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株式会社キタック
DX 基盤に 3 次元設計組織確立 業務に新たな付加価値

キタックが BIM/CIM の導入を出発点に、3 次元設計組織への進化を始めた。中山正子社長は「エンジニアがアイデアを広げていく道具」と BIM/CIM を位置付け、3 次元設計スキルの向上に大きくかじを切った。個の能力向上に合わせ、業務の進め方も変わろうとしている。若手社員が軸となり、BIM/CIM への対応力を引き上げる同社は、どのような進化の道筋を描くか。最前線を追った。

同社の BIM/CIM 対応は、社を挙げて取り組む DX(デジタルトランスフォーメーション)と密接につながっている。DX の基盤として紙の管理を電子情報化し、電話やメールをチャット、情報管理を個人中心からデータ中心に切り替えるとともに、BIM/CIM を含むデジタル活用の支援組織として IT プロモーティングセンターを発足したのは 4 年前のことだ。

同センターは、道路・構造部、水工・砂防部、環境技術センターの各技術部門を IT でつなぐことが役割。BIM/CIM の先導役を担う門口健吾道路・構造部長は「IT を使う目的を理解し、日常的に無理なく取り組めるデジタル環境を整備することで組織力を発揮していく。BIM/CIM の推進に先んじて DX 環境を整えてきた」と強調する。

同社は、国土交通省の BIM/CIM 原則適用を見据え、2016 年から設備投資にかじを切った。主力ツールにオートデスク製品を位置付け、土木設計ソフト『Civil 3D』や BIM ソフト『Revit』など BIM/CIM 関連ソフトを自由に利用できるパッケージ製品『AEC Collection』に加え、建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』の導入にも踏み切った。

17 年から 3 年間かけて導入基盤を整えた上で、20 年からは BIM/CIM の人材育成に乗り出し、業務でチャレンジさせながらスキルを磨いてきた。設計業務の導入実績は累計で 50 件を超える。中山社長が「エンジニアの知識や知見をデザインに詰め込むことを重要視している」というように、同センターは「社内外のシンクタンク的な役割」としても活動を始めた。

4 月 1 日付でセンター内に置く BIM/CIM 推進課を、デジタルイノベーション課に刷新したのも、導入件数が積み上がり、より効果的な BIM/CIM 活用に踏み出す新たなフェイズに入ったことが背景にある。池田真彦デジタルイノベーション課長は「導入割合が設計業務全体の 3 割程度まで拡大している。各部門の成果を水平展開し、業務の新たな付加価値づくりを支援していくことがわれわれの使命」と強調する。

国交省の BIM/CIM 原則適用から 1 年が経過した。同社が目指す到達点は、3 次元設計組織の確立だ。現在の建設コンサルタント分野では 2 次元設計を進めながら最後に 3 次元モデル化する"後付け"の対応が広がっている。門口氏は「設計着手時から 3 次元設計を進める流れを確立し、蓄積した BIM/CIM のデータを業務の新たな価値として最大限に利活用していく」と力を込める。

社を挙げて取り組む人材育成も単なるツール操作のスキルアップを前提にしていない。BIM/CIM を有効に使いながら「エンジニアとして成長していく」道筋を描こうとしている。23 年からは社内資格の BIM コーディネーター認定制度もスタートし、呼応するように BIM/CIM を軸に業務の進め方も変わり始めた。

砂防堰堤 3次元モデル
砂防堰堤 3次元モデル

業務をアップデートできる人材/社内資格で提案力の強化

3 次元設計組織の確立を目指すキタックが、2023 年から運用を始めた社内資格の BIM コーディネーター認定制度は、講座や実習による計 38 時間のカリキュラムを通し、BIM/CIM の基本概念から実務への展開まで幅広く習得させ、最終的に 3 つのランクに区分けして資格を付与している。

池田氏は「国土交通省の BIM/CIM 原則適用に合わせるのではなく、よりグローバルな視点で取り組む意味を込め、あえて名称を BIM コーディネーターとした」と説明する。資格者は各分野のBIM/CIM の中核となり、作業量の把握や関係者との調整役を担うだけでなく、人材育成の推進役も担う。「実務に応じてワークフローをアップデートできる人材を育てていく」と強調する。

カリキュラム一覧
カリキュラム一覧

23 年の第 1 回認定試験には中堅社員を中心に 12 人が参加した。このうち、BIM/CIM 推進の担い手となるランク I は 9 人、社外提案力や受注力強化を実現するランク II は 2 人となり、教育の計画や経営戦略の立案にも後援できる最上位のランク III には池田氏が唯一認定された。

中山社長は「特に重要視しているのは業務の中で BIM/CIM を使って改善提案ができるランク II の資格者」と説明する。第 2 回認定試験では各分野の業務をけん引する課長クラスからの受講を増やす計画だ。認定条件には業務での活用実績を設けているだけに、ランク II の拡大が「業務件数の増加を後押しする」期待があるからだ。

第 1 回認定試験でランク I 資格を獲得したデジタルイノベーション課の吉田怜央氏は社内の講師を務める中で「BIM/CIM の本質を理解し、業務の改善につなげていきたいという前向きな意識が社内に広がっている」ことを実感している。資格制度の創設に呼応するように、BIM/CIM 活用では施工時の状況を想定しながら設計変更に結び付ける成果が増え始め、優良表彰を受賞した業務も出てきた。

