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中日本高速道路株式会社
BIM/CIM全面適用が起点/効率化、高度化、省人化へ

NEXCO 中日本が 2025 年 7 月から BIM/CIM の全面適用に乗り出した。社を挙げて全面展開する i-Construction の実現に向け、BIM/CIM への対応はデータ連携のオートメーション化を見据えた重点テーマであり、高速道路事業における生産性向上を実現するためのデータ基盤を担う部分だ。同社は BIM/CIM をどう位置付け、どのような道筋で定着しようと考えているか。そこには、明確な目的と狙いがある。

「まだ登山道の入り口に足を踏み入れたところで、これから受発注者が密に連携しながら頂上を目指していく」。BIM/CIM 推進役の 1 人、石田篤徳技術本部環境・技術企画部技術企画課専門副主幹(インフラ DX 担当)はしっかりと先を見据えている。BIM/CIM は生産性向上の実現に向けたi-Conの重点テーマとして ICT 施工、遠隔臨場・プレキャスト化とともに柱の 1 つに位置付けている。

同社は生産性向上への道筋として、25 年 7 月の BIM/CIM 全面適用を起点に、高速道路事業における一連の建設生産・管理システムを「効率化」「高度化」「省人化」していく青写真を描く。30 年度までは高度化や省人化を目指しつつも、効率化を主眼に取り組む方針を掲げる。

30 年度までは高度化や省人化を目指しつつ効率化に取り組む
30 年度までは高度化や省人化を目指しつつ効率化に取り組む

石田氏は「目的をしっかり決めなければ焦点が定まらず、その成果が組織力につながらない。まずは効率化する部分に注力し、受発注者それぞれが成果を実感することを優先していく。全体としてきちんと効率化した上で高度化、省人化にステップアップしていきたい」と説明する。蓄積したデータを AI やロボットによる自動化につなげるためにも「BIM/CIM の定着は欠かせない」と付け加える。

BIM/CIM の全面適用は、同社にとって「データ連携のオートメーション化」につながる重点テーマになる。それを実現するための施策として位置付けるのが「デジタル化」「3 次元モデル」「共通データ環境(CDE)」の 3 点だ。これらはプロジェクト関係者間で情報を共有しながら、書類作成や現場管理・検査などを効率化する上で欠かせない。

同社はオートデスクの「Forma」を CDE プラットフォームとして位置付け、受発注者間の情報共有を Forma 上で行う枠組みに移行した。これまで受発注者はメールや電話などによって情報のやり取りをしていた。それらを CDE に統合することで、情報共有の記録が全て保管できる。同社では担当者の異動も多く、そのたびに後任への密な情報伝達が必要だった。「過去の経緯や情報が CDE の中に残り、それを確認すれば異動に伴う引き継ぎの面でも大きな効果を生む」と考えている。

同社が生産性向上の実現に向けて効率化、高度化、省人化を段階的に推し進める上で、CDE プラットフォームは欠かせないデータ共有基盤になる。BIM/CIM の全面適用前に各支社や事務所の担当者を対象に説明会を開いたのも「まず CDE を使う意識を持つことから始めてほしい」という思いからだ。

全面適用前に社内説明会
全面適用前に社内説明会

石田氏は「大切なのは自分事として業務の在り方を変える意識を持つことであり、そのためにもまず身近なところからデジタルデータに慣れていく。それが生産性向上への出発点になる。デジタル化へのマインドチェンジが CDE を使う流れをつくり、情報共有の在り方も変わるきっかけになる」とポイントを絞り込む。

受発注者は CDE を介して情報共有する流れに
受発注者は CDE を介して情報共有する流れに

CDE プラットフォームに Forma/65 %が業務効率を実感

2025 年 7 月に BIM/CIM 全面適用に乗り出したNEXCO 中日本では、同年 8 月と 11 月に受発注者双方に向けた意識調査を実施した。全面適用に際して情報共有の受け皿には CDE(共通データ環境)プラットフォームとしてオートデスクの「Forma」を導入している。その活用状況がどう推移しているかは今後の BIM/CIM 推進に向けた貴重な指標になるだけに、社内では期待を持って見守っていた。

全面適用によって新規で発注する工事や調査などの業務は CDE の活用が前提になるが、既に進行中の工事や調査は受発注者間協議で CDE の利活用を決める扱いになった。同年 8 月の CDE 利用率は 338 件中 132 件(工事 103 件、調査 29 件)の 39 %、11 月は 486 件中 210 件(工事 160 件、調査 50 件)の 43 %となり、利用率は4ポイント増加した。

進行中の案件では「従来のやり方でも支障がない」「業務上の必要性を感じていない」などの理由から、CDE の活用を見送るケースも少なくなかった。これまで受発注者は電子メールや電話で情報を共有してきただけに、これからはそれを CDE 上で行うことへの不安があった。一方で 3 次元モデルなどの大容量ファイルはメールでのやり取りが難しく、ファイル転送サービスなどの方法を活用せざるを得なかったため、CDE 上にアップロードするだけで送付できるメリットを感じている傾向も浮き彫りになった。

石田氏は「BIM/CIM の全面適用から 9 カ月余りが経過し、CDE には着実に情報が積み上がっている。実は CDE 利用者の 65 %から業務が効率化できているとの声があり、BIM/CIM 推進役のわれわれとしても一定の感触を得ている」と説明する。

