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株式会社不動テトラ
BIM/CIMは施工管理業務の一環 現場主導で全面展開へ

不動テトラが国土交通省の BIM/CIM 原則適用に呼応するように、BIM/CIM の活用方針を「現場主導」に切り替えた。土木事業本部技術部設計課に所属する小林純 CIM/ICT プロジェクトチーム座長は「最前線を担う工事部が主体的になることで、現場目線の BIM/CIM 活用を拡大し、現場のデジタル化をけん引していく」と語る。目線の先には、国交省が掲げる i-Construction 2.0 への対応がある。同社の歩みに追った。

現場の初採用は 2015年
現場の初採用は 2015年

2024 年 3 月期から 3 カ年の中期経営計画では、成長への事業戦略として、DX(デジタルトランスフォーメーション)ソリューションによる生産性向上を重点テーマの 1 つに掲げた。小林氏は「DX の基盤は BIM/CIM データであり、現場主体の流れを確立し、社としての活用ステージを押し上げる」と説明する。

同社が BIM/CIM 活用に取り組んだのは 2015 年にさかのぼる。中部地方整備局岐阜国道事務所の施工者希望型 CIM 試行案件に指定された橋台工事が初採用となり、斜杭の杭頭鉄筋とフーチング鉄筋の干渉チェックに 3 次元モデルを活用した。

担当した小林氏にとっても初の試みだった。外部の 3 次元 CAD 研修を受講し、オートデスクの BIM/CIM ツールの基本操作を学んだ上で果敢に挑んだ。これを足がかりに 3 次元モデル活用の手頃な案件を選びながら、社としての対応力を引き上げてきた。原則適用前の 22 年度末までの実績は累計で 10 件ほどに達した。「各工事事務所で BIM/CIM の要求内容が異なるため、同業他社の事例を参考にしながら、臨機応変に取り組んできた」と振り返る。

現場の初採用は 2015 年
現場の初採用は 2015 年

社内の BIM/CIM 推進も初案件のタイミングに合わせ、新技術プロジェクト(現・CIM/ICT プロジェクト)チームを組織し、各拠点の技術室と連携しながら取り組んできた。原則適用が始まる 23 年度からは導入現場が増加することを踏まえ、最前線の現場を担う工事部が主体となり、技術部は後方支援する体制に切り替えた。23 年 10 月には工事部に DX 推進課を発足し、BIM/CIM を含む DX ソリューションの本格活用にかじを切った。

現在、国交省直轄工事を含む 5 現場で BIM/CIM 活用工事が進行中。活用工事以外で自発的に BIM/CIM に取り組む案件も含めれば、全国で 15 現場ほどに達する。DX 推進課が現場の窓口となり、技術部開発課と連携しながら現場の BIM/CIM 活用を後押ししている。土木事業本部技術部の山崎真史副部長は「これまで進めてきた技術部主導の体制では BIM/CIM 活用工事の増加に対応し切れない。何よりも最前線の現場が先頭に立つことが現場のデジタル化を底上げする原動力になる」と強調する。

施工要員は約 160 人体制。BIM/CIM 活用現場が着実に増えてはいるが、まだ全体に浸透していない。小林氏は「工事部の戸惑いはあるももの、経験者が増え、彼らが水平展開する流れが広がり始めたことで、意識も変わり始めている」と手応えを口にする。社の方針として BIM/CIM 活用工事を「施工管理業務の一環」と明確に位置付けたこともターニングポイントになった。

現場を運営しながら BIM/CIM 担当者をいかに育成していくか。山崎氏が「現場向けの育成制度を構築し、その成果をきちんと見える化する流れも構築した」と説明するように、同社独自の試みも動き出した。

BIM/CIM 活用ロードマップ
BIM/CIM 活用ロードマップ

工事部所属で数ヵ月かけスキル習得/現場所長の講習もスタート

不動テトラでは、現場担当の BIM/CIM スキル向上を目的に「CIM 育成要員」という独自の人材育成を試みている。工事部所属のまま、社内で数カ月にわたって BIM/CIM 関連スキルを習得させ、現場に戻った後には BIM/CIM の推進役として活動してもらうことが狙いだ。

BIM/CIM 人材の育成を統括する小林氏は「現場業務と BIM/CIM スキル習得の両立は難しい。BIM/CIM に専念できる環境を与えることが欠かせない」と導入の背景を語る。同社は国土交通省の BIM/CIM 原則適用を機に BIM/CIM の主体を従来の技術部から最前線の工事部に切り替えた。現場担当の BIM/CIM スキル向上が定着のカギを握ることから、原則適用前の 2022 年度から CIM 育成要員の取り組みをスタートさせた。

1 期は 3 人、2 期は 5 人、3 期の 24 年度は 3 人を選抜する予定だ。1 期生は BIM/CIM の外部研修で、社内標準に位置付けるオートデスクの BIM/CIM 関連ツールの基本操作を習得し、2 期生からはオートデスクの情報サイト『BIM design』に掲載している教材を使い、現場にいながら各ソフトの操作ポイントを学ぶスタイルに切り替えた。自らが担当する現場の 3 次元モデル化や AR(拡張現実)技術を使った現場の見える化など、実践トレーニングにも挑戦し、現場での活用スキルを徹底的に磨く。

当時、東京本店土木工事部工事課に所属していた 1 期生の内池聖享氏は「集中して BIM/CIM スキルを一通り学ぶことができた。今では現場の合意形成ツールとして BIM/CIM をフル活用している」と語る。研修時には交差点内の特殊人孔を施工する現場を対象に、4 方向からの枝線接続を把握するための 3 次元モデルを 2 日間で仕上げた。施工ステップを見える化し、工事関係者との合意形成が円滑化する成果につながった。