教育カリキュラムはオートデスクが提供する『Civil 3D』『Revit』『Inventor』『Navisworks』など各ツールのトレーニングテキストを使うが、必要な追加項目については常に更新しながらより使い勝手の良いテキストにブラッシュアップしている。池田氏は「業務に合わせてより効果的にソフトを使うためにカスタマイズも必要になり、設計者自らがシステム開発するスキルも重要になってくる」と付け加える。

社内の BIM/CIM 活用が進展する中で、門口氏は「まずは各課で最低 1 人は 3 次元設計に取り組む人材を確保する」と先を見据えている。ランク II 資格者の増加に伴い、今後は「業務で BIM/CIM を使った改善提案が活発に出てくる。個のスキルが全体的に底上げされることで、これからの当社は蓄積したデータを利活用する新たなステージに入る」と強調する。

BIM/CIM に先んじて取り組んできた社内の DX では、BIM/CIM データを円滑に共有するための環境整備を整えてきた。蓄積データを有効に活用する手段として、業務の自動化にもチャレンジする方針だ。その基盤としてオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を位置付け、同時に関係者の円滑な情報共有を見据え、データ格納時の厳密な社内ルールも整えた。

現場管理者対象の CIM マネージャー講習
現場管理者対象の CIM マネージャー講習

統合モデル化にCDEの構築/若手社員が推進の原動力

キタックは、BIM/CIM データの共有基盤に、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を位置付けている。全プロジェクトの業務情報管理は ACC のワークフロー管理ツール『Docs』、複数の関係者が集う業務には共同設計ツール『BIM Collaborate』を使い、社としての CDE(共通データ環境)を構築している。

門口氏は「ACC の中でデータの作成や閲覧を円滑に進めるため、格納データのファイル名を統一化している。フォルダーの構成を明確化しなければ、データの利活用は実現しない」と説明する。近年は同業他社が作成した BIM/CIM データも含めて統合モデル化の業務も増え、効率的に作業を進める枠組みとして CDE の構築が不可欠になっている。

NEXCO 中日本の新設ジャンクション工事では、同社が地質モデルの作成とともに、他社が作成したランプ橋モデルとの統合化にも取り組んだ。これまではオートデスクの統合管理ツール『Navisworks』を使ってきたが、統合ファイル数が 90 近くに達し、それらを合理的に統合化するため、社として初めて BIM Collaborate をフル活用した。

NEXCO 中日本の新設ジャンクション工事で取り組んだ統合モデル
NEXCO 中日本の新設ジャンクション工事で取り組んだ統合モデル

Navisworks は一つひとつ作業しながらデータを統合化する必要があるが、BIM Collaborate は一括で統合作業が完了し、大幅な業務の効率化に結び付く。吉田氏は「新設ジャンクションの約 90 ファイルをわずか 5 分で統合モデル化した」と説明する。

特に道路関連の BIM/CIM では、橋梁やトンネルなどの構造物もあり、細かな部品類も含め 3 次元モデル化が求められる。道路構造部の澁谷卓見道路課長は「発注者協議だけでなく、これからは 3 次元納品時にも統合モデルの対応が必要になるだけに、BIM Collaborate が有効なツールになる」と強調する。設計者と施工者が連携して取り組む ECI(施工予定技術者事前協議)プロジェクトも増加しており、統合モデルのニーズは高まりを見せている。

既にほぼ全ての業務で BIM/CIM を活用する砂防関連では、事業全体を把握するツールとして Navisworks を活用してきた。水工・砂防部の飯澤周佑防災課長は「設計時に地形と地質それぞれのデータを作成しており、業務ではそれらモデルの統合化をより迅速に進める必要がある。発注者へのイメージ共有も強く求められることから BIM Collaborate の活用は今後さらに拡大していく」と考えている。

社内に BIM/CIM の活用が着実に広がる中で、中山社長は「頭のイメージを具現化できる部分に BIM/CIM の価値がある」と実感している。社内報告会では若手社員が活用事例を積極的に発表する姿がある。「当社では 20 代、30 代の社員が先頭に立ち、前向きに楽しみながら BIM/CIM をけん引している」と手応えをつかんでいる。

10 年前に 50 歳を超えていた同社の平均年齢は現在 42 歳。今春の新卒採用で 7 人を迎え入れたように、近年は一定程度の採用数を確保し、同時に中途採用にも力を注いできた。門口氏は「当社では若い世代が当たり前のように 3 次元を使いこなす。一人前の土木エンジニアになるまでの年月は大幅に短縮することだろう」と期待をのぞかせる。3 次元設計組織への改革は、若手のボトムアップが原動力になり、組織の歯車がかみ合い始めた。

左から飯澤氏、吉田氏、門口氏、中山氏、池田氏、澁谷氏
左から飯澤氏、吉田氏、門口氏、中山氏、池田氏、澁谷氏

(本記事は建設通信新聞のシリーズ連載「BIM/CIM 未来図」からの転載になります)