国土交通省が直轄事業で BIM/CIM の原則適用に乗り出し、まもなく 3 年が経過する。最前線では受発注者間でBIM/CIMデータを利活用する動きが着実に広がり始めている。発注者支援業務を手掛ける専業建設コンサルタントにも、BIM/CIM 導入の動きが出てきた。先陣を切るように関東建設マネジメントは、5 年間をかけて BIM/CIM 対応組織へと進化しようと、その一歩を踏み出した。
同社が BIM/CIM 対応にかじを切ったのは 2 年前のことだ。当時、専務だった吉田高樹相談役が「いずれ発注者支援業務にも BIM/CIM スキルが欠かせない時代が来る」と呼び掛けたことが出発点になった。業務効率化と働き方改革を経営の重点テーマに位置付ける中で「BIM/CIM を使いこなすことが新たな価値につながる」と確信し、自ら陣頭指揮をとった。
社を挙げて BIM/CIM に取り組むキタック(新潟市)の中山正子社長を訪問し、BIM/CIM 定着までの道のりを聞くなど、最前線の動きを把握してきた。2016 年から設備投資を始めたキタックでは導入基盤を整えた上で 20 年から BIM/CIM 人財教育を本格化させ、23 年からは独自の社内資格も立ち上げてきた。「エンジニアがアイデアを広げていく道具」に BIM/CIM を位置付ける中山社長の思いに共感するとともに「定着までに少なくとも 7 年はかかる」というアドバイスが、その後の計画づくりの参考になった。
関東建設マネジメントの中に、BIM 技術の業務活用に向けた人財育成のワーキンググループが発足したのは 24 年 8 月のことだ。各支店の積算業務担当者を中心にメンバー 7 人を集めた。国交省では BIM/CIM データ活用の一環として 27 年度までに 3 次元モデルの工事契約図書化、29 年度までには BIM/CIM 積算に乗り出す方針を示している。吉田氏は「国交省の流れを意識しながら 5 年間の育成プランも立案した」と強調する。
育成プランは 25 年度から 29 年度までの期間で、年 20 人のペースで計 100 人を対象に BIM/CIM のトレーニングを実施する。最終的には技術担当者の約 4 分の 1 が BIM/CIM に対応できるような育成計画を描いた。
社内の発表会を開催する中で、既に自主的に 3 次元ツールに取り組む社員が点在していることが分かった。WG のまとめ役を担う企画部企画課の小山和行次長は「社員の中には BIM/CIM を実務の中で生かそうと取り組み始めている動きが着実に芽生えている。私自身も長年、技術者として業務に携わってきた経験から、BIM/CIM の特性を大いに業務の中に生かせるという可能性を感じていた」と強調する。
WG 活動に並行して進めてきたツールの選定も、複数を比較検証しながら最終的にオートデスクの BIM/CIM ツールを導入することを決めた。もともと 2 次元ツールとして AutoCAD を導入してきたこともあり、データ親和性に加え、導入に向けたオートデスクとパートナーによる利活用促進への支援体制も決め手になった。
25 年 10 月から、初年度の習熟フェーズがスタートし、ハンズオン形式での自習・習得が進行中。土木設計ツール『Civil 3D』やレビューツール『Navisworks』、コンセプトデザインソフト『InfraWorks』などを活用した3次元モデル作成に加え、IFC データ出力や属性付与といった実務スキルの定着を月 1 回のペースで図っている。3 月末に 4 回目を実施し、4 月には最後となる 5 回目の研修を行う予定だ。
関東建設マネジメントでは、2025 年度から 5 年間で計 100 人の技術者を対象とした BIM/CIM トレーニングをスタートした。初年度の受講者は 20 人。このうち 7 人は BIM/CIM 技術の業務活用に向けた人財育成のワーキンググループに参加するメンバーとなり、残り 13 人は BIM/CIM に興味をもつ人財を社内から公募した。
ワーキンググループのまとめ役を務める企画部企画課の小山氏は「20 代と 30 代が中心だが、実は 50 代の技術者 2 人が手を挙げてくれたことが、今後の組織運営上で良い効果をもたらすだろう」と期待している。若手技術者は BIM/CIM という新たな設計のやり方には順応しやすいが、技術者としては業務経験がまだ浅い。業務経験が豊富なベテラン技術者がトレーニングに参加してくれたことで「実務に当てはめながら BIM/CIM を効果的に活用する経験者ならではのアイデアをもらうことができる」からだ。
吉田氏も「ベテラン技術者は BIM/CIM の動きに対して危機感を強く持っている。仕事そのものを熟知しているだけに、業務を効率化する上でのポイントを見定めながら、BIM/CIM を効果的に活用していきたいという思いが人一倍強い。社を挙げて 5 年間のトレーニングに乗り出したことで、社内の BIM/CIM に対する意識付けもより強まっている」と受け止めている。
同社は、国土交通省関東地方整備局が管轄する東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬、山梨、長野の 1 都 8 県で活動しており、受託業務の 9 割は発注者支援業務が占めている。原則適用からまもなく 3 年が経過する中で、近年は受注者が自主的に BIM/CIM に取り組むケースが少しずつ増えており、それに連動するように発注者支援業務でも BIM/CIM に対応せざるを得ない状況が広がる可能性がある。