情報共有における時間削減効果も見え始めている。情報共有の時間を比較検証したところ、1 週間当たりでは CDE の利用者が 198 分であったのに対し、非利用者は 270 分となり、27 %もの時間削減を実現した。データ検索時間も利用者 162 分に対し非利用者は 207 分となり、22 %の削減効果が浮き彫りになった。「BIM/CIM 全面適用に向けて、社内研修に力を注いできた効果も後押ししている」と付け加える。

CDE 利用で 27 %の時間削減が実現
CDE 利用で 27 %の時間削減が実現

社内研修には 20 年度から取り組んでおり、3 次元モデル作成要領の策定など基準類の拡充に合わせて、研修テーマを明確に定めながら実践での活用を意識してきた。24 年度からは CDE の活用を積極的に進めていくためにも、CDE 利活用中心の研修メニューに切り替えた。

25 年度は計 3 回の研修を実施し、受講者は総勢 100 人にも達した。これまでに技術系社員の 4 分の 1 が受講済み。組織として着実に BIM/CIM 対応のスキルを身に付けている。全面適用の前には支社や事務所を対象にした説明会も実施してきた背景には「発注者側が率先して CDE を使いこなし、受注者を先導する流れを整えたい」との思いもあった。

受注者と直接やり取りする担当者だけでなく、マネジメント層にも CDE 活用を促す手段として「CDE 上に集約したデータの状況をリアルタイムにシミュレーションできる BI(ビジネスインテリジェンス)ツールのような見せ方も実現できれば」と、石田氏は先を見据えている。CDE を組織横断で利活用することが業務の効率化、高度化、省人化を実現し、最終的に高速道路事業における生産性向上へとつながる近道であるからだ。

BIM/CIMデータ活用事例が拡大
BIM/CIMデータ活用事例が拡大

発注者主導のデータシェアリング/目線は 30 年度目標の効率化

NEXCO 中日本が BIM/CIM の検討に着手したのは 2017 年のことだ。20 年に i-Construction 導入展開に向けた基本方針を示し、22 年には 3 次元モデル作成暫定要領を策定するなど、着実に BIM/CIM 活用の流れを整えてきた。試行プロジェクトを積極的に展開してきたことで、各支社にも BIM/CIM への取り組み意識が芽生えている。

同社には、興味や関心のある社内の取り組みにチャレンジできる「社内複業」制度がある。石田氏は「東海北陸道を担当する高山工事事務所と、紀勢自動車道を担当する津高速道路事務所から各 1 人が、BIM/CIM の必要性を理解し率先して複業に手を挙げてくれた」と明かす。

東海北陸道では 4 車線化事業に向けた調査が進行中で土質調査の完了を受けて設計段階のフェーズに突入し、BIM/CIM 活用が本格的にスタートした。紀勢自動車道では設計から施工に移行する段階で BIM/CIM データの引き継ぎが進もうとしている。複業を始めた両者からは BIM/CIM 活用状況や課題などを共有してもらい、それを要領の改定などに反映している。BIM/CIM 推進に向けて最前線の現場と一体化した流れも機能している。

「発注者主導のデータシェアリングに対する率直な思いを伝えた」。25 年 9 月に米国テネシー州ナッシュビルで開催された国際カンファレンス「Autodesk University(AU)」で登壇した石田氏は、BIM/CIM 全面適用に際して CDE(共通データ環境)プラットフォームにオートデスクの「Forma」を導入した効果を紹介した。

海外でもインフラプロジェクトに Forma を活用する流れが進展しており、全面適用に乗り出した NEXCO 中日本の取り組みは海外のインフラ事業者からも注目された。受注者が作成する 3 次元モデルは自らの業務や工事を円滑に進めるための手段であり、発注者が必要とするモデルとは異なる場合が多い。それだけに、発注者はどうモデルを引き継いでいくかが課題としてある。

石田氏は「発注者は何のためにモデルを使うか、その目的を明確に位置付けることが重要である。われわれのように高速道路事業全体の生産性向上を目指して BIM/CIM を活用するのであれば、発注者主導の枠組みを構築すべきだ」と訴えた。

先行する海外インフラ事業では維持管理を軸に Forma を活用する流れが着実に広がっており、石田氏自身も AU の参加で「当社が将来的に取り組もうとしている方向性が間違っていない」ことをつかんだ。

同社にとって BIM/CIM 全面適用の最終目標である生産性向上の実現は、建設生産段階だけを見据えてはいない。維持管理段階を含めた高速道路事業全体における生産性向上が最終到達点となる。社内では全社横断で次世代技術を活用した革新的なプロジェクト「i-MOVEMENT」の取り組みが進行中。「この流れに BIM/CIM 活用は密接に連携していく」。現在運用中のRIMS(道路保全情報システム)で規定する構造物などの資産コードを BIM/CIM モデルの属性情報として位置付けているのもその一環だ。

生産性向上の実現に向けた効率化、高度化、省人化への道筋をどう進んでいくか。石田氏は「30 年度の目標達成を位置付ける効率化に対し、受発注者それぞれがきちんとマインドチェンジできるか。この 5 年間が勝負になる」と自らにも言い聞かせる。同社は到達点に向けて着実な一歩を刻み始めた。

石田篤徳技術開発課専門副主幹(インフラ DX 担当)
石田篤徳技術開発課専門副主幹(インフラ DX 担当)

この事例は2026年4月6日から8日までに日刊建設通信新聞で掲載された「連載・BIM/CIM未来図 NEXCO中日本」を再編集しています。