキャナーで計測した点群データを組み合わせて、地下から地上までをデジタルツイン(デジタルの双子)化した。

現状と未来をビジュアルかつ正確に表現した3Dモデルは、地元住民への説明や施工計画の作成、現場の復旧など様々な場面で活用した。

現場のデジタルツイン化にかかわった岩田地崎建設ICT推進部のメンバー。左から飯田百合亜氏、小田桐道弘氏、松浦健太郎氏、笠松拓矢氏
現場のデジタルツイン化にかかわった岩田地崎建設ICT推進部のメンバー。左から飯田百合亜氏、小田桐道弘氏、松浦健太郎氏、笠松拓矢氏

現場周辺には数多くの商業ビルが立ち並ぶ。歩道上には地下駐輪場への出入り口となる建屋が新たに建設されるため、それによって店舗への見通しやアクセスが悪くなるのではというビルオーナーなどの心配もあった。

その心配を払拭(ふっしょく)するのに役立ったのが、デジタルツインによって作られた完成予想図だ。

「出入り口建屋の高さや幅、重圧感などがよくわかり、既存の街並みとの位置関係や建物との間隔などもイメージできて、発注者が開催した地元説明会でもスムーズな合意形成が行えました」と、岩田地崎建設ICT推進部長兼土木部担当部長の小田桐道弘氏は説明する。

デジタルツインによる完成予想図によって、地元住民とのスムーズな合意形成が行えた
デジタルツインによる完成予想図によって、地元住民とのスムーズな合意形成が行えた
イメージ通りに完成した出入り口
イメージ通りに完成した出入り口

土木・建築の両部門が協力しBIM/CIMモデルを合成

現場付近は人やクルマの交通量も多い。そのため工事中は覆工板で現場を覆い通行を確保しつつ、その下を掘り下げて地下駐輪場を施工した。地下には上下水道や通信ケーブル、電力線などのライフラインが多く埋設されている。

「ライフラインと山留め材などが干渉すると、工程の遅れにつながります。そこで現場を試掘し、正確な位置を割り出してライフラインをBIM/CIM化したうえで、山留め工を設計し干渉チェックを行いました。その結果、干渉のない施工計画を作成でき、工事も問題なく進みました」と、岩田地崎建設ICT推進部推進課 主任の飯田百合亜氏は説明する。

山留め材と埋設管のBIM/CIMモデルによる干渉チェック。干渉箇所は計画を変更し、干渉を未然に防いだ。上方には覆工板などの点群データが合成されている
山留め材と埋設管のBIM/CIMモデルによる干渉チェック。干渉箇所は計画を変更し、干渉を未然に防いだ。上方には覆工板などの点群データが合成されている

地下駐輪場は、隣接するビルのエレベーターを使って出入りすることもできる。空間としてはつながっているものの、地下駐輪場の本体は土木構造物、エレベーター乗り場のあるビルの地下部分は建築物に分かれているのだ。

岩田地崎建設は、このビルの施工も手がけていたため、土木・建築の両部門が協力し、BIM/CIMモデルをデータ閲覧ソフト「Navisworks」上で統合。相互の位置関係を確認した。その結果、外見からは土木と建築に分かれた構造物とは気がつかないような連続したデザインが実現した。

このBIM/CIMモデルは、発注者の札幌市が製作した完成予想ビデオにも採用され、地域住民に対して、地下駐輪場の構造をわかりやすく説明するのにも役立った。

手前の地下駐輪場は土木構造物、右奥のエレベーターホールは建築物だが、連続性のとれたデザインになっている
手前の地下駐輪場は土木構造物、右奥のエレベーターホールは建築物だが、連続性のとれたデザインになっている
土木・建築両部門の協力で作られたBIM/CIMモデル
土木・建築両部門の協力で作られたBIM/CIMモデル

地下駐輪場への出入り口となるこのビルは、2022年夏ごろの完成を目指して施工中だ。その特長は、古いビルの地下室を山留め壁として利用する環境に配慮した工法を採用したこと。

「地下室の内壁を解体しながら、外壁に『腹起こし』や『切り梁』などの鋼材で補強しながら施工を進めていきました。重機の動作範囲をできるだけ確保しながら、鋼材を取り付ける施工手順を検討するのに、BIM/CIMモデルは大いに役立ちました」と岩田地崎建設ICT推進部推進課の笠松拓矢氏は説明する。

古いビルの地下室外壁を山留め壁として利用した
古いビルの地下室外壁を山留め壁として利用した
重機の動作範囲を確保しながら、切り梁などの設置手順を検討した
重機の動作範囲を確保しながら、切り梁などの設置手順を検討した
地下室外壁の凹凸に合わせて、腹起こし材の構造や配置を計画した
地下室外壁の凹凸に合わせて、腹起こし材の構造や配置を計画した

点群データで元通りの位置に歩道を復旧

地下駐輪場の完成後、現場の車道や歩道、マンホールなどは元通りの位置に復旧された。ここで役立ったのは、事前に街並みを計測した点群データだった。

「点群データに合わせて、歩道の縁石やマンホールなどのBIM/CIMモデルを作成し、施工に活用しました。埋設管の位置などは、縁石などを手がかりに推定されることが多いので、外観はもちろん、寸法的にも元あった位置に忠実に復旧することは大事だと思います」と、岩田地崎建設ICT推進部推進課の松浦健太郎氏は語る。

歩道の縁石やマンホールなどを元通りに復旧するため、施工前の道並みを記録した点群データに合わせてBIM/CIMモデルを作成した
歩道の縁石やマンホールなどを元通りに復旧するため、施工前の道並みを記録した点群データに合わせてBIM/CIMモデルを作成した
元通りの位置に復旧された歩道
元通りの位置に復旧された歩道

岩田地崎建設は、2017年にICT推進部を設置したのをきっかけに、土木・建築分野でのBIM/CIM活用率は急速に高まった。2021年度までの活用実績では、土木分野が80件以上、建築分野が70件以上、にも上っている。

ICT推進課には、土木と建築の両分野出身のスタッフが配属されている。今回、地下駐車場と近隣ビルのBIM/CIM連携を行ったように、土木と建築が一体化したプロジェクトでも強みを見せ始めた。

昨今のコロナ禍において、テレワークや在宅勤務でも、BIM/CIMを活用しながら部署として機能できるようになっている。

「今後はビジュアルプログラミングツールの『Dynamo』を利用して設計の自動化を図ったり、BIM/CIMモデルを活用してコンクリート打設量を算出したりするシステムの開発にも取り組んでいきたいです」と、最も若手の笠松氏は抱負を語った。

ICT推進課のオフィス
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