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NiX JAPAN
発注者から評価されるツールに成長
業務成績アップの効果鮮明に

7 月 1 日に社名変更した総合建設コンサルタントの NiX JAPAN(富山市、旧新日本コンサルタント)が、BIM/CIM を効果的に活用し、業務成績の評価点アップにつなげている。2021 年度に埼玉県発注業務の最高点を獲得、22 年度は水資源機構や東京都から優良表彰を受けた。BIM/CIM 推進室長を務める升方祐輔空間情報部部長は「発注者から評価されるツールとして BIM/CIM を使いこなしていく」と手応えを口にする。

21 年 7 月に BIM/CIM 推進室を立ち上げた。

愛用するオートデスクの汎用 CAD『AutoCAD』を使い、3 次元設計に取り組んでいた 4 人をコアメンバーに位置付け、試行的に活動を始めた。翌年には人材育成にも乗り出し、実業務での導入を少しずつ増やしながら BIM/CIM の経験値を積んできた。

活動当時は、国土交通省の BIM/CIM 原則適用時期が 23 年度に 2 年前倒しされ、建設コンサルタント各社が導入準備に力を注いだ時期でもあった。同社は「劣勢技術の回復」を掲げ、BIM/CIM 活用にかじを切った。当初の推進室は社内の受け皿として、相談事や業務の一部を引き受ける外注組織として位置付けてきた。

升方氏は「技術者自身が BIM/CIM を必要視し、自立した使い方をしなければ、効果を引き出すことはできない」と考え、社内の各グループが主体的に取り組むように方向転換した。技術者一人ひとりが活用目的をきちんと定め、それを実現するために必要な情報をどう取得、加工し、運用していくか。そのために必要なソリューションがあれば積極的に整備する方針も掲げた。「いまは運用方法とソリューションを駆使し、業務に合う形に最適化する」ことを目指している。

導入から 3 年が経過し、まだ温度差はあるものの、構造、道路保全、流域保全、上下水道、計測、都市環境の各グループでは活用が着実に進んできた。23 年度を「実践ステージ」と定め、BIM/CIM を効果的に「使う」ことを目標付けた。これまでは BIM/CIM データを「作る」ことに注力していた。何のために BIM/CIM を活用するべきかを技術者一人ひとりがしっかりと考えることを明確化した。

BIM/CIM 導入ステージの推移
BIM/CIM 導入ステージの推移

升方氏は「役立つことに気が付けば、自然と普及していく」と考えている。若手からベテランまで年齢や経験を問わず、技術者が「BIM/CIM を自分事化する」ことを重要視している。23 年度の活動方針として、業務の計画段階から BIM/CIM活用の目的を定め、業務プロセスと結果の見える化を掲げた。毎月のトップミーティングでは、各グループの取り組み状況を報告する場を設け、成功事例を全社に水平展開する試みもスタートした。

社内では、各グループをけん引するように、東京本社構造部の構造橋梁グループが先頭に立ってBIM/CIM 活用を推進している。その成果として、業務成績の評価点も向上してきた。21 年度は埼玉県発注の橋梁耐震補強設計で、その年の最高点となる評価 90 点を獲得した。22 年度には水資源機構発注の管理耐震補強実施設計と東京都水道局発注の水管橋耐震補強設計で、いずれも 78 点を獲得し、それぞれ優秀表彰も受賞した。升方氏は「担当者が業務の円滑化に向け、BIM/CIM をどう活用すべきかを考え、実践してきた成果が業務成績アップという目に見える"カタチ"となっている」と強調する。

けん引する東京本社構造部構造橋梁グループ
けん引する東京本社構造部構造橋梁グループ

施工課題の見える化で設計最適化/時短、手戻り解消も大きな成果

NiX JAPAN の BIM/CIM をけん引している

東京本社構造部の構造橋梁グループは、メンバー 11人 全員がオートデスクの汎用CAD『AutoCAD』の 3 次元機能を使いこなす。2020 年度から一般図を 3 次元で描くことをグループ内で決めた。

丸山貴弘担当課長は「3 次元モデルを使い、施工時の課題や問題点を明らかにし、設計の最適化を突き詰めている」と説明する。

水資源機構発注の管理橋耐震補強実施設計では、資材搬入の位置取りまでこまかく検証した。4 次元シミュレーションを使って施工ステップも再現し、発注者側とは施工時の課題を共有し、それを設計に反映した。「発注者側から現況の点群データを提供されたことも下支えになった」と振り返る。

