清水建設はオートデスクの BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト 「Revit」を中心に様々なツールを活用し、配筋施工図を自動作成する システム(以下、配筋施工図自動作成システム)を開発した。配筋施工図を自動作成するためには、構造細目の照査等が欠かせず、これを自動化するため、様々なプログラム群を開発した。その結果、施工可能な配筋施工図を効率的に作成、設計変更にもスピーディーに対応できるようになる。さらに定尺鉄筋から最適に設計寸法に応じた「材取り」する機能によって、鉄筋ロス率も最小化できる見込みだ。
清水建設 イノベーション推進部 先端技術グループの松下文哉氏は数年前、ベトナム・ホーチミン市の地下鉄工事現場で働いていた。
地下 4 階建ての駅舎工事では、本体兼用の鉄筋コンクリート構造の地中連続壁を土留めとして駅舎の施工を行っていたが、しばしば設計の修正に見舞われ、その都度、配筋施工図の描き直し作業を目の当たりにした。
「設計施工案件の大きなプロジェクトになると 1 万枚近くの施工図や配筋施工図などを描く必要もあり、この作業は非常に大変です。これらを一から作るのは今の時代に合っていないと感じていましたし、この業務は設計業務の効率化を考える上で非常に重要な要素と考えています」と長年、国内外の土木プロジェクトに携わってきた同社土木技術本部 副本部長の荒木尚幸氏は説明する。
そこで荒木氏と松下氏が着目したのが、配筋施工図を容易に作成することが可能な配筋施工図自動作成システムだ。
「配筋分類や構造細目の照査を自動化し、施工に活用可能な配筋 BIM モデルができれば、後は Revit によって施工図、鉄筋集計表を効率的に作れる。配筋 BIM モデルの従来のユースケースは干渉チェック等のみだったが、本当に施工段階で使える BIM モデルになると考えました」と松下氏は語る。
「海外では Revit が BIM ソフトとして使われることが多く、オペレーターも多くいます。また地下鉄工事のうち駅舎部分は壁や床からなる構造物であり、Revit でモデル化するのに向いています。このため使用するソフトは Revit が良いと考えました」と荒木氏は説明する。
こうした技術者としての強い思いや痛い経験が原動力となり、2021 年 8 月に配筋施工図自動作成システムの開発が始まった。
目指すのは、"現場で利用可能な配筋施工図"だ。そのためには、鉄筋同士の干渉がないのはもちろん、鉄筋の重ね継ぎ手長や鉄筋間の「あき」、曲げ半径などが、構造細目に合っているかも照査する必要がある。
作成された配筋 BIM モデルに対しては、構造細目の照査を行う。この工程では、鉄筋の接続部となる「重ね継ぎ手長」や、最小継ぎ手間隔、鉄筋の「あき」や型枠とのすき間となる「かぶり」、そして鉄筋の曲げ加工など末端部の「フック余長」といった様々な照査が求められる。
「以前から、鉄筋同士の干渉チェック機能はありましたが、設計上の要件、すなわち構造細目の照査も欠かせません。設計上の要件に合致しているかどうかを確かめるため、C# で Revit 用のアドインソフトを開発しました」と松下氏は説明する。
構造細目の照査で不合格となった部分は、Revit 上に色分け表示されるので、その部分の配筋 BIM モデルを修正すると設計条件に合致した配筋 BIM モデルとなる。
こうした照査や修正の作業はこれまで、2 次元図面上で行っていたので、大変な手間ひまがかかっていた。それが BIM による自動化で、大幅にスピードアップされ、生産性向上を大きく実現できる見込みだ。
次は現場での施工用に配筋 BIM モデルから配筋展開図や鉄筋加工図、鉄筋集計表を自動作成する。
この時、活躍するのが、部材の配筋種別を自動分類する機能だ。Revit 用のアドインソフトとして、プログラミング言語「C#」によって開発したもので、鉄筋の向きや並びを分析し、「主筋」「配力筋」「せん断補強筋」を自動的に分類する機能を持っている。
これらの分類情報は、図面内で使われる「旗上げ」や、集計表などに使われる。
様々な長さや形の鉄筋は、定尺鉄筋から切り出し加工する。残った部材はスクラップとして処理されるので、鉄筋ロス率を下げるかが、腕の見せ所だ。
「人間が知恵を絞って定尺鉄筋に対する鉄筋の組み合わせを考える、いわゆる材取りの作業がありますが、これがなかなか難しい作業です。海外現場で実際に私が担当したときには、10 %以上のロスを出してしまいました」と松下氏は説明する。
そこで開発したのが、鉄筋の「自動割り付けプログラム」だ。「材取り」を行う際に、最適な鉄筋の組み合わせをはじき出し、鉄筋のロス率を最小限にするものだ。
このプログラムの出力データは将来、鉄筋の自動加工機に引き継ぎ、鉄筋の自動生産にも使うことも想定される。今後、鉄筋加工機メーカーなどと連携し、実証を進めたいと考えている。
配筋施工図自動システムの開発により、これまで効率化が難しかった配筋施工図の作成において生産性向上を見込んでいる。その効果の目標値は、設計の照査業務で 20 %の効率化、鉄筋のロス率は7%台に抑える見込みだ。
このシステムは現在、海外の地下鉄工事で活用するための取り組みを始めている。
「この配筋施工図自動作成システムは、海外工事でのニーズから生まれたものですが、データを国内仕様に差し替えれば、国内工事でも十分に利用できます。今後は国内工事への展開にも力を入れていきたいです」と荒木氏と松下氏は今後の展望を語った。