土木・インフラ向け Home > ユーザー事例 > 清水建設が "現場に行かない"施工管理を実現、i-Construction大賞に! クラウドでBIMや点群、360°写真をリアルタイム共有

清水建設が "現場に行かない"施工管理を実現、i-Construction大賞に! クラウドでBIMや点群、360°写真をリアルタイム共有

相模鉄道と東急東横線をつなぐ新線建設に伴い、JR新横浜駅の北側で巨大な地下駅の建設が進んでいる。施工を担当する清水建設は、オートデスクのクラウドサービス「BIM 360Docs」上で構造物のBIMモデルや、現場の点群データ、360°写真などを共有して"現場に行かない施工管理"が行えるようにした。これらのデータはVRやARでも活用。一連の取り組みは、2021年度の国土交通省「i-Construction大賞」を受賞した。

スマホのLiDARで計測した現場の点群データをクラウドで共有しリモート現場巡回
スマホのLiDARで計測した現場の点群データをクラウドで共有しリモート現場巡回

BIM 360Docsで移動のムダを大幅削減

JR新横浜駅の北側で地下4階にも及ぶ「相鉄・東急直通線、新横浜駅」の建設工事が行われている。工事区間は総延長325.5m、掘削深さは約35mにも及ぶ。この難工事の施工を担当するのは、清水建設を筆頭とする共同企業体だ。

JR新横浜駅の北側で建設中の「相鉄・東急直通線、新横浜駅」の完成イメージ(左)と地上から見た現場(右)
JR新横浜駅の北側で建設中の「相鉄・東急直通線、新横浜駅」の完成イメージ(左)と地上から見た現場(右)

現場所長を務める清水建設の佐竹省胤氏は「この現場では、デジタルツールをフル活用し、オンラインで施工管理が行えるようにしました。一例として、東京・京橋の本社から往復4時間かけて行っていた現場巡回が、わずか30分で済むようになりました」と語る。

この"オンライン現場巡回"によって、移動のムダがなくなり、従来の時間から30分に短縮されたということは、実に8倍の労働生産性向上だ。その秘密は、オートデスクのクラウドシステム「BIM 360 Docs」の活用にあった。

現場をBIMモデルや360°写真、点群、VR・ARで記録したデータをクラウドシステムBIM 360 Docsに集約
現場をBIMモデルや360°写真、点群、VR・ARで記録したデータをクラウドシステムBIM 360 Docsに集約

オンライン現場巡回を行うためには、「現場に行かなくても、現場の状況がわかる」ことが必要となる。

そこで導入されたのが、設計図面や設計BIMモデルを共有するオートデスクのクラウドシステム「BIM 360 Docs」だ。

最新のBIMモデルを発注者や受注者、協力会社などがリアルタイムに共有でき、モバイル端末でどこでも最新図面が確認できる。さらには、BIMソフトを持っていなくても、ウェブブラウザーなどで2D図面や3Dモデルの表示、距離計測などが行える。

地下駅のBIMモデル
地下駅のBIMモデル
現場でタブレットのBIMモデルを確認する職人
現場でタブレットのBIMモデルを確認する職人

この現場ではさらに、現場を記録した360°写真や点群データ、さらにはVR・ARシステムなどを連携させることにより、現場の状態をリアルタイムに共有できるデジタルツイン(デジタルの双子)を構築し、そのプラットフォームとしても活用しているのだ。

BIM用クラウドシステム「BIM 360 Docs」の基本的な機能
BIM用クラウドシステム「BIM 360 Docs」の基本的な機能

本当にオンライン現場巡回で施工管理ができるのかと、疑問に思う向きもあるだろう。いったい、オンラインでどれだけ現場がわかるのかを見てみよう。

現場をぐるりと見回せる360°写真

現場の進捗状況をリアルタイムに記録するために基本となるのが、360°写真だ。ある場所で1回シャッターを切るもしくは動画を数分撮影するだけで、周囲を全天全周、1枚の写真として記録できる。そのため、工事記録の写真撮影時間は、普通のデジタルカメラに比べて、なんと9割も短くなる。

この現場ではInsta360というカメラを使い、そのデータをOpenSpaceという360°画像共有用のクラウドにアップしている。OpenSpaceの大きな特長は、左右の画面に360°写真のほかBIMモデルや点群データなどを表示して、比較できることだ。

「同じ場所で異なる日時に撮影した写真を、同じ視点で比較したり、写真上にピンを打ってオンラインで修正指示や是正完了などのメモを張り付けたりできるので、品質管理や安全管理がスピーディーに行えます」と佐竹氏は言う。

OpenSpaceで現在(左)と過去(右)の現場を、同じ視点で比較(以下、3点の画像:www.openspace.ai より引用)
OpenSpaceで現在(左)と過去(右)の現場を、同じ視点で比較(以下、3点の画像:www.openspace.ai より引用)

OpenSpaceは、BIM 360 Docsとも連携し、BIMモデルと360°写真を同じ視点で比較することもできる。さらには後述するように、スマートフォンで計測した点群データや現場の計測結果なども表示し、オンラインで確認できる。

現場(左)とBIMモデル(右)の配筋を同じ視点で比較
現場(左)とBIMモデル(右)の配筋を同じ視点で比較
地下4階の線路やプラットフォームの現場写真(左)とBIMモデル(右)の比較
地下4階の線路やプラットフォームの現場写真(左)とBIMモデル(右)の比較

スマホのLiDARで現場を手軽に点群データ化

最近、現場関係者の間で人気を集めているのが、スマートフォン「iPhone」のLiDARと呼ばれる機能を使った3D点群計測だ。この現場でも日々の施工管理に活用している。