水資源機構発注の管理橋耐震補強実施設計業務
水資源機構発注の管理橋耐震補強実施設計業務
施工ステップで補強方法を検証
施工ステップで補強方法を検証

東京都水道局発注の水管橋耐震補強設計では、橋梁の一部がフェンスで囲われており、既設の構造を細かく把握する上で全体を 3 次元モデル化し、最適な補強方法を検証した。周囲の既設構造物との取り合いも把握でき、施工時の課題だけでなく、補強後の状況も事前に見える化した。

既設構造との取り合いを見える化
既設構造との取り合いを見える化

両業務はともに業務成績 78 点を獲得し、発注者から優秀表彰を受けた。構造技術本部長の戸田一夫取締役執行役員は「いずれの業務も、発注者とのコミュニーションツールとして BIM/CIM を活用している。従来の2次元では設計を進めながら細かく状況を報告できないだけに、密に情報共有を進めたことが高評価につながった」と考えている。

埼玉県から受託した現在進行中の橋梁耐震補強基本設計では、長さ 800 m に渡る道路橋全体を BIM/CIM モデルで見える化している。構造部分も細部までモデル化し、重点的に補強すべき箇所の把握とともに、資機材の搬入経路も検証中だ。丸山氏は「細かい部分まで再現することで、事前に施工時の課題検証が可能になり、発注者と密な打ち合わせができている」と説明する。

このように同社は、受託した業務の内容から、設計者として取り組むべき役割を見定め、それを実現する手段として BIM/CIM を活用している。

単に設計図面を仕上げるのではなく、施工段階を見据え、どのように設計することが最善であるかを考えている。BIM/CIM 推進室長の升方氏は「そうした技術者一人ひとりの前向きな業務への取り組み姿勢が、業務成績の向上につながっている」と分析している。

構造橋梁グループでは、21 年度に埼玉県発注の橋梁補耐震補強設計で、その年の業務最高得点となる 90 点を獲得するなど、BIM/CIM 活用の成果として業務成績の向上が鮮明になっている。ただ、これまで BIM/CIM 活用の発注者指定業務はなく、あくまでも自らの業務最適化ツールとしてBIM/CIM を活用し、自主的に取り組んできた。

戸田氏は「BIM/CIM の活用による成果として業務成績の向上効果が見られるものの、実は発注者との協議時間短縮や、設計変更の手戻りが大幅に減るなど、目には見えない部分での効果がとても大きな成果」と分析している。同社では BIM/CIM 導入にかじを切ったことをきっかけに、業務に対する意識変化が広がり始めている。現在、構造橋梁グループが手掛けている国土交通省の直轄業務では、将来を見据えた新たな試みにもチャレンジしている。

複雑な既設構造を 3 次元で把握
複雑な既設構造を 3 次元で把握
橋全体の状況を 3 次元で見える化
橋全体の状況を 3 次元で見える化

3次元で業務に新たな視点/維持管理向けデータベース構築に挑む

NiX JAPAN は、国土交通省の橋梁点検業務で、維持管理段階の BIM/CIM データ活用に取り組んでいる。東京本社構造橋梁グループの雷暁宇係長は「3 次元モデルの中に点検情報を集約した維持管理データベースの構築にもチャレンジしている」と明かす。

維持管理 3 次元モデル
維持管理 3 次元モデル

点検対象の橋梁を 3 次元モデル化し、そこに近接目視の調査で把握した点検結果の情報をひも付けていくもので、小さな損傷も含め、その全てをモデルに反映することにより、補修時に的確な位置を把握でき、補修後の工事情報を反映すれば、その後の履歴管理が可能だ。「このモデルを発展させ、新たな維持管理ツールとして確立したい」と力を込める。

2023 年度から BIM/CIM 原則化がスタートした。国土交通省では調査から設計、施工、維持管理に至るまで一貫して BIM/CIM データが円滑につながる姿を目指している。インフラ分野の DX 推進にも本格的に乗り出したことから、土木構造物をどう有効に使っていくか、完成後に構造物を利活用するインフラサービスの視点でも新たな仕掛けづくりが求められている。管理面では国土強靱化方針を背景に、インフラ構造物の定期点検が義務化され、業務の効率化が求められるだけに、点検のデジタル化は有効な手段になり得る。

同社では、橋梁点検の結果を 3 次元モデルの属性情報としてひも付けていく過程で、いくつかの課題にも直面している。業務ではオートデスクの汎用 CAD『AutoCAD』と土木設計ツール『Cvil 3D』を使い、維持管理 3 次元モデルに点検結果を属性として付与している。構造モデルの上に情報をひも付けているが、橋梁の損傷は外面の塗装部分と内側の構造部分で異なる。それをどう分かりやすく示せるか。ひび割れが生じている部分も構造物内部で広がっているケースもある。維持管理情報の効果的な表現方法も新たなテーマとして検討を進めている。

