中央復建コンサルタンツは、価格競争に巻き込まれない差別化戦略の一環 として2007年にオートデスクの「AutoCAD Civil 3D」を30本導入し、3次元 設計への取り組みを始めた。翌2008年には早くも実務での成果を出して以来、現在までに100件以上の3次元設計やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)プロジェクトを行ってきた。同社のCIM活用は試行から、全社での実践へと進化し始めた。
中央復建コンサルタンツが3次元設計に取り組み始めたのは2007年だった。「この年、価格競争に巻き込まれない"ブルーオーシャン・プロジェクト"が社内で発足し、その一環が3次元設計だった」と、事業開発支援本部新規事業グループ統括リーダーの森博昭氏は振り返る。
「設計ミスをなくす、効率的に仕事をする、付加価値を高める、という3つの目標を実現するため、協力会社に頼らず、自分たちで3次元設計に取り組むことを目指しました」(森氏)。
当時は国土交通省もまだCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)は導入しておらず、先行きは不透明だった。しかし、中央復建コンサルタンツは全社的に3次元設計の準備を進めていったのだ。
その効果は翌2008年に早くも現れた。都市高速道路の換気所の設計業務のプロポーザルで、中央復建コンサルタンツは3次元設計を提案し、特定されたのだ。実際に施工されるプロジェクトだけに、失敗は許されなかった。これが全社を挙げて3次元設計に取り組むきっかけとなったのだ。
「この換気所は複数のダクトと構造物が3次元空間内を複雑に入り組んでおり、従来の図面だと設計や検討が難しいものでした。3次元でダクトルートや設備空間を精査しながら、設計に反映していきました」と森氏は語る。
3次元モデルを発注者との打ち合わせに使った結果、「工事のときに説明しやすい」「見た目にわかりやすい」と大好評だった。
「こうした大規模プロジェクトでは、図面も数百枚になります。工事関係者でも図面だけではわかりにくい複雑な構造も、3次元モデルで見せると一目瞭然です。その結果、余剰空間を1,200 m³ 減らし、ダクトルートも3ルートから2ルートへとシンプルな構造にすることができました」と森氏は語る。
このプロジェクトは3次元設計ならではの大きな成果を出して無事に完了し、都市高速道路会社からも表彰されるなど、高い評価を受けた。その後もこの都市高速道路会社からは継続的に業務を受注している。
このプロジェクトをきっかけに3次元設計の適用が増え始めた。2008年は数件だったが、2009年、2010年は年20件以上、2011年、2012年は年30件以上となり、これまでに100件以上の実績ができた。
同時に、3次元設計の社内研修制度をスタートさせた。まず、オートデスクの土木用3次元CAD、AutoCAD Civil 3Dを30本導入し、2009年に48人の社員が研修を受けた。翌2010年からは新入社員全員にも3次元設計の研修を行い、2013年度までに全社員約450人のうち、3分の1が受講した。
「備える、広める、高める、という3本柱で3次元設計を導入していきました。『備える』では、Civil 3DやAutodesk Revit Structure、Autodesk Navisworksなどの導入や、ワークステーションやプロジェクターなどを備えた3Dスクエアという部屋の設置を行いました。『広める』では、マネージャー層による3次元プロジェクトミーティングを隔週で開催したほか、社員を講師にした実践的な3次元ソフト講習会を行いました」と森氏は言う。
「広める」で、3次元設計を社内に広めるのに大きな力となったのが、社内の経験やノウハウを結集"門外不出"の社内講習会用テキストだった。
2次元CAD前・後編(全88ページ)のほか、Civil 3Dについては(1)地形作成編(43ページ)、(2)グレーディング編(23ページ)、(3)コリドー編(50ページ)、(4)3Dモデリング編(19ページ)、(5)実践編 (80ページ)と充実した内容になっている。このほか、Navisworks編(54ページ)も作成した。
そして「高める」は、実プロジェクトでの実践だ。プロポーザルなどでは、3次元技術を活用した設計検討や施工計画、合意形成の円滑化などを積極的に提案している。
2012年に国土交通省がCIM試行プロジェクトを開始した後は、3次元設計からCIMへとさらに質量とも充実した取り組みとなってきた。
中央復建コンサルタンツが使用しているソフトも、Civil 3DやNavisworks Manageなどのオートデスク製品のほか伊藤忠テクノソリューションズのNavis+やトリンブルのSketchUp Proなど多様化してきた。情報共有にはオートデスクのクラウドサービスBuzzsaw等を活用している。
実プロジェクトでの経験を積み重ねていくうちに、当初は新規事業グループが旗振り役となって実践してきたCIMの活用が、社内の各部署で自発的に芽生えてきた。「この5年間に実プロジェクトを担当した技術者が管理技術者となり、その経験を活かし自らがCIMの活用を発注者に提案し始めています」(森氏)。
建設コンサルタント業界では、発注者との打ち合わせだけ、構造解析だけ、図面の作成だけ、といったように業務の分業化を徹底している企業も多い。その点、中央復建コンサルタンツは1人の技術者が主体となって、打ち合わせからCIMモデルの作成、資料の作成までを行うようにしている。
