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【建設通信新聞 BIM/CIM未来図掲載】
建設コンサルはいま~ウエスコ事例

国土交通省の BIM/CIM 原則化を背景に、建設コンサルタント各社が 3 次元対応力の強化に舵を切り始めた。従来進めてきた業務のあり方を見直すだけでなく、組織としても新たな方向性を模索する動きに発展している。西日本を中心に活動するウエスコ(岡山市)もその 1 つだ。 岩元浩二執行役員技術推進本部長は「着実に人材を育てていくことが近道」と焦点を絞り込む。動き出した建設コンサルタント分野の今を追った。

中国 i-Con 表彰を受賞した福山道路外設計業務
中国 i-Con 表彰を受賞した福山道路外設計業務

業務効果を実感できる組織へ/3 次元技術委員会が先導役

ウエスコでは月 1 回のペースで BIM/CIM 関連の具体的な課題をテーマに設定する社内勉強会がスタートした。ウエブでつなぎリアルタイムに各事業所にも配信している。河川部門を対象とした 2021 年 12 月開催の第 8 回勉強会では、導入する 3 次元設計ツール『Civil 3D』を提供するオートデスクを講師に招き、国内外の最新動向を情報共有し、活発に意見を交換した。

オートデスクと意見交換した第8回勉強会
オートデスクと意見交換した第8回勉強会

勉強会を企画・運営するのは、2 年前に発足した 3 次元技術委員会だ。委員自らが講師役となり、業務の中から抽出した課題をテーマに設定するなど、BIM/CIM ノウハウの共有を進めている。中心メンバーの冨田修一技術部設計課課長は「社内に BIM/CIM への興味を根付かしたい」との思いを強く持っている。

左から草加氏、山本氏、岩元氏、冨田氏
左から草加氏、山本氏、岩元氏、冨田氏

08 年に 3 次元計測、09 年に 3 次元設計の導入に舵を切った同社は 13 年に CIM ワーキンググループを立ち上げ、3 次元対応力の強化を推し進めてきた。業務実績は着実に積み上がり、地元建設会社の荒木組と連携し支援した岡山県内初の ICT 工事では中国地方整備局長賞を受賞、20 年には中国地方整備局の中国 i-Construction 表彰を福山河川国道事務所発注の福山道路外設計業務で受賞するなど対外的な評価も得ている。しかしながら社内の 3 次元に対する意識は「負荷的」と受け入れられる状況から脱せずにいる。冨田氏は 3 次元への抵抗感を取り除き、成功体験を増やしながら「BIM/CIM の業務効果を実感できる組織にしたい」と力を込める。

岡山県初の ICT 工事モデル
岡山県初の ICT 工事モデル

原則適用が 1 年後に迫り、社内では総合評価の提案にも BIM/CIM の視点を積極的に盛り込んでいる。委員会は各部門から選抜した技術者約 20 人で構成しており、提案づくりや業務受託後の 3 次元活用の方向性など幅広く下支えしている。山本正司執行役員は「人材育成から業務支援まで委員会が機能し、先導役として社内を引っ張っている」と強調する。

21 年 8 月に受託した中国地方整備局鳥取河川国道事務所発注のバイパス新設詳細設計業務も、委員会が提案づくりを後押しした。福山道路外設計業務で取り組んだ地形モデルの成果を発展させ、受注に結びつけた。業務スタート前の発注者とのヒアリングを経て示した 3 次元地形計測の方向性も委員会が最適な枠組みを導き出した。

計測部門と設計部門を持つ同社が重要視しているのは、両部門の連携強化だ。冨田氏は「業務案件に応じ、最適な計測技術手法とモデル作成方法を提案することが他社との差別化につながる」と考えており、「3 次元を軸に組織のあり方も変化しようとしている」と手応えを口にする。

計測と設計の密接な連携強化/業務多様化にシームレス対応

ウエスコの強みは計測部門と設計部門を持つことだが、これまでは両軸がうまく連動していなかった。社内の BIM/CIM を先導する 3 次元技術委員会の中心メンバーである冨田修一技術部設計課課長は「BIM/CIM の原則化を機に 3 次元対応が強く求められる中で、両部門の連携する機会が徐々に増えてきた」と明かす。委員会がその橋渡し役にもなっている。

計測部門は 2008 年に MMS(モービルマッピングシステム)を導入したのを機に、現在はレーザードローンや地上レーザースキャナ、ナローマルチビーム無人ボードなど多種多様な計測機器を保有し、陸空それぞれの広範囲な 3 次元計測を得意としている。岡山測量課で 3 次元計測グループに所属する草加大輝主任は「正直これまでは計測した地形図データを設計部門がどう活用しているか知らずに業務を進めていた。現在の 3 次元データ活用では設計担当と顔を突き合わせて仕事に参加するようになった」と説明する。荒木組と連携した岡山県内初の ICT 工事も両部門の連携効果が発揮された。