「iPhoneで計測した点群をBIM 360 Docsに登録すれば、関係者全員に情報共有できます。従来の3Dレーザースキャナーに比べて、点群取得から情報共有して施工検討を行うまでの時間は9割削減できました」と佐竹氏は説明する。

つまり、点群データを施工検討に使うまでの生産性は少なくとも10倍に上がったことになる。

LiDAR機能を使用中のiPhone画面(左)と計測の様子(右)
LiDAR機能を使用中のiPhone画面(左)と計測の様子(右)
iPhoneで計測した現場の点群データ。埋設管などの仮受け状態などがよくわかる
iPhoneで計測した現場の点群データ。埋設管などの仮受け状態などがよくわかる

点群データはオンライン会議でも現場の立体形状がよくわかり、必要に応じてBIM 360 Docs上で寸法測定も行える。従来の写真に比べて、現状把握のため本社などから現場に出掛ける回数も減ることとなった。

また、現場の点群データをこれから施工する構造物の設計BIMモデルと統合し、施工検討にも利用している。まさに、点群の普段使いが実践されているのだ。

iPhoneで計測した現場の点群(左)と新設する構造物のBIMモデルを重ね合わせて施工計画を行った例(右)
iPhoneで計測した現場の点群(左)と新設する構造物のBIMモデルを重ね合わせて施工計画を行った例(右)

さらにiPhoneで計測した点群データは、前述のOpenSpaceに登録すると、360°写真とも自動的にひも付けされ、点群や写真から鉄筋間隔の計測なども行える。施工中のちょっとした出来形チェックも、現場に行かずに行えるようになった。

OpenSpace上でiPhoneによって計測した点群と360°写真をひも付けし、鉄筋間隔を測定した例
OpenSpace上でiPhoneによって計測した点群と360°写真をひも付けし、鉄筋間隔を測定した例

Unity Reflectで現場をメタバース化

BIMモデルや点群の用途をさらに広げるため、清水建設はこの現場に、ゲームエンジンを利用してVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を可能にする「Unity Reflect」というシステムも導入している。

Unity ReflectはBIM 360 Docsとクラウド上で連携し、様々なBIM/CIMモデルや点群データなどをワンタッチでVRやARで利用できる。

スマホのLiDARで計測した現場の点群データをもとに作成したVR
スマホのLiDARで計測した現場の点群データをもとに作成したVR

「BIMモデルをボタン一つで、手軽にVRモデルに変換できるので、VRを使うハードルが下がりました。同じVR空間に、遠隔地からの参加者が集まって、施工検討やVR見学が行えます」と、清水建設 土木技術本部イノベーション推進部 副部長の柳川正和氏は説明する。

VRの特長は、VRゴーグルを使ってBIMモデルを実寸大で、様々な角度から見られることだ。現場の規模を実感しながら、施工上、問題になりやすい部分に気付きやすくなる。

さらに複数の参加者が集まって、VR空間内でコミュニケーションを図る「メタバース」としても活用できる。現場まで出向かず、VR空間内で施工上の方針について工事関係者の合意形成を図るなど、「意思決定の場」としても機能する。

さらにAR機能を使うと、BIMモデルや点群データを、実際の現場に同じスケール、視点で重ねて表示しながら、現地で完成形の検討などが行える。

Unity ReflectでBIMモデルをVR化し、実物大で検討
Unity ReflectでBIMモデルをVR化し、実物大で検討
点群データのVR空間に遠隔地にいる複数の技術者が集まり、施工方法などを検討
点群データのVR空間に遠隔地にいる複数の技術者が集まり、施工方法などを検討
現場の既存埋設管や仮設材をVR化し、オンラインで検討
現場の既存埋設管や仮設材をVR化し、オンラインで検討
MR化したBIMモデルや点群データを現場に重ねて、施工確認
MR化したBIMモデルや点群データを現場に重ねて、施工確認

国土交通省のi-Construction大賞を受賞

BIM 360 DocsとOpenSpace、Unity Reflect、そしてiPhoneのLiDAR機能を相互連携させたこのシステムにより、清水建設は「移動のムダ」を削減したほか、BIMモデルや点群データ、VR・ARを現場で活用する際の「ひと手間」「ふた手間」もなくし、日々の施工管理で普段使いできるようになった。データ転記ミスなどの「ヒューマンエラー」や「手戻り」を減らすことにもなり生産性を大幅に向上させた。

このシステムは国土交通省が建設現場の革新的な取り組みを表彰する「令和3年度 i-Construction大賞で、i-Construction推進コンソーシアム会員の取組部門で優秀賞を受賞した。

清水建設の新横浜駅での取り組みは「デジタルツールをフル活用した現場管理の可視化・高度化」として、国土交通省の「令和3年度 i-Construction大賞」で優秀賞を受賞した
清水建設の新横浜駅での取り組みは「デジタルツールをフル活用した現場管理の可視化・高度化」として、国土交通省の「令和3年度 i-Construction大賞」で優秀賞を受賞した

「日々、進化するBIMやゲームエンジン、スマホなどの技術をキャッチアップしながら、引き続き現場の生産性向上を進めていきたいと思います。今後は自動巡回ロボットや自律飛行ドローンによる遠隔管理も検討しています」と、佐竹氏は抱負を力強く語った。

清水建設 土木技術本部イノベーション推進部 副部長の柳川正和氏(左)と、現場所長を務める清水建設 土木東京支店の佐竹省胤氏(右)
清水建設 土木技術本部イノベーション推進部 副部長の柳川正和氏(左)と、現場所長を務める清水建設 土木東京支店の佐竹省胤氏(右)