片平新日本技研が BIM/CIM データの利活用に向けた階段を着実に上っている。2024 年に BIM/CIM の社内資格を創設し、 今年 1 月からは共通データ環境(CDE)基盤の確立に向けて、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』の全面導入にも踏み切った。同社の BIM/CIM データ活用はどこに向かおうとしているのか。道筋を追った。
17 年 8 月に片平エンジニアリングと新日本技研が合併した同社は、当初から 3 次元モデルの活用に力を注いできた。技術提案や施主との合意形成に向けたプレゼンテーションツールとして 3 次元モデルの優位性を両社それぞれが実感していたこともあり、合併に合わせて「技術支援室」を発足させるなど、3 次元モデル活用に向けた推進体制を整えてきた。
20 年 12 月には技術支援室の役割を発展、進化させる形で「イノベーション・ラボラトリ(イノラボ)」を設置した。発足時からイノラボ長を務める伊藤亜生取締役は「BIM/CIM 推進に加え、VR(仮想現実)や AR(拡張現実)といった現実世界と仮想世界を融合させる XR(あらゆる仮想空間技術)などの最新デジタル技術を網羅的に先導する組織として活動している」と説明する。
道路・橋梁分野専門の建設コンサルタントとして、55 年の歴史をもつ同社は、国と NEXCO からの業務が全体の 8 割にも及ぶ。23 年度から国交省は BIM/CIM の原則適用に踏み切り、今年 7 月からは NEXCO 中日本が先行して全面適用に移行するなど NEXCO 各社も BIM/CIM の導入を推し進めている。「原則化の流れをきっかけに BIM/CIM への社内意識は確実に高まっている。提案時には何らかの BIM/CIM 活用ができないかを検討する流れが社内に定着しつつあり、それがイノラボへの相談という形で増加している」と付け加える。
イノラボは現在 6 人体制。BIM/CIM 推進の中心的役割を担う上田啓一郎副ラボ長が軸になり、各支店からの相談を受けてモデル作成やプロポーザルの提案づくりを支援している。原則化をきっかけに相談件数は増加しており、現在は月 4、5 件に達するという。当初はイノラボが全面的に支援してきたが、BIM/CIM に対応できる人材が各支店にも増えつつあり、現在は支店への後方支援を担うケースも目立ち始めている。
伊藤氏は「最前線の支店が自ら BIM/CIM に取り組むことが重要であり、個のスキルアップに結び付く手段として BIM/CIM の社内資格もスタートした」と説明する。筆記と実技試験を設け、合格者には「コーディネーター」「インストラクター」「モデラー」の称号を付与する。業務で 3 次元を手掛けている人材だけでなく、3 次元に興味を持つ人材も対象にしており、初年度は受験者 12 人中 7 人が合格し、うち 1 人がコーディネーター、6 人がモデラーの資格を得た。
社内では中国支店が先導するように BIM/CIM の利活用が進んでいる。国の道路設計業務で名古屋支店が 3 次元モデル化によって各工事区間の進捗管理を行う業務に取り組むなど、他の支店でも BIM/CIM データの活用が徐々に広がっている。佐藤文彦執行役員道路部門長兼企画部長(取材当時)は「資格制度というスキル向上の基盤を設けたことで、最前線の人材だけでなく、組織を統括する部署長クラスがその背中を押す流れになってきた」と実感している。
2024 年度から BIM/CIM の社内資格をスタートした片平新日本技研では、BIM/CIM データ活用に向けた技術者の前向きな意識が芽生え始めた。資格では最上位の「コーディネーター」、指導役の「インストラクター」、先導役の「モデラー」という 3 つのランクを位置付けている。伊藤氏は「特に CAD オペレーターの意識が変わり始めている」と説明する。
国土交通省の BIM/CIM 原則化を背景に、CAD オペレーターの中には「自らのスキルを磨き、次のステージを目指していきたい」という前向きさが広がっている。佐藤氏は「資格取得を給与や人事制度とも連動させたことで、スキルアップの目標として資格を位置付ける流れになっている」と強調する。
資格を 3 ランクに区分けしたことも、社員に順を追ってスキルアップしてほしいとの思いからだ。伊藤氏は「現在はイノラボが支援組織として各支店の相談を受けながら BIM/CIM を推進しているが、今後は各支店の資格者が BIM/CIM を水平展開する流れになっていくことを目指している。それにより浸透度合いも一気に高まる。何より BIM/CIM を学びたいという人材の成長を後押ししたかった」と付け加える。
課題もある。社内の前向きな意識に応えるために創設した資格制度だが、モデリングなどの指導役が足りない状況に直面している。現在は上田啓一郎副ラボ長を中心にイノラボメンバーが講師役を務めているが、指導役のコーディネーター資格者が育つまでにはまだ少し時間がかかる。オートデスクが提供する BIM/CIM トレーニングのオンライン講座なども積極的に活用しているが、より実務に即したトレーニングを求める声も多い。