発注者側も、BIM/CIM に対して前向きな担当者からは、施工状況を見える化してほしいというような要望が出始めている。社内で定期的に開いている発表会の場で BIM/CIM への対応事例が増えているのも、そうした BIM/CIM に対する受発注者間の変化が広がりつつあるからだ。
国交省では、27 年度までに 3 次元モデルの工事契約図書化、29 年度までには BIM/CIM 積算に乗り出す方針を示している。吉田氏は「間違いなく発注者支援業務における BIM/CIM データの活用ニーズは今後さらに高まるだろう。当社としても BIM/CIM 普及に向けて、使命感を持って下支えしていきたい」と強調する。
同社に限らず建設コンサルタント分野では 30 代から 40 代の中堅技術者が不足している。次代を担う若手技術者と、最前線を支えるベテラン技術者をつなぐ中間層不足を補う手段として「技術伝承の視点からも BIM/CIM が有効に機能する」と、両氏は口を揃える。BIM/CIM を活用してベテラン技術者のノウハウをデジタル化する試みも模索し始めた。
同社が展開する 5 年間の人財育成でも年度ごとに目的を持って、トレーニングを位置付けている。初年度は積算対応研修、26 年度は工事監督支援対応、27 年度は管理業務対応などに力を注ぐ。導入を決めたオートデスクの BIM/CIM ツールでは土木設計ツール「Civil 3D」の基礎を学んだ上でモデル編集、干渉チェック、施工ステップなどを習得する計画だ。統合モデル管理や、国交省で導入検討が始まった CDE(共通データ環境)活用なども習得し、BIM/CIM ニーズに幅広く対応できる人財を育成する。
関東建設マネジメントは、オートデスクが 2025 年 9 月に米国テネシー州ナッシュビルで開いた国際カンファレンス「Autodesk University(AU)」に 2 人の技術者を派遣した。AU はオートデスクのユーザーが集うイベントで、世界各国から 1 万 2000 人が訪れ、日本からは約 300 人が参加した。
BIM データ活用の最新事例に触れた 2 人は、発注者支援業務を展開する上で「これまでのように発注者の動向を受け身で追うのではなく、発注者の一歩先を進み、BIM/CIM の推進役として積極的に先導することが、社としての競争力にもつながる」と社内に報告した。同行したオートデスク関係者から「発注者支援業務が発注者のかじ取りとなるよう、効果的に BIM/CIM を活用すべきとの貴重なアドバイスを得た」ことも成果の 1 つとなった。
「最先端の動きを水平展開してもらったことが社内の大きな刺激になっている」と、吉田氏は捉えている。自身が専務時代に BIM/CIM の可能性を社内に伝え、それがきっかけになって人財教育が動き出した。「当時から伝えてきたことは目的が何かをしっかりと意識して取り組むことであり、われわれの強みである発注者支援業務をより高度化するためにも、BIM/CIM への対応力を着実に磨いていく必要がある」と力を込める。
育成ワーキングのまとめ役を担う企画部企画課の小山氏も同調する。「国土交通省が検討を始めた頃から、いずれ BIM/CIM の時代が来ると感じていた。測量分野でも 3 次元計測の流れが一気に進展している。いかにデジタルデータを利活用してより効率的に発注者の支援ができるか、われわれ自身が先導していくことで、それが新たな強みになる」と考えている。
既に最前線の支店では、担当者が自発的に BIM/CIM に対応している。技術者だけでなく、CAD オペレーターの中にも前向きに取り組む姿がある。25 年度に BIM/CIM トレーニングを受けている 20 人のうち 2 人は CAD オペレーターからの参加となった。「前向きにスキルを磨きたいという意識が組織の力になる」と両氏は強調する。
何よりも重要視しているのは、若手とベテランの融合だ。20 代と 30 代の若手技術者は BIM/CIM を学びながら仕事を覚えていく。50 代のベテラン技術者は BIM/CIM を習得しながら業務を通じて若手の指導役を担う。小山氏は「その相乗効果によって、BIM/CIM の流れを引き上げていきたい」と先を見据えている。26 年度の BIM/CIM トレーニングも 20 人を受講対象に位置付けている。吉田氏は「それ以上に手を挙げてくる技術者が出てくるかもしれない」と期待している。今後は受講者が講師役として教育係を担う場面も想定している。
この 7 年で同社は組織規模、売り上げとも 5 割増の成長を遂げている。新卒者は年 10 ペースで採用し、中途社員は 7 年間で約 140 人を数える。これからは土木分野だけでなく、IT スキルをもつ人財の採用も推し進める方針だ。BIM/CIM 対応人財を 29 年度までに 100 人育成する計画をもつ同社では、組織としての BIM/CIM 対応力を高めることで、受注件数ベースで年 10 %増、技術伝承の仕組み化による教育コストも年 20 %の削減を見込めると試算している。同社は BIM/CIM を足掛かりに、成長への力強い一歩を踏み出した。
この事例は2026年3月2日から4日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 関東建設マネジメント」を再編集しています。