モデルに損傷画像を付加
モデルに損傷画像を付加

丸山氏は「維持管理段階で必要な情報を見極めなければ、せっかく構築した維持管理モデルが使えないものになってしまう。今後の定期点検や維持補修にも使っていける最適な枠組みを構築していきたい」と語る。業務では気になる損傷について、3次元モデルに現況画像を付与する工夫も進めており、発注者との協議ではモデルをベースに今後の補修方法についての協議が円滑に進み始めたという。

このように同社では、技術者が最適な BIM/CIM の活用方法とは何かを常に見据えながら取り組む姿が現れ始めた。BIM/CIM 推進室長の升方氏は「次工程のことを踏まえ、最適解を出していくことがわれわれの BIM/CIM の使い方」と説明する。社内をけん引する構造橋梁グループでは、先行するように BIM/CIM データを「使う」意識が定着し、重点テーマとなる「BIM/CIM の自分事化」が着実に広がり始めている。

構造技術本部長の戸田氏は「技術者が BIM/CIM 活用を実践することで、業務上で気付かなかったものが見えるようになり、それが業務の新たな視点につながっている」と手応えを感じている。21 年度から取り組む人材育成は着実に進展しており、3 次元設計の取り組みが全社に定着すれば「BIM/CIM 活用の新たなステージに入れる」と確信している。

付加価値として BIM/CIM を活用
付加価値として BIM/CIM を活用

実践しながら3次元を磨く/業務見える化で発注者との協議円滑に

NiX JAPAN が、2022 年度に水資源機構の優秀表彰を受けた管理耐震補強実施設計業務は、東京本社構造部構造橋梁グループの雷氏と横田真育主任の 2 人が担当した。社内で運用する BIM/CIM 教育支援プログラムを受講し、3 次元ツールの操作方法を学び、業務に挑んだ横田氏は「初めての 3 次元で苦労したが、イメージしながら業務を進められる見える化の有効性を知ることができた。何よりも経験豊富な先輩がいる安心感が大きかった」と振り返る。

ペアを組んだ雷氏は、学生時代から 3 次元 CAD の経験を積んできた。21 年度に埼玉県発注業務評点で 90 点という最高得点を獲得した橋梁補修工事耐震補強設計業務の担当者でもある。「業務の見える化によって、発注者との協議を円滑化できる点が BIM/CIM の利点だけに、実践しながら 3 次元の使い方を覚えていくことがとても有効」と考えている。

21 年度から教育支援プログラムをスタート
21 年度から教育支援プログラムをスタート

同社は、21 年度から教育支援プログラムの運用を始めた。汎用 CAD『AutoCAD』や BIM/CIM ソフト『Civil 3D』に加え、BIM ソフト『Revit』、コンセプトデザインソフト『InfraWorks』、3 次元ビューアツール『Navisworks』、ビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を対象に計 11 の受講プログラムを取りそろえる。技術者が自主的に受講する枠組みとして運用しており、これまでに 20 代から 30 代の技術者を中心に延べ 150 人が受講した。

BIM/CIM 推進室を務める升方氏は「人材教育の成果として、先行する構造橋梁グループ以外でも業務の中に BIM/CIM 活用の流れが広がり始めている」と強調する。上下水道グループでは配管類まで 3 次元モデル化した上で耐震補強方法を計画立案している。自主的に BIM/CIM チームをつくり、国土交通省直轄業務を中心に3次元データ活用に乗り出した流域保全グループの石井正人担当次長は「施工ステップによる検証を踏まえ、設計の最適化を進める事例もあり、若手を中心に BIM/CIM 活用が活発化している」と説明する。

構造技術本部長の戸田氏は「これまでモデルをつくることに力を注いできたが、これからは各グループが業務の中でモデルを積極的に使っていくフェーズに入る」と強調する。社内をけん引する構造橋梁グループではデータ連携をテーマに、オートデスクのコラボレーションツール『BIM 360』を実業務で集中的に活用する試みもスタートした。丸山氏は「発注者や関係者との情報共有を円滑化する手段として、有効なツールになる」と考えている。

3 年前にかじを切った同社の BIM/CIM 活用は、業務の最前線で活動する技術者一人ひとりの意識改革を生むきっかけとなっている。先陣を切る構造橋梁グループでは業務成績アップの成果が目立ってきた。升方氏は「各グループで年間 1 件は優良表彰を受けられるように、業務ツールとしてBIM/CIM を最大限に活用してもらいたい」と力を込める。

(左から)丸山氏、横田氏、升方氏、戸田氏、雷氏、石井氏
(左から)丸山氏、横田氏、升方氏、戸田氏、雷氏、石井氏

(本記事は建設通信新聞のシリーズ連載「BIM/CIM 未来図」からの転載になります)