育成期間は半年間を基準にしているが、所属現場の進捗に応じて期間を短くせざるを得ない場合もある。現場の特徴も異なることから、所属現場で役立つ最善のプランを組んでいる。育成メンバーには各拠点で毎月開かれる所長会での成果発表をゴールとしており、それによって所長クラスがBIM/CIM の有効性を知るきっかけにもなっている。

今年の 3 月と 4 月には、現場管理者(現場所長、工事部課長)を対象とした CIM マネージャー講習もスタートした。2 回で計 50 人が受講した。BIM/CIM の基礎を学び、社内の実施例を題材に導入効果や見積りの作成方法などを共有した。講師を務めた小林氏は「BIM/CIM 活用の経験によって理解度は異なる。自主的に 2 回参加した所長もおり、理解を深めたいという前向きな意識を感じた」と振り返る。

現場管理者対象の CIM マネージャー講習
現場管理者対象の CIM マネージャー講習

グループ会社から BIM/CIM 導入を前向きにとらえたいという動きも出てきた。高橋秋和建設(秋田市)には今年 2 月に 2 日間にわたって CIM マネージャー講習と BIM/CIM ソフト実演講習を実施した。原則適用を背景に「グループを挙げて BIM/CIM 活用が進み出した」と手応えを口にする。

BIM/CIM 活用を現場主導に切り替えた不動テトラでは、これまで技術部が担当していた現場完了後の BIM/CIM 実施報告書の作成についても、現場の役割になった。山崎氏は「最前線の現場が主体となり始め、技術部は支援役としての色合いが強まってきた」と実感している。呼応するように現場の BIM/CIM 活用は高度化し、それが生産性向上の成果につながり始めている。

人材育成の概要
人材育成の概要

i-Con 2.0見据えた現場展開/技術部開発課の存在感に高まり

不動テトラでは、現場主体の BIM/CIM 活用にかじを切る中で、その支援役を担う土木事業本部技術部開発課の存在感も高まり始めた。開発課メンバーが現場支援ツールの開発を推し進め、それをきっかけに現場の BIM/CIM 活用がまわり始めるケースも着実に増えている。

スマートフォン『iPhone』の機能として、レーザー光で離れた場所にある物体の形状や距離を測定するリモートセンシング技術「LiDAR」を使った土量の簡易把握ツールもその 1 つだ。取得した地形データと BIM/CIM モデルと組み合わせることで、工事範囲の断面図を作成し、そこから土量計算が可能になり、出来形管理の活用にも期待できる。

担当した開発課の阿部喜生氏は「現場がより効率的に作業できるツール開発に今後も取り組んでいきたい」と語る。LiDAR 活用はトンネル工事でも有効と考え、電波を拾えない坑口内利用の課題を、中継基地局を置くことでクリアし、計画と実作業を比較検証する見える化ツールとして検証を始めた。

このように社内では開発課の担当者が開発した現場向け便利ツールを現場に情報共有しながら普及を図る流れが定着しつつある。「現場と密に情報交換することで、現場の創意工夫を逆にシステムとして実現することもわれわれの役割」と強調する。現場主体の BIM/CIM に切り替えたことで、技術部開発課との社内連携がこれまで以上に広がってきた。

時間外労働時間の上限規制が始まり、現場もその対応が強く求められている。CIM 育成要員の第 1 期生として現在は現場で BIM/CIM の推進役を担う土木工事部 DX 推進課に所属する内池氏は「BIM/CIM は業務の負担ではなく、有効に使うことで合意形成が早まり、それが業務の効率化につながる」と受け止めている。

同社が現場主体の BIM/CIM 活用を推し進める先には、国土交通省が掲げる i-Construction 2.0への対応がある。i-Con 2.0 では 40 年度までに建設現場のオートメーション化を実現し、23 年度比で 1.5 倍の生産性向上、3 割の省人化を目指しており、受注者側の生産改革が目標達成の原動力になる。

山崎氏は「当社が進める現場主体の BIM/CIM 活用は、ICT 施工への展開を見据えている」と強調する。同社がオートデスクの BIM ソフト『Revit』で作成した地盤改良モデルに、ビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を使って関連属性情報付与の自動化システムを作成したのは 2 年前。担当した小林氏は「これを発展させた最新の取り組みは i-Con 2.0 につながる事例」と力を込める。

新たな試みは盛り土の品質管理帳票作成を自動化するもので、盛り土モデルに ICT の log データを連携し、BIM/CIM 設計ツール『Civil 3D』上で締め固め機械の走行軌跡、転圧回数を描画する。プログラムはほぼ完成しており、「これから盛土の実稼働現場へのトライアルを始め、現場施工にマッチしたプログラムのカスタマイズを図っていく」と明かす。

盛土 BIM/CIMモデルの自動化
盛土 BIM/CIMモデルの自動化

同社は、オートデスクの BIM/CIM ツールを自由に活用できる AEC コレクションを 80 ライセンス確保し、23 年度からは建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』のワークフロー管理ツール『Docs』を 200 ライセンス追加した。「現場主体の BIM/CIM 活用によって関係者の情報共有が加速し、対象案件では Docs が欠かせなくなる」(小林氏)。同社では BIM/CIM による現場改革が動き出そうとしている。

左から内池氏、小林氏、山崎氏、阿部氏
左から内池氏、小林氏、山崎氏、阿部氏

(本記事は建設通信新聞のシリーズ連載「BIM/CIM 未来図」からの転載になります)