資格試験では実技の課題設定に力を入れている。ボックスカルバートを 3 次元モデル化して座標配置や IFC 形式への変換を求めたほか、3 点の座標を基にした線形モデルの作成や橋梁上部工モデル作成に加え、床掘りモデルの数量算出なども設定した。佐藤氏は「実技の設問が偏らないように、各専門分野が対応できるラインアップにした」と付け加える。今年 10 月の第 2 回試験では、受験した 9 人のうち 7 人が合格し、第 1 回目の試験と合わせて資格者は計 14 人となった。
伊藤氏は「まだモデラー資格者のみだが、いずれはこれらの合格者が BIM/CIM 推進のリーダーに成長してほしい」と期待を込める。社内では原則化された国土交通省の業務に加え、NEXCO 西日本などでも BIM/CIM 指定業務が進行中。多くの担当者に BIM/CIM を経験させる手段として、オートデスク製品を 1 日単位で利用できる従量課金制プラン「Flex」を積極的に活用している。
「社内の皆が使えるように Flex を導入した。BIM/CIM を積極的に取り組みたいという担当者にとってはチャレンジしたいときに集中して取り組むことができる。使用頻度を見定めながら、通常のライセンス契約に移行することで、コストバランスを踏まえたライセンス管理も実現できる」と強調する。
今年 1 月からは、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』の導入に踏み切り、ACC共同作業ツール「BIM Collaborate」の包括契約を結んだ。これに合わせるように同社は拠点ごとに対応していた業務の流れに、部門ごとの横串を刺すことで、横断的に対応できる組織に切り替えた。
片平新日本技研がオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を導入したきっかけには、データサーバーの管理が煩雑になっていたことが 1 つの要因であった。保管データが膨大になり、そのバックアップに加え、ランサムウエア対策などもあり、管理費が膨れ上がっていた。
伊藤氏は「ACC は保管データ量が無制限に活用できることから、サーバーの肥大化を抑制できる有効な対策と捉えた。バックアップも安心でき、何よりも BIM/CIM データ活用を関係者間で円滑に情報共有できる使い勝手も魅力だった」と強調する。
これまで同社は、支店ごとに業務を担当する仕事の区分けをしてきた。より組織横断的に業務と向き合う流れをつくるため、部門連携をより強める体制にシフトしつつあり、その情報共有基盤としても ACC が有効に機能するとの判断があった。佐藤氏は「NEXCO 西日本の BIM/CIM 指定業務で発注者から ACC 活用を求められ、その効果を実感していたことも、導入の後押しになった」と明かす。
NEXCO 西日本では、現在 8 カ所を BIM/CIM モデル事務所に位置付けている。このうち同社は和歌山工事事務所で橋梁設計、宮崎高速道路事務所で道路詳細設計を手掛けており、いずれも ACC を基盤に関係者と情報共有をしてきた。両業務の管理技術者を務めた佐藤氏は、名古屋支店の橋梁チームに所属していた 20 代の頃に、CMR(コンストラクションマネージャー)を務めたゼネコンの指示で ACC の前身となるオンラインコラボレーションツール「Buzzsaw」を使った情報共有を経験していた。
「当時、国内初の試みに参加し、担当工区の 6 社と図面共有を進める中で円滑な履歴管理が実現したことを鮮明に覚えている。そうした経験からも ACC の全面展開は、業務円滑化の側面から大きな効果を得ることができるだろう」と期待をのぞかせる。社内が部門連携の流れになれば、本・支店の部門同士で業務をシェアする機会が増え、「組織横断で業務を仕上げる基盤として ACC が有効に機能していく」との思いからだ。
現在、ACC で管理している案件は、新規で受託した NEXCO 中日本の中央自動車道関連の業務にとどまるが、これから新たに受託した業務は全て ACC 上で管理していく流れになる。伊藤氏は ACC のビューア機能が「現代の青焼き」として副次的な効果を生むと考えている。会議テーブルに青焼き図面を広げていた時代は、それを見た通りすがりの役員や社員が担当者に助言する姿が日常的にあった。「デジタル化でクローズしている作業風景だが、ビューア機能を使えば誰もが作業をのぞき見でき、昔のような通りすがりの助言による設計の奥深さや、会社の総力を追求できる機会が出てくる」と考えている。
同社は、ACC 導入を機に、過去の設計成果や関連情報も資産データとして整理していく方針だ。伊藤氏は「当時の基準や設計の考え方もデータとして蓄積できれば、ACC が過去と未来をつなぐ基盤になる」と強調し、佐藤氏は NEXCO の複々線化事業が拡大する中で「ACC に蓄積した当時の情報を参考にすることで、より提案密度を向上させられる」と先を見据えている。BIM/CIM データ活用をきっかけに、資産データを活用する動きも活発化しようとしている。
この事例は2025年11月26日から28日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 片平新日本技研」を再編集しています。