「自分自身で3次元モデルを操り、考え、設計し、プロジェクト関係者との会議ではCIMモデルを使って代替案を議論してこそ、本来の設計者の姿だと思います。当社ではこうした"次世代型の設計者集団"を目指し、実践しています」と森氏は言う。
そして将来的にはCIMモデルを中心にして設計者、施工者、管理者が共同してプロジェクトを進めるIPD(インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー)の実現が目標だ。
これまでの実務での経験から、中央復建コンサルタンツではCIMで行うと効果が大きい業務と小さい業務の見極めもつくようになってきた。
特に一般図レベルでの構造や施工計画の検討に、CIMが有効だという。
その一例が、国土交通省四国地方整備局徳島河川国道事務所で行った道路プロジェクト(CIM試行業務)だ。「橋梁の構造を2案、CIMモデルで比較検討した結果、スムーズに業務が終わりました。橋梁構造の合意形成から景観検討、施工計画までを1つのCIMモデルで行いました。交差点内の視認性をCIMモデルで確認することで適切な橋脚位置を決めることができました」(森氏)。
このプロジェクトでは発注者のオフィスにCIMモデルが入ったノートパソコンを置いたままにして、Autodesk Buzzsawによって最新のCIMモデルを共有しながら設計協議を進めた。発注者にも喜ばれ、そのCIMモデルは施工段階にも引き継ぐ予定である。
また、3Dプリンターによる模型製作もCIMモデルの重要な用途だ。同社のオフィスには3Dプリンターが置かれ、発注者からの依頼や指示がなくても、橋梁などの模型を作り、構造や施工手順などの検討用として打ち合わせに持って行くことがある。
中央復建コンサルタンツの業務は、建設ライフサイクルのうち、計画、調査、設計、維持管理と、施工以外のすべてにまたがる。その中で、同社独自の取り組みとも言えるのが、防災分野でのCIMの活用だ。
「斜面脇の道路上に落石よけのロックシェッドを建設したり、地すべり防止対策工を計画するときには、落石や地すべりなど、原因となる現象の情報を集めて、これらの原因を解明することが必要です。
そこで当社では防災CIMという防災事業に特化した情報共有システム事業を展開しています」と環境・防災系部門地盤・防災グループの統括リーダー、國眼定氏は語る。
防災CIMとは地形や道路や河川、施設などの構造物を3Dモデル化し、その属性情報として(1)施設名・調査個所名、(2)地先、(3)路線、(4)距離、(5)点検結果、(6)構造形式、(7)施工年度、(8)点検年度、(9)管理者、(10)施工者、(11)設計者、(12)点検者などの情報を内蔵させる。
さらにCIMモデルから図面や写真、動画などを保存した情報共有サーバーにハイパーリンクし、その危険度を把握することで、道路などの維持管理情報を一元管理するものだ。
その一例が、国土交通省へ納品した防災CIMシステムだ。中央復建コンサルタンツは2013年度に、ある事務所が管理する全長約200kmの国道の うち10km分を防災CIMシステム化した。
「CIMモデルの作成はCivil 3Dで行い、納品時は汎用GISソフトのArcGISに載せて納品しました。2014年度もこのシステムのさらなる利活用を目指し、プロポーザルにより、当社が引き続きこの業務を受注しています」と國眼氏は説明する。
そのメリットは道路施設の損傷度合いの可視化と、防災関連情報の迅速な収集・解析だ。
「例えば、落石や崩壊などが発生したとき、現地に行く前に防災CIMモデルを通じて現地の写真や断面図などのデータを即座に取り出すなどの情報を用意しておくことができるので、現地確認、交通規制や事故説明、工事対策の段取りもスピーディーになります」(國眼氏)。
この防災CIMシステムは、2日間の講習を行うことで国土交通省の事務所や出張所で職員が日常の管理業務に使っている。
防災CIMの活用分野は道路のほか橋やダム、トンネル、河川と幅広い。同社では東京都内の高速道路のCIMモデル化を進めているほか、津波に対する近畿圏の被害予測、火山噴火の地形や土石流現場などを防災CIMモデル化し、今後の災害発生に迅速に対応できるように備えている。
落石などの原因調査を行うときには、一般の航空写真よりさらに詳細な現場写真が必要となることも多い。そこで活用しているのがUAV(無人機)だ。
「UAVは横幅が4,000ピクセルもある4K写真も 撮影できます。斜面に接近して撮影すると、落石の存在だけでなく、けもの道のような部分もはっきりとわかります。こうした詳細な写真や画像は防災CIMモデルの作成に役立ちます」と國眼氏は言う。
建設コンサルタント業界は、離職率が高いと言われているが、CIMや3次元技術は、設計者や技術者のやりがいにもつながっているようだ。
「CIMや3次元技術を自発的に使いこなしている技術者は、仕事も楽しんでいるようです。やりたいことを3次元で表現して、それがどんどん実現していくのでキャリアアップやスパイラルアップにつながるためか、会社を辞める人もいません」と 森氏は語る。
「CIMソフトが入ったパソコンを休日に家に持ち帰り、自習したいと申し出る社員もいるほどです。CIMを使っているとつい作業に没頭し、細かい部分まで作り込んでしまいがちになるという問題もありますが」(森氏)。
中央復建コンサルタンツは、こうした社員個人の自発的な取り組みも前向きに評価し、実務を通じてCIMの可能性を切り開きつつある。
同社でのCIM活用は、すでに試行から、実践へと進化している。