UAV 計測風景
UAV 計測風景

冨田氏は「当社が保有する技術を生かすには両部門が密接に連携し、シームレスに業務を進めていくことが欠かせない」と考えている。近年の BIM/CIM 関連業務では発注者側に具体的な活用方法を提示し、BIM/CIM の導入目的を明確に示す必要性を求められており、それを実現するために両部門が連携意識を強めるようになった。これからは最適な地形計測方法や 3 次元モデル詳細度、さらには閲覧に有効なソフトウェアを瞬時に提案することで「多様な BIM/CIM 要求にも対応していきたい」と力を込める。

モデリング風景
モデリング風景

設計部門では同業他社が BIM/CIM の推進組織を置く傾向が強い中で、あえて同社は案件ごとに担当者が 3 次元対応を進めていく流れを重要視している。3 次元技術委員会には各部門から技術者が兼務で参加しており、各メンバーがそれぞれの部署の推進役を務める役割も担っている。寄せられた情報はメンバーを通じて委員会で一本化し、委員会が BIM/CIM 推進組織として機能している格好だが、岩元浩二執行役員技術推進本部長は「一部の人にナレッジがとどまるのではなく、組織として技術者を育てていきたい」と、あくまで BIM/CIM の業務を進めるのは設計担当者であるというスタンスを崩さない。

これまでに 20 件を超える業務で BIM/CIM 活用をしてきた冨田氏には社内から業務上の相談が絶えない。「国交省が原則化を打ち出したことを機に、設計部門の意識は大きく変わり、BIM/CIM に真正面から向き合う設計者が増えきた」と実感している。計測部門も 3 次元対応の業務が拡大するにつれ、草加氏は「先導役が着実に育っている」と説明する。21 年 8 月には 3 次元関連の業務窓口を担う空間情報事業部を新設し、組織の枠組みも進化しつつある。同社は BIM/CIM の進展を足がかりに、3 次元を活用したサービス提供のための新たな業務の枠組みも検討し始めた。

事業所主体の連携組織に進化/3 次元軸に業務の流れ構築

ウエスコの岩元浩二執行役員技術推進本部長は「BIM/CIM の経験値を着実に積み上げながら、組織を新しいステージに押し上げたい」と先を見据えている。同社は西日本を主体に活動しているが、2021 年には横浜に営業所を新設したように、近年は徐々に東日本エリアにも事業拠点を増やし、全国展開に向けて活動範囲を拡大している。

同社は現在 600 人体制。売り上げは国、府県、市町村それぞれ 3 分の 1 ずつバランスが取れているが、以前は地方自治体が売り上げの比重が大きかった。近年は技術力を引き上げながら国土交通省や農林水産省など国の業務受託を拡大してきただけに、BIM/CIM を足がかりに国の業務受託量をさらに増やす狙いもある。

BIM/CIM 原則化は、いずれ地方自治体にも広がってくる。社内で BIM/CIM への先導役を担う冨田修一技術部設計課課長は「国の動きにしっかりと対応しながら、そこで得た成果を地方自治体の業務につなげ、トップランナーとして展開していきたい」と強調する。将来的には各事業所が主体的に BIM/CIM に対応できる組織づくりを目指している。そのためにも計測部門と設計部門の連携強化が不可欠になる。

同社が描くのは 3 次元計測を出発点に、3 次元設計を推し進めながら「新たなサービス提供の流れを着実に処理できる体制の構築だ」という。それによって業務の受託量は拡大し、売り上げも増加する。3 次元設計によって照査精度が向上し、ミスやクレームなど業務の手戻りも減る。景観や周辺環境に配慮した計画の提案もでき、何よりも概略設計や予備設計では業務時間が短縮できるため、原価は低減し、結果として会社としての利益率も上昇する。

BIM/CIM 関連業務ではオートデスクを始め、いくつかの 3 次元ツールを業務内容に応じて活用している。山本正司執行役員は「いずれは全員が対応せざる得ないことは明らか。業務が変わればツールも変わる。そのためにも 3 次元の先導役を少しでも多く作らないといけない」と考えている。計測部門では「設計部門との連携を見据え、若手技術者が着実に 3 次元化に対応しつつあり、計測データをどう使うかを考えるようになった」と岡山測量課 3 次元計測グループの草加大輝主任は実感している。

『未来に残す、自然との共生社会』を経営理念に置く同社は社会のあらゆる変化に柔軟に対応するため、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献する技術者集団を目指している。BIM/CIM の原則化とともに、インフラ分野の DX(デジタルトランスフォーメーション)化も進展しつつある。その手段としても「3 次元への対応は不可欠であり、BIM/CIM をきっかけに組織としても成長していきたい」と岩元氏が強調するように、同社は計測と設計の両部門が密接に連携し合いながら力強い一歩を踏み出した。